マーケティングアジェンダ2022 レポート #07

A.T.カーニー梅澤氏とファミマ足立氏が語る「観光立国・日本」への道筋とは 【マーケティングアジェンダ2022レポート第4回】

 

富裕層をターゲットに体験コンテンツを開発


足立 具体的に、どのような地域のコンテンツをサポートしているのですか。



梅澤 自然文化観光機構のチームでは、さまざまな地域でコンテンツ開発のお手伝いをしています。野沢温泉ではLIFE FARMING CAMPという1泊2日や2泊3日の体験コンテンツの開発をご支援しました。水と緑が育む野沢の豊かな自然生態系を理解しながら、その土地で育った美味しい野菜を地元のシェフに調理してもらい、焚き火を囲んで緩やかな時間を過ごそうという意識の高いゆったりした旅です。1泊ひとり6万5000円と、キャンピングとして考えると相当高価だと思いますが、かなり人気が出ています。

また、「To Touch the Holy Waters of Kumano」というツアーもあります。熊野古道の周りに、本当に豊かな水のシーンがたくさんあります。その「瀞峡」という日本とは思えないような雄大で美しい渓谷がありますが、ここをSUPで下るという通常では行えない体験を楽しむ。渓谷の川岸で、ミシュラングリーンスターのレストランによるスペシャルディナーとグランピングを楽しむ。そんな魅力的な体験を詰め込んだ3泊4日のツアーを、2人で約100万円という価格で販売しています。

文化や自然を組み合わせながら、とにかく上質な体験を作り、それに見合った価格をもらうことにトライしています。ちなみに、川でのSUP体験の価格は通常数千円ですが、それを積み上げても客単価は1~2万円にしかなりません。そのため、どんな唯一無二の体験に仕立てるか、さらにはミシュランのような格付けも含めてどんな価値付けを行うかが重要になります。そのような工夫が、数万円ではなく数十万円や100万円という体験商品の造成を可能とするのです。


観光コンテンツ開発に様々な形で政府の予算がつけられていますが、そのほとんどが単年度事業です。我々が支援するケースでは、翌年度からは助成金がなくても自走できる事業に育てることを目標に取り組んでいます。事業として立ち上げるにはノウハウ不足で、資金援助だけでは不十分なケースも多いです。各事業の課題を特定した上で、顧客体験の磨き上げ、ウェブサイト制作、SNS運用などテーマごとの専門コーチも派遣して事業立ち上げに伴走しています。
 

法改正をてこにナイトタイムエコノミーを活性化


梅澤 「ナイトタイムエコノミー」は、観光のひとつのテーマだと考えています。日本旅行で不満だった点を挙げてもらうと「英語が通じない」「旅行代金が高い」「通信の問題」「免税制度」などインフラ的な話が出てきますが、ソフト面で唯一指摘されるのが「夜のコンテンツ不足」です。



政治家に話を通すとき「夜の文化、大事ですよね」と言っても、「何それ?」と言われてしまうだけなので、「訪日客の満足度は、昼間から夕食までは高いのですが、その後にやることがないと言われています。オリパラの開催時には特に大きな不満項目となりそうです。どうしますか?」と迫りました。それで、やっと、風営法という法律の改正にこぎつけることができたんです。

夜は、新しい尖った文化の温床です。たとえばヒップホップはクラブ発、パンクはライブハウス発でした。新しい音楽とファッションが結びつき、それが新しいライフスタイルを生んで行きます。メインストリームのカルチャーも、最初はそのように一部のシーンでサブカルとして生まれてくるわけです。世界的な文化都市である東京が、夜のシーンが貧弱であるために新しい文化を生み出して行けなくなったらいかんよね、日本にとっても大きな損失だよね、というのが私の本音です。

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