リテールアジェンダ2022レポート #01

ファミマ 足立光氏とサツドラ 富山浩樹氏が語る「小売業のマーケティングの極意」【リテールアジェンダ2022レポート第1回】

 

ファミリーマート「お値段そのまま!! 40%増量作戦」のきっかけ


富山 次に、足立さんは客層ごとにどのように商品や企画を選定していますか。
  
ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター チーフ・マーケティング・オフィサー
足立 光 氏

足立 日本の流通業でのマーケティング部門は、歴史的に商品部がつくった商品を販促する部隊だったと思います。現在でもそのような部分があり、それはそれで構いませんが、逆の取り組みも重要でます。2022年8月頃、話題になったファミリーマートの「お値段そのまま!! 40%増量作戦」キャンペーンでは、商品開発の前にマーケティング・コンセプトがありました。つまり、この商品をどうやって売っていこうかではなく、「40%増量の商品を売る」というコンセプトを先に決めてから、どのような商品をつくるかを決めました。

https://www.family.co.jp/company/news_releases/2022/20220801_01.html(こちらのサイトから引用)

富山 マーケティングのコンセプトを構築してから商品をつくるという流れは、我々も含めて苦手な企業が多いと思います。このようなコンセプトドリブンなマーケティングは、どのように生まれるのですか。

足立 40%増量作戦のキャンペーンでいうと、もともと化粧品業界がよく実施しているキャンペーンです。それを食品で実施してみたらどうなのか、と考えたことがきっかけです。まったく新しいアイデアをつくるというよりは、すでに世の中で売れているものや成功しているキャンペーンなどに注目し、それをいかに取り込むことができるかに一生懸命取り組んでいます。

サツドラの例のように、商品カテゴリー別でアプローチする方法もありますよね。私が特に意識しているのは「店舗体験」、「商品・サービスの独自性」、「伝える力」の3つです。よいお店で、よい商品が揃っていても、お客さまに知ってもらわなければ何の意味もありません。そのため「伝える力」も大事であり、それがマーケティングの重要な要素のひとつだと思っています。今までの流通業では、この「伝える力」の部分がおろそかにされていたのではないか、と私は感じています。
 

地域貢献を活用した商品の差別化


富山 足立さんは、小売業に対して感じている課題はありますか。

足立 コンビニはたくさんの商品を扱っていて、多くのお客さまが利用します。そのため、商品ごとにターゲットを決め、バランスよくマーケティングしなければならないと思っています。

富山 そうですよね。しかも、我々のようなドラッグストアやコンビニなどの総合店は、ニトリさんやユニクロさんのように、製造から小売まで一貫して行っているわけではないので、商品で差別化をするのがすごく難しいです。

足立 コンビニは社会インフラという役割もあるので、商品や品ぞろえはあまり差別化しなくてもいいという考え方もあるかもしれません。例えば、あちらのコンビニには乾電池は置いてあるけど、こちらのコンビニには置いてない、なんてことはありえないですよね。仮に、乾電池を差別化しようとPB(プライベートブランド)化しても、それだけでお客さまを振り向かせられるのかというと、おそらく難しいと思います。そのため、どのカテゴリーで勝負するかはすごく大事です。

富山 ほんとにその通りですね。我々の全商品の中で数量として、一番売れているのが「超炭酸水」です。実は、これリピート率も高いんです。でも、この商品は58円なので利益はそれほどないし、売上のうち1円はロケット事業に寄付されます。しかし大事なのは、このロケット事業の還元先が北海道の大樹町だということです。
  
サツドラで一番売れている「超炭酸水」を紹介する富山氏

足立 なるほど。まさに、それはディスティネーション・カテゴリーですね。ただの炭酸水ではなく「超」というレベルで、値段も安く、北海道に寄付ができる商品となると、地元の方からしたら圧倒的な差別化になりますよね。サツドラでしか買えない商品ですから。

富山 はい、やはり商品の値段や質だけでは差別化が難しい時代、いかにその商品に意味を持たせるかだと思います。もうひとつ紹介すると、EZOCA(エゾカ)という北海道の共通ポイントカードの事業にも取り組んでいるのですが、よくスポーツチームとコラボしています。たとえば、サッカーであれば「コンサドーレEZOCA」、バスケットボールであれば「レバンガEZOCA」というカードがあります。ファンやサポーターは、どうせカードをつくるならチームに貢献できるカードにしよう、と思ってくれるわけです。

https://ezoca.jp/(こちらのサイトから引用)

足立 地域に貢献したいという想いは、北海道と沖縄はとても強いですね。

富山 そうですね、地域愛はいつも1位ですね。

足立 なかなか東京では難しいところもありますが、北海道や沖縄などの地域では、地元の企業に貢献したいと思っている方が多くいらっしゃいます。ここにしっかりと意味づけをしていくことは重要なことで、サツドラさんに関してはそれができているのだと思います。

富山 ありがとうございます。やはり人は自分の身近なところに貢献したいという想いが強いです。ただし正直なところ、「世界中に還元されます」と言われても、なかなか響きづらい面があります。でも、ニャンズカードの企画では商品を購入して、抽選に応募すれば、次は自分が飼っている猫をカードにできるかもしれない、という還元が明確になっています。

足立 最近は、消費者自身も自分が何に貢献しているのかを意識するようになっていますよね。社会貢献で、他に何かされたことがあれば教えてください。

富山 EZOCAの話では、スポーツチームとのコラボだけではなく、自治体ともコラボしています。北海道の江差(えさし)町という場所でEZOCAを出していますが、これは町のお祭りに還元されるというモデルになっています。約7000人が住んでいる町で、6000人ほどがEZOCAを持っているくらい浸透していて、地域の商店街も巻き込みながら取り組んでいます。

また、歩くだけでマイルがたまる歩数計アプリの「サツドラウォーク」では、歩けば歩くほどマイルがたまるので、そのマイルをポイントに還元できるようにしています。つまり、健康増進と町の活性化ということを結びつけることで、自分が歩いた分だけ祭りに還元される仕組みです。このように、町やコミュニティ単位で意味を見いだし、繋げていく活動をこれからもっと増やしていきたいと思います。

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