リテールアジェンダ2022レポート #02

DX推進のために経営者の成績表をガラス張りに?トリドールホールディングスのDX戦略とは【リテールアジェンダ2022レポート第2回】

 

経営者目線で整理し、自社の経営方針とともにDX化を推進


鈴木 トリドールHDでは、どのようにDXを進めていったのでしょうか。

磯村 最初は多くの従業員が業務システムやIT部門に対して、ものすごく不満を抱いていたことが始まりでした。そして経営トップや取締役会のレベルでも従前の業務システムが成長の足かせになってしまうと判断し「グローバルフードカンパニー」に相応しいデジタルプラットフォームをつくろうと、CIO(最高情報責任者)というポストを新設しました。そこに私が2019年9月に着任したのです。

グローバルフードカンパニー上位10社との比較

磯村 私はCIOに就任後、持株会社と主要な子会社の役員や部門長クラス、一部店舗の店長に対して、約3カ月間かけて業務上の課題やITの要望をヒアリングしました。それと並行して「ITロードマップ」を策定し、IT基盤の再整備に着手しました。その後、そのロードマップをブラッシュアップした「DXビジョン2022」を策定し、DXの取り組みを社内外に発信しました。

次に、「DXの原資をどのように確保しましたか?」についてです。これはよく質問されますが、まず財務諸表をすべて分析し、通信費やシステム利用料、業務委託費がどの程度あるかを把握しました。それから、過去のIT投資総額と、現在のIT設備の残存簿価を明らかにして、現状を把握するようにしました。

その後、未来の姿を決めるため、今後導入するサービスをすべて仮決定し、各社から概算見積をとって初期費用やその後のランニング費用をDX実施前に明確化しました。そして、売上高とIT費用の比率が上昇しないような計画を立て、PLへの影響を最小限にしたんです。そうすることで、取締役会に受け入れられやすい形をつくりました。

さらに、すべての業務システムにおいて、IT設備投資を伴わない大胆な方針を打ち出し、サブスクリプションを前提とした計画を立案しました。その結果、BSへのインパクトがなく固定資産もリース資産も増えないという状態をつくったことで反対意見が出ない状態にしたんです。このような計画を取締役会へ報告し、DXへ着手することのゴーサインを得ました。

鈴木 経営者の成績表は、基本的にPL・BS・キャッシュフロー計算書ですよね。それで説明をしていけば、問題なく計画が通る。私はさまざまなマーケターやエンジニアと会う機会があるのですが、BSがわからない人は意外と多いです。そこを磯村さんはしっかりと経営目線で整理したところが素晴らしいと思います。
   
対談中の鈴木氏(左)と磯村氏(右)

磯村 続いて、どのようにDX戦略を定めたかを説明します。最も重要なのは自社の経営方針です。経営方針と自社の強みを踏まえた「DXの基本方針」の策定が重要なポイントになります。

経営方針は、企業が社会に提供する価値やありたい姿を定めたもので、MVVのミッション・ビジョン・バリューの話ですね。トリドールHDを例にすると、丸亀製麺の強みは「手づくり」や「できたて」など、わかりやすい言葉で社内に広めています。他にも各社で言葉にはなっていない社内の大事なことがあると思いますが、それを踏まえて戦略をつくってほしいと思います。

鈴木 なるほど。上を説得するときや全社員を納得させるときに、よく変化球を使いがちです。ただ、磯村さんはすごい直球ですよね。経営成績をガラス張りにして、それで説得する。それから分かりやすくミッション・ビジョンなどを大切にしたからこそ経営陣や社員から納得してもらえたんですね。

※後半に続く
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