ダイレクトアジェンダ2023レポート外伝 #03

WBCで日本代表が優勝した背景も分析。そこにはI-neの社員教育と三井住友カードのアジャイル運営が隠されている!?【ダイレクトアジェンダ2023レポート外伝 第2回】

 オンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」を運営するキラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2023年3月23日、24日に鹿児島にて行われた「ダイレクトアジェンダ2023」のレポート第2弾になります。

 今回は「事業成長を実現する『ダイレクトマーケの組織・人材育成』とは」というテーマで、スピーカーとして三井住友カード 専務執行役員 マーケティング本部長の佐々木丈也氏とI-ne 執行役員ダイレクトマーケティング本部本部長の伊藤翔哉氏、モデレーターとして青山商事 リブランディング推進室 室長補佐の藤原尚也氏が登壇したブレイクアウトセッションをお届けします。組織や人材育成に関して先進的かつ具体的な取り組みの紹介が満載で、会場にいた参加者からだけでなく、私のTwitterでの投稿を見て「ぜひ記事化してほしい」という声が多数寄せられました。

 このセッションは、次の3つのテーマで構成されていました。

 テーマ①:失敗から学び、次のステップに進んだ組織や人材育成について
 テーマ②:ゼロから立ち上げて、そして進化し挑戦する組織や人材育成について
 テーマ③:これからの組織や人材育成について~「Deep Dive Into Narrative」で考えてみる~

 セッションの流れに沿って、それぞれ見ていきましょう。
 

個人・チーム・会社のミッション浸透と必要な教育や評価体制


 まず、I-neの伊藤氏から「失敗から学び、次のステップに進んだ組織や人材育成について」の内容が語られました。I-neはBOTANISTやSALONIAなど、美容系の商品を中心に売上を伸長させてきました。

 特に、ドラッグストア市場において2023年3月現在、シャンプー・リンスカテゴリーのブランド別販売合計金額でBOTANIST は3位、YOLUは4位で、単体企業別ではI-neがシェア1位です(ブランド、企業シェア共にI-ne 調べ)。今やNo.1企業といっても過言ではないです。しかし、この急成長によって組織に「ひずみ」が生まれてしまったことが失敗だったと話します。

 以下、登壇者の発言を紹介していきます。
  
I-ne 執行役員ダイレクトマーケティング本部本部長
伊藤 翔哉 氏



伊藤 グラフの通り、2015年から2017年にかけて、BOTANISTの売上が急速に伸び、それに伴い社員数も急速に増やしてしまった影響で組織が崩壊してしまいました。スキル重視の中途採用で、企業理念が行き渡らず、成果のみに視点がいきすぎてしまった結果です。

私が管轄していた、ダイレクトマーケティング組織も同じ時期に崩壊してしまいました。モチベーションの高い新卒3年目がスタートアップ企業へ転職するなど、社員全体の士気も低下していました。

藤原 組織崩壊が起こってしまった根本的な要因は、どこにあったのですか。



伊藤 大きく4つの課題がありましたが、総合すると「メーカーでダイレクトマーケティングを担当していることは、キャリアの先行きが不安だ」ということでした。この課題を解決するために、キャリアパス、評価、育成、実践を総合的に取り入れた独自の育成プログラム「M.D.M(Master of Direct Marketing)」の運用をスタートしました。

具体的には、本部全体ミッションを「ダイレクトマーケティングの仕事をするならI-ne」と呼ばれること、と定義し、社内全体にも周知しました。キャリアの先行きが不安だという意見もある中で、ダイレクトマーケティングの領域でもブランドの全体を見ることにより、マーケティング全体に関わることができるので、このようなミッションを掲げました。また、個人ミッションをそれに合わせて「自分でD2Cブランドが経営できるようになる、もしくはCRMプロフェッショナルになる」という明確な設定を置き意識の統一を行いました。その上で、以下の取り組みを行いました。

・個人のスキルを50項目以上で可視化する「スキルトラッカー」を活用。グロースXと半年程度で開発し、知識だけではなく、経験や実績も点数化する仕組みを導入。
・自己学習できるツールや外注リソースの導入。
・月1回のダイレクトマーケティング講座を開催。

この取り組みにより、自身のミッションに対する現在地(距離)を把握し、自己学習できるようになり、社員のモチベーションが向上し、スキルセットの底上げが実現しました。



藤原 スキルマップの達成度は、評価に入れていますか。

伊藤 いえ、スキルマップは評価に入れていません。結果的に、自分の成長と評価は紐づくので、評価に入れてしまうと、本来伸ばすべきスキルが伸ばしにくくなるためです。

 以上が登壇中のやりとりになります。ここで、私の感想を紹介します。まず、会社のミッションを個人のミッションにまで落とし込んでいる点と、具体的にそれを達成するための体系的な教育と評価プログラムがとても素晴らしく、羨ましいと感じました。

 もうひとつ、「評価とスキルマップの達成は3カ月ごとに対話し、見直しを実施している」とのことでした。「1年前に立てた目標を365日後に評価するのはおかしい」と藤原氏が話していましたが、その通りだと思います。当たり前のように、1年後に評価している企業が大半なのではないでしょうか。

 続けて、以下のようなやり取りが行われました。

藤原 マーケティングに必要なスキルは幅広く、現状の職務では、手が付けられないものもあると思うのですが、その扱いはどのようにしていましたか。

伊藤 おっしゃる通り、ひとつのポジションではできる仕事の範囲は限られてしまうため、スキルが充足したら別のポジションに異動したり、同じポジションでも別の仕事をする機会を与えるなどして、総合的に育つように意識しています

 再び、私の感想に戻ります。単純にスキルマップをつくるだけではなく、スキルマップに沿って働くことの意義や、それを評価に組み込まず、バランスよく運用していることが大変参考になります。ダイレクトマーケターを目指すならI-neに入社することが最短なのではと思える素晴らしい仕組みです。

 また、組織構造もアジャイルで動きやすいようになっていて、I-neではマーケティング本部、ブランディング本部とは別にダイレクトマーケティング本部が独立しています。



 D2C領域に関しては、ダイレクトマーケティング本部にすべての権限があり、D2Cブランドも独立して開発や販売を行っているとのことでした。

 個人、チーム、組織としてダイレクトマーケティングの売上を、成長しながら最大化していくという方針で同じ方向を向いて邁進できているI-neは、本当に強い組織だと感じました。

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