ダイレクトアジェンダ2023レポート外伝 #01

アンカー・ジャパン、サントリーウエルネス、FABRIC TOKYOが語る事業拡大に大切なこと【ダイレクトアジェンダ2023レポート外伝 第1回】

 

短期的な指標と中長期的な指標のバランスとは


 セッションの冒頭では、毎年恒例の「各社のWebマーケティングや広告出稿状況」についての話がありましたが、例年とは異なり「事業を拡大していくために、大切にしていることは?」という問いに対するディスカッションが中心となりました。



 セッション後に事務局から聞いた話では、登壇者同士での事前打ち合わせのとき、「細かい施策よりも、『事業拡大するために取り組んでいること』の方が本質的な内容であるため、そのディスカッションに時間を使いたい」という方向性になり、内容が変更されたとのことでした。その話の通り、大変濃密で重要な内容が多く語られているので、できるだけ臨場感が出るように質疑応答の形でまとめます。

 各企業の回答について、モデレーターである西井氏が深掘りして進めました。以下、登壇者の発言を紹介していきます。

西井 まず、サントリーウエルネスの藤澤さんに質問します。「右の象限からいかにして左の象限へとジャンプできるか」という部分に関して、これはどういうことでしょうか。

藤澤 我々サントリーウエルネスでは広告効果はカンパニー×ブランド×クリエイティブ×メディアの掛け合わせによって最大化されると因数文化し定義しております。消費者のニーズが多様化し競合も激化している中でメディア活動だけでの広告効果改善、売上拡大は非常に難しいと考えています。そういった中で前述した他象限へのジャンプが非常に重要であると考えます。

この話から、成果指標の測り方についての話がありました。

西井 サントリーウエルネスでは、ブランド広告も活用しているという話がありましたが、CPA(Cost Per Action)やROAS(Return On Advertising Spend)などの直接的な成果として測りにくい施策については、各社どうしていますか。
   
シンクロ 代表取締役社長
西井 敏恭 氏

藤澤 足元のCPAといった数字も勿論追いかけていますが、それだけでは事業を中長期的に伸ばす事が出来ません。売上から逆算した際の指標を設定しその指標を追いかける必要性が出てきている段階にあると考えています。

猿渡 Ankerの広告比率は、あまり高くありません。広告に頼るというよりも、自社のサイトや宣伝だけでは製品の魅力は全て伝えきれないので、口コミが重要であると考えています。口コミをうまく拡散する、掛け算的に増やすという意味で広告を活用しています。

 FABRIC TOKYOは、まだ事業規模がそれほど大きくないので、数値が測りやすいダイレクトな広告手法を重要視しています。基本的に数字で追えない施策はやりません。ただ、顕在ニーズが枯渇したタイミングではCPAでは測れない施策が重要になってくると思います。

また、猿渡さんが話したように、UGC(User Generated Content)でブランドの認知が上昇しているので、指名検索や第一想起をつくる上で商品やサービスの精度を高めることに注力しています。

猿渡 AnkerでもROI(Return On Investment)が算出できない施策は、基本的に取り組みません。また、ブランド広告は利益率が出しにくいとみて投資していないのですが、サントリーウエルネスさんではなぜブランド広告に投資ができているのでしょうか。

藤澤 CPAなど短期的な指標でROIを算出する事は難しいのですがブランドを中長期的に育成する事を目的として投資を行う事があります。経営陣に各ブランドの中期戦略を実現する為に必要な施策である事を理解してもらいトライしています。
  
サントリーウエルネス メディア部主任
藤澤 周平 氏

この議論の延長線として、森氏から短期的な数値と中長期的な数値を見ることについての問題提起がありました。

 数字で追えることしか取り組まない、CPAなどの成果指標でしかみれないことは、新しいことに手が出しにくいという弱みになりますか。
  
FABRIC TOKYO 代表取締役CEO
森 雄一郎 氏

猿渡 「数字で見る」ということは、全てを短期的成果だけで見るということと同義ではないと思います。ビジネスにおいては、再現性があるかが重要です。ただ、わかりやすいのが数字で、仮に数字が出なくても再現性が担保できるのであれば良いと思います。

 なるほど。FABRIC TOKYOでもROASというよりはLTV(Life Time Value)やCAC(Customer Acquisition Cost)で追っています。LTVは数年かけて追い求めるものなので、顧客ごとのLTVやCACで4~5倍程度というROI指標をベースに、短期的に収益が取れない場合でもこの指標をクリアしていれば投資すべきであると判断しています。顧客ごとに中長期的に採算がとれるかが大事です。

猿渡
 私はそもそも、LTVという考え方がありません。LTVは、つくるものではなくお客さまによってつくられるものだからです。製品が良かったら買う。カスタマーサポートで良い体験をしたから買う。その積み重ねによって、結果的にLTVがつくられるのです。

ブランディングチームがつくるブランディングは限定的で、一人ひとりの顧客体験がブランドをつくると考えています。一方で、ブランドが信頼を失うのは一瞬です。製品を通じたブランド体験がベースにありつつ、購入後の体験もブランドの一部です。そのため、アンカー・ジャパンでは社員の約3分の1がカスタマーサポートチームで構成されています。
  
アンカー・ジャパン 代表取締役CEO
猿渡 歩 氏

 同じくFABRIC TOKYOでも、カスタマーサポートは重要だと考えているので、直接雇用しています。

以上が登壇中のやりとりになります。ここで、私の感想を紹介します。猿渡氏の「『数字で見る』ということは、全てを短期的成果だけで見るということと同義ではない」という発言がとても印象的です。

また、森氏のLTVやCACの考え(ユニットエコノミクス)は、短期的に見えて長期スパンでROIをみていることに他なりません。以前、ライジングアジェンダ2022レポート外伝 第3回で紹介した、ライフネット生命保険 代表取締役社長の森亮介氏も、同じことを話していたことを思い出しました。引き続き、議論は進みます。

※後編に続く
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