「現場力とは、何か?」~ネプラス・ユー大阪2023 特別企画~ #04

なぜデジタル人材の育成プログラムで「エスノグラフィー」を教えるのか【ネプラス・ユー大阪2023 特別寄稿:林直孝】

 2023年7月12日から13日にかけて、マーケティング・カンファレンス「ネプラス・ユー大阪2023 (主催:ナノベーション)」が大阪(梅田サウスホール)で開催される。テーマは、「現場力~Go beyond your territory~」。AIはじめテクノロジーが発達し、変化の激しい現代では、実際に「現場」で一次情報に触れることが重要という考えのもと、多数の魅力的なセッションが行われる。今回は、本カンファレンスの開催を記念し、カウンシルメンバーに「現場力とは、何か?」をテーマに寄稿してもらった。第4回は、「大企業のオープンイノベーションや新規事業の立ち上げ」というテーマでセッションのモデレーターを担当するJ.フロント リテイリング 執行役常務 グループデジタル統括部長の林直孝氏になる。
 

エスノグラフィーで現場を観察する大切さ

 
林 直孝 氏
J.フロント リテイリング 執行役常務 グループデジタル統括部長

パルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web事業を行うグループ企業の株式会社パルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。
2013年に新設された「WEBコミュニケーション部」にてPARCOのデジタルマーケティング及びオムニチャネル化を推進。
2017年より「グループICT戦略室」にて、ショッピングセンターのDX(デジタルトランスフォーメーション)を具現化するため『デジタルSC(ショッピングセンター)プラットフォーム』戦略の推進を担当。2022年3月よりパルコ、大丸松坂屋百貨店等の持株会社であるJ.フロント リテイリング株式会社でグループ企業のデジタル戦略の推進を担当。

 今回の「ネプラス・ユー大阪2023」のテーマである「現場力」という言葉を聞いたとき、大学卒業後に入社した会社で、最初に配属された店舗での記憶がよみがえりました。

 職場での1日は、開店前のショッピングセンターの店舗巡回点検から始まります。1 時間ほど店内を巡回した後、上司から呼ばれ1枚のメモ用紙が手渡されました。それは、私の担当業務でできていなかったことがリスト化された手書きのメモです。

 配属されてから毎日のようにそのメモを渡されましたが、半年ほど経ち渡されなくなりました。ようやく自分で課題を見つけて解決する力を獲得したのだと気づきました。では、その力はどのように磨かれたのでしょうか? 新入社員の私が半年間かけて学習したことは 、次の2つだったように思います。

・上司の視点になって観察すること(他人の視点・角度から物事を見て感じる)
・上司だったらこう解決するのでは?(予測、対応)と考えること

 それから 30 年余り経ちました。現在、私が働いている会社では、グループ企業の社員を対象に「デジタル人財」の教育プログラムを実践しています。参加者は 3 カ月のカリキュラムを通じてデジタルテクノロジーやデータを使って仕事を変革していくスキル、ナレッジ、マインドを身につけます。

 そのプログラムのひとつに「エスノグラフィー(現場観察)」という、私たちの現場である百貨店やショッピングセンターの店頭を観察するワークショップがあります。 エスノグラフィーは、もともと民族学や文化人類学などで使われている研究手法で、フィールドワークを通して行動観察をし、その記録を残すことです。一見アナログなこのプログラムを、なぜデジタル人財の教育に取り入れているのでしょうか?

 往々にして私たちは自分の経験や過去のデータだけを用いて、課題を解決しようとしてしまいがちです。デジタルテクノロジーを活用する場合でも、解決の手段であるはずのテクノロジー活用がそもそもの目的になってしまい、本質的な課題に気付かないまま、解決につながらない選択肢をとってしまいます。現場観察を怠ることで、その可能性を高めてしまうのです。

 教育プログラムの参加者は、データでは取得しにくいお客様やスタッフの表情や繰り返し起きている行動などを観察の中で見つけ、本質的な課題に気づき、適切な解決策に結び付けるエスノグラフィーは、とても大切なプロセスだと気づきます。

 私たちもマーケティングをより本質的な課題解決につなげられるよう、現場観察の大切さを忘れずに行動したいですね。

  
グループの百貨店の松坂屋でお歳暮売場に立つ林氏
  
ネプラス・ユー大阪2023 公式サイトは、こちら

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