ネプラス・ユー大阪2023レポート #01

1店舗に1日2400人が来店。大阪で長年愛される「串かつだるま」の成功秘話【ネプラス・ユー大阪2023レポート】

 大阪はもちろん、全国から串かつの元祖として長年愛されている「串かつだるま」。3坪・12席の小さな店から始まり、現在は大阪を中心に国内15店舗を展開するなど、なにわの食文化の継承者として注目を集めている。

 今回は「串かつだるま」を運営する一門会 代表取締役会長兼社長の上山勝也氏をスピーカーに迎え、近畿大学 経営戦略本部/本部長の世耕石弘氏が聞き手を務めた「ネプラス・ユー大阪2023」のセッション「長年愛される『串かつだるま』の人気の秘訣に迫る」をレポートする。大阪のソウルフードとして愛される「串かつだるま」の躍進の背景と現場に根付いた経営戦略、そして上山氏の波瀾万丈な半生、マーケターへのアドバイスなど幅広く紹介していく。
  
 

赤井英和さんのひと言で「串かつだるま」を継ぐ決心


世耕 ネプラス・ユーは、昨年に引き続き大阪での開催です。大阪を代表する人物に登壇してほしいという思いから、串かつだるまを運営する一門会 代表取締役会長兼社長の上山勝也さんに登壇をお願いしました。今回は「現場力」がテーマになるので、上山さんの血と汗と涙のストーリーを紐解いていきます。

まず私から「串かつだるま」と上山さんご自身のストーリーを簡単に紹介します。「串かつだるま」は、大阪の新世界エリアの西成にある1929年創業の串かつ専門店です。もともとはわずか12席しかない3坪の小さな店でした。そこに足繁く通っていたのが浪速のロッキーと呼ばれたプロボクサーで、引退後は俳優として活躍されている赤井英和さんです。上山さんと赤井さんは浪速高等学校 ボクシング部の先輩と後輩という関係なんですよね?

上山 はい、私がひとつ下の後輩です。
 
一門会 代表取締役会長兼社長
上山 勝也 氏

1974年 大阪市立小路小学校を卒業。1977年 大阪市立東生野中学校を卒業。1980年 私立浪速高等学校を卒業。同年 浪田石油株式会社に勤務。2000年 浪田石油株式会社を副部長として退職。2001年 新世界元祖串かつだるまを代表として継承。2002年 2店舗目となるジャンジャン店 開店。2003年 法人設立。国内串かつだるまを15店舗運営。大阪新世界4店舗、ミナミ(心斎橋、難波、法善寺)に4店舗、キタ(北新地、茶屋町、ホワイティ梅田、大阪駅、新大阪駅)に6店舗、京都(京都駅)に1店舗、従業員60名 PA(パート・アルバイト)500名

世耕 2001年、上山さんが石油販売会社で副部長として働いていたところ、赤井さんから電話がかかってきて「串かつだるまの3代目が病気で店を閉めてしまうから、お前が継いでくれ!」と頼まれたと聞きました。そのとき、上山さんはどのような心境だったのでしょうか。

上山 体育会系でずっとやってきましたから、先輩からの頼みを断るという選択肢はなかったですね。「はい、引き受けます」としか言えなかったです(笑)。

世耕 1週間だけ悩んで引き継ぐことを決意されたそうですが、料理の経験はあったのですか。

上山 いえ、料理の経験はなかったので、まずは修行しました。当時は会社勤めをしていたので、その仕事と並行して串かつの揚げ方や衣とソースのつくり方など、最低限のことを学びました。

世耕 準備期間は、どのぐらいだったのですか。

上山 2、3カ月でした。それから3代目の百野貴彦さんが引退されて、一旦店を閉めて、2001年11月に私が引き継いで4代目の「串かつだるま」を3坪12席の店で再スタートしたんです。
 

数字は追わないが、目標の来客数は260万人


世耕 そこから一気に直営店を増やして、今では15店舗も経営されています。コロナ禍の大変な時期にも積極的に店舗を増やしていましたよね?
 
近畿大学 経営戦略本部/本部長
世耕 石弘 氏

奈良県出身。大学を卒業後、1992年近畿日本鉄道株式会社に入社。以降、ホテル事業、海外派遣、広報担当を経て、2007年に近畿大学に奉職。入試広報課長、入学センター事務長、広報部長、総務部長を歴任。2020年4月から広報室を配下に置く経営戦略本部長となり、現在に至る。

上山 はい、コロナ禍でも積極的に出店しました。最初はどうなるかと思いましたけど、1年程度でコロナは収束すると思っていたので、会社の体力的にもいけるだろうと判断しました。正直、気合いだけでした。

世耕 3坪12席だった店は、わずか20年ほどで15店舗、年間売上高45.8億円、来客数187万人に成長しています(2022年)。2023年上半期では、すでに売上高30億円のと来客数123万人と、このペースでいくと年間260万人に届きそうな勢いですね。

上山 はい、お陰様でコロナも明けて、売上高も来客数も順調に伸びています。今年の来客数目標は260万人なので、このまま順調にいけば達成できそうです。

世耕 目標は中期経営計画などで決めているのですか?

上山 いえ、2019年頃のテレビ番組で、阪神タイガースが甲子園球場への動員目標を250万人にしているのを見て決めました。当時、「串かつだるま」の来客数は229万人でしたので、阪神タイガースを上回る260万人を目標にしたわけです。この目標は、頑張ったら、必ずいける数字だと思いました。

260万人をクリアしたら、次は大阪市の人口である280万人(2023年7月1日現在:推計人口276万人)を目標にしようと思っています。
  

世耕 中期経営計画などはつくらないのでしょうか。

上山 当然、店舗ごとの予算は組みますが、会社全体としての売上目標は決めません。というのも、それを決めると従業員をいじめるだけになりかねないと考えているからなんです。

理想は、予算を組んで「馬なり(競馬などで鞭を使わない状態)」でゴールすることです。「鞭は一切たたかない」、これは創業したときからずっと従業員に伝えています。もちろん店長会議などで、クレームなど店舗運営についての情報は共有しますが、数字で責めないようにしています。
  
串かつだるまの串かつ(画像提供/一門会)

世耕 飲食店経営としては、斬新ですね。

上山 販売促進を依頼している会社とは、対前年比で予算や目標を決めます。ただし、「串かつだるま」はテイクアウトの店ではないため、1店舗あたりの来客数には限界があり、必ずどこかで頭打ちになってしまうんです。

その場合、お客さまの回転数を上げるか、値上げをするかになります。お客さまに接しているのは約600人いるアルバイトですが、彼ら彼女らが「あと1本串かつを食べて」と言っても、お客さまは「売り込みに来よった」と気づきます。それでは印象が悪いですよね。数字で詰めたら、そういうことが起こると予想しているんです。

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