B2Bアジェンダ2023レポート #01

マーケティングのスキルは人事でも使える。みずほフィナンシャルグループ CPOが挑む変革【B2Bアジェンダ2023レポート】

  B2Bマーケティングをテーマにしたカンファレンス「B2Bアジェンダ2023」が9月20日、静岡県・浜松市(THE HAMANAKO)で開催された。その中では、「広がるマーケターの可能性~企業文化変革のためのマーケティングと人事~」と題して、前職のアドビ日本法人で副社長としてマーケティングや広報などを統括し、現在はみずほフィナンシャルグループでグループCPO(Chief People Officer)兼 グループCCuO(Chief Culture Officer)として人事と企業文化の変革に挑戦する秋田夏実氏をスピーカーに迎え、横河電機 常務執行役員 兼 マーケティング本部長の阿部剛士氏が聞き手を務めたセッションが行われた。マーケティングと人事における共通項を紹介しながら、変革を成功させるポイントを探ったディスカッションをレポートする。

 

マーケティングも人事も、理解すべき対象は「人」


阿部 今回のテーマは「マーケティングと人事」です。それでは、秋田さんから自己紹介をお願いします。

秋田 私は2022年5月にみずほフィナンシャルグループに入社しました。現在は、CPO兼CCuOとして、グループ全体の組織開発や人材開発、健康経営、多様な人材の活躍の推進、カルチャーの変革、コミュニケーションの活性化、ブランド価値の向上などを幅広く手掛けています。

前職ではアドビ日本法人に5年ほど務め、副社長として日本国内のマーケティングや広報を統括していました。その前は、金融業界のマーケティングを20年ほど経験しました。50代で初めてマーケティングから人事に転身したことになります。
 
みずほフィナンシャルグループ
執行役 グループCPO 兼 グループCCuO
秋田 夏実 氏

 みずほFG 執行役 グループCPO 兼 グループCCuO 兼 みずほ銀行・みずほ信託銀行・みずほ証券 常務執行役員。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部諮問委員。
以前はアドビ株式会社のマーケティング担当副社長(VP)、マスターカード⽇本地区副社⻑、シティバンク銀⾏デジタルソリューション部⻑。東京⼤学経済学部卒業、ノースウェスタン⼤学ケロッグ経営⼤学院卒業(MBA)。NewsPicksプロピッカー、やまなし大使、情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授、ワインエキスパートなど。

阿部 変革期を迎えている人事について、外部環境の変化を教えてください。

秋田 コロナ禍を契機に、働くことへの意欲や価値観が非常に変化しました。オフィスという物理的な環境から切り離されたことが、多くの人にとって働く意味を考えるきっかけになりました。この潮流は世界規模で生まれています。

さらに、Z世代の価値観はそれよりも前の世代と大きく異なります。令和4年の内閣府の調査では「収入と自由になる時間、どちらが大事ですか」という質問に対して、Z世代である18~29歳の47.3%が「自由になる時間のほうが大事」と回答しました(※1)。

そうした中で、組織と個人の関係性も大きく変化しています。VUCAの時代と言われますが、未来が過去の延長線上にはない現代においては、自ら主体的かつ自律的に考えて行動できる人材が求められています。経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」でも、「人的資本こそが企業価値を左右する」と言われていることがその証でしょう。

また、従来の日本企業では新卒一括採用が主流で、人材を囲い込めているという楽観が蔓延っていましたが、状況は一変し、企業と個人は選び選ばれる関係性になりました。人材を管理するのではなく、社員としっかり対話し、どうすれば社員の活躍を支援できるのかを真剣に考えていかなければ、人材は去ってしまいます。EX(エンプロイーエクスペリエンス)、つまり社員の体験価値の向上が経営上不可欠になってきているのです。

一方で、多様な個人が熱意を持って働いているかというと、そうではありません。2022年の米国Gallup(ギャロップ)社の調査では、驚くべきことに、日本には熱意のある社員が5%しかおらず、調査対象国の中でイタリアに続いて下から2番目でした(※2)。

企業は社員とお客さまの両方の幸せを考えなければいけません。みなさまも肌で感じていると思いますが、EXの向上がCX(カスタマーエクスペリエンス)を向上させ、それが企業の成長につながることは自明の理です。

阿部 日本は熱意のある社員が5%ですか、とても低い数字ですね。
 
横河電機
常務執行役員 兼 マーケティング本部長
阿部 剛士 氏

 1985年、現インテル株式会社に⼊社。インテル・アーキテクチャ技術本部本部⻑、マーケティング本部本部⻑、技術開発・製造技術本部本部⻑を歴任。2009年以降、取締役、取締役 副社⻑、取締役 兼 副社⻑執行役員に就任。2016年横河電機株式会社⼊社し、R&D、M&A、知財、新事業開拓、事業計画などを傘下にマーケティング本部を統括。
常務執行役員 兼 マーケティング本部本部⻑、CMOとして現在に至る。

秋田 そうなんです。これまではCXの向上に取り組んできましたが、EXの向上がCXにもつながる以上、「これから取り組むべき領域は人事だ」と感じました。私なりにカスタマージャーニーとエンプロイージャーニーの相似性を意識するようになり、それを図示したものがこちらです。
  
カスタマージャーニーとエンプロイージャーニー相似性

カスタマージャーニーは、サブスクリプション型のビジネスの例が分かりやすいと思います。まずは商品やサービスを知ってもらい、無料体験してもらい、良いなと思ったら購入・契約になります。そして、継続的に利用してもらい、契約を更新してもらいます。

これは、人事も同じなんです。たとえば、新卒採用であれば、まずは学生に会社を知ってもらい、そこから関心を持ってもらう中、インターンなどで仕事を体験してもらいます。学生など候補者にとっても、企業の担当者と言葉を交わし、お互いを知る面接も体験のひとつと言えます。その上で入社に至るわけですが、そこで終わりではありません。

そこから、いかにエンゲージメントを醸成できるかが、これからの人事の肝です。そして、最近ではリファラル採用(社員から友人や知人などを紹介してもらう採用手法)のように、社員がリクルーターとなって人材を採用する動きも生まれています。マーケティングも既存顧客が新規顧客を連れて来てくれることがありますよね。やはり、人事とマーケティングはすごく似ていると思いました。



阿部 カスタマージャーニーなど、マーケティングの考え方が人事にも応用できるのですね。

秋田 はい、マーケティングも人事も、理解すべき対象は「人」です。外部であればお客さま、内部であれば社員を対象にデータをフル活用してインサイトをしっかり深掘りし、新たな価値を共創することが共通点だと思います。

マーケティングのフレームワークは何にでも使えます。いわば、マーケターは何者にもなれる可能性を持っているのです。顧客は誰で何を大事にしているか、その人が持つ潜在的なニーズは何なのか。そして誰に何を、どう伝えて、どのような変化を起こしたいか。そして、それをどう継続していくのか。企業側の主張だけではなく、ストーリー性や響く言葉をしっかりとターゲットに届けていくことが重要です。

マーケターが日頃から実践していることがマーケティング以外の領域の人々にとっては普通ではない場合もあります。だからこそ、マーケターのスキルセットが重要なのです。

※1  国民生活に関する世論調査<令和4年度>
※2 State of the Global Workplace: 2022 Report (Gallup Inc.)

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