ライジングアジェンダ2023レポート #01

「このままだと、オルビスが潰れる」小林琢磨社長の顧客構造・組織改革の舞台裏

  次世代を担う35歳以下の若手マーケターが集う「ライジングアジェンダ 2023」が2023年12月6日に東京・渋谷の「ベルサール渋谷ファースト」で開催された。昨年に続き2度目の開催となる今回は「アイデアの発見」をテーマに、新進気鋭からベテランまでトップマーケターが熱の込もったセッションを展開。本稿では、オルビス 代表取締役社長の小林琢磨氏が登壇したキーノートの内容をレポートする。小林氏は31歳のときに社内ベンチャーで起業。そこで得た経験や視点が、近年のオルビスの「大改革」に生きているという。モデレーターを花王 DX戦略部門の廣澤祐氏が務め、小林氏の経営・組織変革の思考に迫った。
  
 

キャッシュフローを見て「このままでは潰れる」


廣澤 本セッションでは、オルビス代表取締役社長である小林さんの軌跡をたどりながら、変化を促し、新たなものを創造するビジネスパーソンとしての思考法や行動原則を探索していきたいと思います。オルビスは2018年に小林さんが社長に就任されてから、大きくリブランディングされています。また組織内の風土改革も急速に進みました。なぜ社長就任後すぐに、コーポレートレベルの改革が必要と判断されたのでしょうか。当時を振り返りながら、お話をうかがえますか。
  

小林 シンプルに答えると「このままだと、オルビスが潰れる」と思ったからです。私が代表に就任する際に、社外取締役も含めた会議で会計資料を見たんです。顧客構造の中身を見て、かなりまずいと思いました。というのも、オルビスの場合、12カ月以内に商品を購入いただいたお客さまをアクティブ顧客と定義しています。そのアクティブ顧客のうち、「金銭的インセンティブがないと買っていただけない方」の比率が非常に高くなっていたんです。

表面的な売上は前年比98.6%なのでトップラインだけを見ると気づけないのですが、本来チェックすべきは「限界利益」(売上高から変動費を引いた数値。最終的な利益につながりやすい)です。しかし、当時のオルビスは5000円以上購入した方にポイントを付与するといった、要はおまけの施策を過剰にやりすぎてしまい、インセンティブがないと動かないアクティブ顧客が半数以上に上っていました。その結果、限界利益がどんどん下がってしまいました。さらに、当時の現場で何が起きていたかというと、オルビスがまったく得意ではないカテゴリーの商品まで売り出していた。私も代表になってから知ったのですが、台所用洗剤も出していたのです。

でも、化粧品を中心に展開してきたオルビスが台所用洗剤で独自性を築くのはなかなか難しい。独自性のない商品を売るには、キャンペーンで経済的に攻めるしかない。そうするとまた限界利益は下がっていきます。この状況に対して、構造改革をしなければいけないと危機感を抱きました。
 
オルビス 代表取締役社長
小林 琢磨 氏

 2002年ポーラ入社。2010年グループの社内ベンチャーで起ち上げた敏感肌専門ブランドDECENCIA代表取締役社長。同ブランドを50億のビジネスに導いた後、2017年オルビス株式会社マーケティング担当取締役、2018年代表取締役社長に就任。リブランディング、構造改革、組織変革を実行。リブランディング以降、顧客エンゲージメントの指標を限界利益LTVにシフトし、数々のヒット商品を生み出すとともに、EC向け出荷ラインに330台のAGV導入による物流センターの自動化、アプリをコアにパーソナライズされたCX戦略の実行や顧客価値創出のためのブランド体験などDXを牽引。
ポーラ・オルビスホールディングス取締役を兼務。早稲田大学大学院MBA。

廣澤 顧客構造と売上の問題に対する解決策として、コーポレートレベルのリブランディングや組織風土の改革がどう紐づいてくるのですか。

小林 勘違いされがちなのですが、リブランディングとは世界観をAからBに変えるものではありません。あくまで「構造改革の手段のひとつだ」というのが、私の考えです。お客さまと社内組織という2つの観点で大きな改革が必要でした。

まずお客さまに関しては先の通り、インセンティブがないと動かない、つまり商品の定価が下がっている状態でした。長年かけて自分たちで商品の価値を下げてしまったところから、脱却しなければいけません。これまでの延長線上のリニューアルでは顧客構造の転換は難しいため、大幅なリブランディングが不可欠でした。

また、組織としても大きな転換が必要です。創業時から通販事業を展開してきて、分業制のオペレーション体制が確立しており、自分のKPIが達成できればよしの構造になっていました。しかし、それでは先ほどの問題は解決できない。

たとえば、お客さまから見れば、ECで商品を手早く買いたいときもあれば、店舗に行ってメーカーを確認しながら買い物をしたいときもあります。どちらも、ひとりの顧客の体験なのにも関わらず、分業体制でリアル店舗とECの管轄は完全に分かれていました。これでは顧客視点が失われてしまいます。この構造を崩す必要があるので、コーポレートレベルでの改革が重要でした。

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