ライジングアジェンダ2023レポート #01

「このままだと、オルビスが潰れる」小林琢磨社長の顧客構造・組織改革の舞台裏

 

組織を動かすのはシンプルなファクト


廣澤 組織は多様な考えを持つ人々で成り立っていますが、小林さんが経営者として具体的に組織の行動を促し、先述の成果や事例へと具現化していく要諦は何かあるのでしょうか。人を動かす、あるいは組織として動いていくために必要なアクションがあれば教えてください。

小林 特に歴史ある企業では、それぞれの立場に基づくポジショントークが増える傾向にあります。たとえば、会議で他部署を説得するための材料集めに注力してしまいがちです。しかし、先ほどから申し上げているように、お客さまの視点に立った時に無駄な仕事が多くなっていないかのほうが重要です。そこで必要になるアクションは、「シンプルにファクトを見る・見せる」ということです。オルビスでは、これは徹底的にやっています。

たとえば、広告の管理画面を見せない広告会社とは取引をしないという意思決定をしました。これは広告会社を責めたいのではなく、広告を主導するべきなのはブランド側だからです。社員はどうしても自分の生活や会社・ブランドへの愛など、いろいろなものを守らなければいけません。その中で、ポジショントークを排除するには、それらの愛を単純に否定するのではなく、ファクトを客観的に見てもらうしかありません。現在、広告の管理画面やGoogleアナリティクスは全てオープンにしてもらっています。組織の動き方をファクト本位に変えていくためのアクションとして、最も大きなポイントだったと思います。

廣澤 しかし、不都合な真実を直視したくない社員もいますよね。そういった人の抵抗をどのように乗り越えましたか。

小林 その抵抗を打破するためにも、ファクトを突き付けることが大事なのです。オルビスでは、関係のない部署も顧客構造を理解するように徹底しています。顧客構造が全社に理解されれば、都合のいい真実は機能しなくなる。会社にとって重要なユニットエコノミクスや顧客構造、ディール、限界利益率の推移などは全て共有しています。そういったファクトを徹底的に見せていくことが重要です。

廣澤 
なるほど。オルビスでは小林さんからトップダウン的にそうしたアクションを促していますが、ボトムアップでやるのは難しいかもしれませんね。とはいえ、『Exit, Voice and Loyalty』(アルベルト・O・ハーシュマン・著)という本に書かれているように、組織に属する人間が取れる行動は、声を上げるか、組織から去るか、または忠誠を誓って従うかの3つしかない。若手ができることは声を上げることなので、まずはこれを試してみるべきだと思いました。最後に、参加者の皆さんへの激励をいただけますか。

小林 
将来、もしかしたらマーケティングだけでなく経営を担う人もいるかもしれません。そんな皆さんに「信念を持ちましょう」とお伝えしたいです。声を上げること、小さな行動を起こすことが重要です。私自身、20年前に管理職に対して不満を抱いてポーラを辞めようと思っていました。しかし社内のベンチャー制度ができて、自ら手を上げてその道に進みました。

こうした社内ベンチャーの取り組みは投資家へのアピールという側面があるのですが、若手が声を出せる機会として利用できるなら、利用すればいいんです。ただ、ちやほやされるのは最初だけで、2~3年しても成功しなければ見向きもされず、非難されるでしょう。これは世の常です。むしろ、影口を言われて、誰にも注目されなくなってからが本番です。そこでやり続けるためには「信念」が必要なのです。ビッグビジョンでなくても、身近な誰かを喜ばせたい、何か価値を生み出したいという信念が未来のビジネスを担っていく皆さんには一番重要なのだと思います。

廣澤 私は今年で30歳です。お話をうかがって、声が枯れるまでボイスすること、そして小さなチャンスをつかんだら、まずはズタボロになるまで行動することが大事だと思いました。今日は顧客構造やキャッシュなど、組織や経営について幅広くお話いただきました。将来、マネジメントに進む人だけでなく、ビジネスパーソン全般にとって重要な心構えや考え方が含まれていたと思います。皆さんの今後のキャリアや日々の業務に役立てていただければ幸いです。
  
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