マーケティングアジェンダ東京2023 #02

脱・店舗ビジネスの常識、Yogiboとコナズ珈琲に学ぶ「体験」を重視する逆転の発想【マーケティングアジェンダ東京レポート】

前回の記事:
万年シェア3位から1位へ。味の素「ザ★チャーハン」に学ぶ、アイデアが上手くいく4つのポイント【マーケティングアジェンダ東京レポート】
 国内外のトップマーケターが集結するカンファレンス「マーケティングアジェンダ東京2023(主催:ナノベーション)」が2023年12月7日から8日にかけて、東京都内(ベルサール渋谷ファースト)で開催された。「アイデアの発見」をテーマに示唆に富んだセッションを展開し、盛況のうちに幕を閉じた。

 本記事は、noteプロデューサー/ブロガーとしてnoteやSNSを活用したビジネスパーソンのキャリア構築や、企業の広報やマーケティングのサポートを行う徳力基彦氏に寄稿してもらったレポートの第2回になる。今回はYogibo取締役/CFOの小猿雄一氏と、KONA’S 代表取締役社長 阿部和剛氏が、それぞれ登壇した2つのキーノートセッションを報告する。

モデレーターのJTB執行役員 風口悦子氏(左)と、Yogibo取締役/CFO 小猿雄一氏(右)
 

「商品を売らなくていい」店舗


「店舗」と言えば、できる限り効率よく運営して、売上の最大化を目指すのが常識。そんなふうに考えている人は、少なくないでしょう。ただ、インターネットやSNSの普及もあり、実はそうした従来の店舗運営の常識に逆行する成功事例が増えてきているのをご存知でしょうか?

 今回の「マーケティングアジェンダ東京2023」では、そうした変化を象徴する2つのセッションを聞くことができました。

 ひとつ目は、Yogibo取締役/CFOの小猿雄一氏をスピーカーに迎え、JTB執行役員の風口悦子氏がモデレーターを務めたセッションです。「快適すぎて動けなくなる魔法のソファ」として大ヒットしている「Yogibo(ヨギボー)」の事例です。
 
Yogibo 取締役/CFO
小猿 雄一 氏

 1983年生まれ。大阪府 堺市出身。大阪市立大学在学中の2005年に共同出資で起業。2011年にネットプロテクションズに入社し、セールスや事業開発などに従事。2018年にYogibo(当時:Yogibo Japan)に入社し、2020年より取締役を務める。2021年12月にアメリカYogibo LLCを買収。2022年よりCFOを兼任。

 Yogiboはもともと、「電脳卸」というアフィリエイトサービスを提供していたウェブシャーク社が、米国Yogiboの販売代理事業を成功させたことで、米国本社を買収するに至った経緯があります。

 そのため、この会社の特徴は根っからの「IT企業」である点です。社内にはSEやアナリストが多数いることから、需要予測システムを自ら開発したり、広告効果をすべて数値化して各施策がどれだけ成果に貢献しているかを可視化したりしています。

 そんなYogiboが重視しているのは、「Yogibo Store」というリアルの店舗です。もともとIT企業なので、一見するとECを重視しているように思われがちですが、実際のところ、ECの売上比率は維持しつつ、その一方で、買収によってハイペースで店舗を増やし、今では国内店舗数が100を超えています。

 さらにYogibo Storeの特徴は、独自の接客マニュアル「Yogism(ヨギズム)」を通じて、店員に「商品を売らなくてもいい」という指示が徹底して伝えられている点です。通常の家具の店舗が、当然ながら「販売」を目的に運営されていることを考えると、かなり常識外れのアプローチに聞こえるかもしれません。
   マーケティングアジェンダ東京2023の会場内に設置されたYogiboラウンジでネットワーキングしながらくつろぐ参加者たち

 そんなYogiboが、売上や販売個数の代わりに店舗で重視しているのが「座数」という、店舗でソファを体験してもらった人数。Yogiboのソファは体験してもらうことがとにかく大事なので、店頭では「正しく体験」してもらうことに店員は注力しているんだとか。

「販売」よりも「体験」を重視したら、店舗での売上は下がりそうに思えますが、実は1店舗あたりの売上高は、2018年から2021年で約2.8倍に増加しているのです。また、最終的にECで購入する人でも、店舗やイベント施設などでの体験率は約80%に上ると言います。そのため、店舗で売り込まなくても「体験した人がECで買う」というサイクルが生まれることを、きちんとデータで確認しながらPDCAを回してきた、IT企業出身のYogiboならではの逆張りのアプローチと言えるでしょう。

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