ダイレクトアジェンダ2024座談会 #01

激変の2024年、ダイレクトマーケの最新潮流をI-ne、GDO、スクロールのキーパーソンが読み解く【ダイレクトアジェンダ座談会】

「踊り場」のDtoC、地に足はついているか?


伊藤 私も美容系のEC業界にいるので、みなさんの意見と全く同感です。コロナ禍においてはDtoCはテクニカルな部分、たとえばアフィリエイト広告やLPが得意といった部分が突出していれば売上は伸びました。けれど今、そういうテクニックだけでは通用しなくなってきており、本質的なブランド運営・経営をしないと勝てないと実感しています。

ヘアケアや美容用品を取り扱うI-neの場合、ECは売上の多くがモールなので、コロナ禍を経た変動に対して、あまり大きな影響は受けずにこられました。DtoC業界全体で見ると、高山さんがおっしゃったようにCPOが合わなくなり、オフライン販売とモールに参入したものの、うまく売上が伸びず撤退するというメーカーも多かったように見受けられます。
 
I-ne 執行役員/CSO
伊藤 翔哉 氏

 2011年入社。Eコマースとデジタル上におけるブランド戦略に注力し、広告、マーケティングも兼任。オンラインで認知を獲得して実績を上げて、ドラッグストア等のオフライン販売網に拡大展開する、オンライン起点でのビジネスモデルの構築に尽力。2017年取締役 兼 販売事業本部本部長代理、及び株式会社VUEN(現・株式会社Dr.SYUWAN) 代表取締役就任。2022年1月執行役員兼デジタルマーケティング本部本部長就任。2023年4月より、艾恩伊(上海)化粧品有限公司 董事就任。2024年1月執行役員 CSO(Chief Sales Officer)及び株式会社Endeavour代表取締役就任。

志賀 GDOは複数のブランドを扱うECサイトなので、よく分からないのですが、メーカーの直販は踊り場に来ているんでしょうか。

伊藤 来ていますね。個人的な感覚では、うまくいく企業といかない企業の違いは、「地に足がついているかどうか」です。充電関連製品ブランドのAnkerさんなどは長年アマゾンで売り続けた結果、今の高い認知度を確立しました。モールに参入したからといって、そう短期間で認知や売上を上げられるものではないと思います。

志賀 たしかに、チャネルを拡張しても続けられるかどうかは別の問題ですね。

西井 そもそもメーカー直販自体は昔からあったビジネスモデルです。製品の性能はそれほど劇的に進化するものではないし、直販にすることでコストが少し下がったとしても、それはあまり本質的ではありません。現代のDtoCは、お客さまがこれまでにない良い体験を得られて、企業が広告費をそれほどかけなくてもSNSなどを通じて自然といい口コミが広がり、いいブランドができて売れていく、という良さがあると思います。

しかし、米国型DtoCと違い、日本の場合、インフルエンサーやアフィリエイターに依存した刹那的なマーケティングで終わっているように見えます。それに、OEM(他社ブランドの製品を製造すること)が多いんです。OEM自体は問題ではありませんが、自社製品がお客さまに合わない場合にすぐに変更できたり、徹底的に磨き上げてから世に出したりすることで口コミも生まれるため、そうした体制の構築が重要になります。

「この商品はあまり大手メーカーのものじゃないけど、いいよね」といったファンベースのマーケティングが、流通構造まで含めてできているのが本来のDtoCです。しかし、現状は昔のメーカー直販からあまり変わっていない。日本の構造的な問題だと思いますが、DtoCの代表格であるI-neの伊藤さん、いかがですか。

伊藤 (笑)。たしかに、昨年や一昨年はDtoCに関するスタートアップの相談を受ける機会が多かったのです。新規顧客獲得コストをいかに下げるかといった話が大半で、ファンマーケティングは「おまけ」程度にしか認識されておらず、西井さんがおっしゃるような、本質的なDtoCを考えられている企業は少なかった印象です。

I-neの場合、新規顧客獲得はもちろんですが、それとは別に、既存のお客さまに向き合ったり、ブランドの世界観を作ったりする部署にかなりのリソースを割いています。お客さまに「かっこいい、いけている」と思ってもらえるブランドを継続するために、300人の社員がいるとすれば、70人はそこに専念するなどしています。そういったところにお客さまが関係を継続してくれる要因があるのかもしれません。

西井 専門役員を務めるOisixも昨年、そこまで大きな売上の成長はできなかったけど、少なくとも維持できていたのは、お客さまと一緒に商品を作っているという要素が強かったからだと思います。I-neのアプローチと似ているかもしれませんね。

スタートアップからの相談は私もよく受けるのですが、いわゆるLTV(顧客生涯価値)を伸ばしたいが、本質的にファンを増やそう、そのために商品改善しようとなると「難しい」という企業が多いのです。

志賀 
しかし、DtoCメーカーが商品改善やファンマーケティングをしないのなら、顧客にしてみれば小売との違いがなく、流通網が強くてポイントの付与で経済的メリットもある小売で買うがいい、ということになりますよね。

西井 
その通りです。

志賀 
ファンマーケティングといえば、ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」が最初の潮流だったと認識しています。

高山 
4747円の飲み放題や、香味を秘密にしたビールなど、「ビール離れ」が進んでいた若者に、「ビールを楽しむ」という新しい体験を提供していましたね。
   座談会で話す志賀氏(左)と高山氏。西井氏と伊藤氏は滞在先からリモートで参加した

志賀 
クラフトビールというプロダクトを中心として、リアルイベントとSNSを通じてビールを楽しむ顧客体験・ファンマーケティングを展開していく。イベントは、最初は小さかったのが数百人規模にも膨らんで、コロナ禍では大変だったと思いますが、あれほど「とんがった」ファンマーケティングは、メーカーにしかできないでしょう。

※後編に続く
 

ダイレクトアジェンダ2024 開催概要

 
名称
ダイレクトアジェンダ 2024
日時
2024年3月7日(木) - 9日(土) 
会場
SHIROYAMA HOTEL kagoshima(城山ホテル鹿児島)
〒890-8586 鹿児島県鹿児島市 新照院町41番1号
参加者
250名(通販事業主125名、パートナー125名)
参加方法
ブランド枠:無料(事前審査制)
プレミアムブランド枠:180,000円(税込198,000円)
パートナー枠:450,000円(税込495,000円)
ハッシュタグ
#DA24
主催
株式会社ナノベーション
ダイレクトアジェンダ2024公式サイトは、こちら

※1 景品表示法の規制・・・広告であることを隠すいわゆる「ステルスマーケティング」(ステマ)は、2023年10月1日から景品表示法上の「不当表示」に追加され規制対象になった。企業がインフルエンサーなどに依頼した商品PRや「アフィリエイト広告」についても、広告であると分からない場合は不当表示として摘発される可能性があるため、広告主である企業は運用基準の見直しなど対応に追われている。

※2 クッキーの規制・・・さまざまなウェブサイトで行動履歴を追跡できる「サードパーティCookie」は、本人が知らないうちに情報が広告やマーケティングに利用されることから、プライバシー保護上問題視されてきた。Appleは「Safari」での利用をデフォルトで全面的にブロックしたことを発表、Googleも「Chrome」での利用を2024年後半までに段階的に廃止するとしており、サードパーティCookieを使ったターゲティング広告を活用してきた企業は対応を迫られている。
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