リテールアジェンダ2023レポート ##01

リテールにおける新たな価値の見つけ方、スターバックスCRMO森井久恵氏が語るピープル・マーケティングの重要性【リテールアジェンダ】

 リテール領域のマーケティングをテーマにしたカンファレンス「リテールアジェンダ2023」が2023年11月14日から15日にかけて、都内(東京ポートシティ竹芝)で開催された。2日目のキーノートでは、日本上陸から28年目を迎え、多くの顧客から支持され続けるスターバックス コーヒー ジャパンで、これまでマーケティング・商品・デジタル戦略の3部門を統括してきた森井久恵氏がスピーカーとして登壇。店内外での顧客体験の価値向上をリードしてきた森井氏は2023年10月、リテール部門も率いるCRMO(リテイル・マーケティング統括オフィサー)に就任した。

 本記事では「CRMOの役割と目指すブランドとは リテールにおける新たな価値の見つけ方」と題し、従来考えられてきたマーケティングの領域を超えて、スターバックスと森井氏が経営・マーケティングの重要アジェンダと位置付けるパートナー(従業員)のエンゲージメント向上や、サステナビリティへの取り組みなどについて、ユナイテッドアローズ執行役員CDO兼 OMO本部 本部長の藤原義昭氏との対談を通して紐解いたセッションをレポートする。
 

商品・デジタル・パートナー(従業員)体験まで、一気通貫のマーケティングへ


藤原 まずは森井さんが今回、CMOからCRMO(Chief Retail Marketing Officer)になられた経緯をお話いただければと思います。

森井 スターバックスでは2023年9月末まで5年間、CMOとしてマーケティング、商品、デジタル戦略を担っていました。今回はCRMOというポジションが新設された形になります。

CMOとしてはお客さまにお届けする商品やプロモーション、デジタル上でのつながり等のマーケティングを包括的にみてきましたが、お客さまにスターバックス体験をお届けする全国のパートナー(従業員)や店舗を統括する営業統括のポジションは別にありました。
 
スターバックス コーヒー ジャパン
リテイル・マーケティング統括オフィサー(CRMO)
森井 久恵 氏

 国際基督教大学(ICU)卒業。約20年間グローバル企業にてマーケティングに従事し、前職ユニリーバでは日本・タイ市場のマーケティングを15年にわたり歴任。お客さまに直接笑顔を届ける仕事がしたく、2018年8月より現職。年間10以上あるプロモーションや、店舗およびデジタルチャネルを通じ、店内外での顧客体験の価値向上をリード。家族は夫と娘2人がおり、趣味は家族旅行とヨガ。私生活では子どもの教育について関心があり、タイのNPO活動やガールスカウトのイベントに参加。

森井 顧客体験とパートナー体験は密接に結び付いており、スターバックスの顧客体験価値の大部分を提供しているのはお店のパートナーです。パートナーのスターバックスへの満足度は社内でも重要指標と位置付けられ、店舗のオペレーションが複雑化する中で、いかに顧客満足度とパートナー満足度を一緒に高めていけるかが重視されています。

約6万人のパートナーのうち7割が10~20代の若い世代です。働く先として沢山の選択肢肢がある中で、一人ひとりがスターバックスで働くことに誇りを持ってもらうにはどうしたらいいか。多様化も進む中、そのニーズにどう応えるか。これからのマーケティングの領域は、単なる商品やサービスのプロモーションに留まらず、パートナーのマネジメントやエンゲージメント向上も含めて経営目線で包括的に考える「ピープル・マーケティング」が重要な要素になります。

スターバックスはたとえるなら、お店がパートナーにとっての舞台で、パートナーが演者。商品やプロモーションはそれらを彩るもので、全てが揃ってスターバックス体験は完成されます。私自身も、パートナーがお客さまに体験をお届けするところまで、マーケティングとリテールと一貫して担ってみたいという希望があり、その希望が今回叶った形です。

藤原 パートナーが満足すれば、自ずとお客さまも満足するというロジックなのですね。10数年前に、「世の中で1つだけアルバイトに困らない会社がある。それはスターバックスだ」と聞き、納得したことがあります。新店を出した瞬間にアルバイトに応募が殺到する。それはパートナー体験を重視されているからなのだろうと思います。

顧客体験を創出するマーケティングの話もお聞きしたいのですが、デジタルではどのように提供しているのでしょうか。
 
ユナイテッドアローズ
執行役員 CDO 兼OMO 本部 本部長
藤原 義昭 氏

 小売業でマーケティング、EC、システム部門を統括し営業戦略から社内全体のDXを行う。2021年4月ユナイテッドアローズ入社、CDOに着任し、物づくり、サプライチェーン、顧客接点など、社内をデジタル化していくことをミッションとして推進している。

森井 「Mobile Order&Pay」「STABUCKS REWARDS」「ギフティング」の3つは、特にコロナ禍で加速したデジタルサービスです。当初は感染対策として加速したのですが、今は利便性や「つながり」という点で重点施策としているものです。

まず「Mobile Order&Pay」ですが、お客さまがレジで後ろに並ぶ人に気を遣うことなく、じっくり考えながらカスタマイズを楽しんでいただけることもあり、非常に好評です。モバイルオーダーによってパートナーの負荷を軽減しつつ、お客さまの体験価値を高め、レジ以外のタッチポイントでお客さまとのつながりを深めることに結びついています。

藤原 UX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)は、誰がどのように意思決定されるのですか。

森井 モバイルオーダーについては専任チームがあるので基本的にそのチームで取り組んでいます。顧客体験について、スターバックスで常にこだわっているのは「ロマンスと効率」です。

タップ数を少なく効率的にオーダーしたいというニーズがありますから、そこを高めていくのは当然です。しかし、それだけではトランザクショナルな関係にしかならないですし、効率化だけが続くと、「便利だけどつまらないよね」となります。

モバイルオーダーは、今のカスタマイズの方法が一番楽しいかというと、まだまだ良くしていく余地があると思うので、よりパーソナルに進化させることがスターバックスらしい「ロマンス」の体験だと考えています。

藤原
 2つ目は「STARBUCKS REWARDS」というロイヤルティプログラムですね。僕たちのようなアパレルの小売だと、デジタルの良さは24時間接客でき、深夜でもモノが買えるところにありますが、スターバックスの場合は店舗が開いているときしか売上にはなりませんよね。このプログラムはどのように取り組まれているのでしょうか。

森井 「STARBUCKS REWARDS」は、お客さまと1対1のコミュニケーションを取れる機会としてコロナ禍で一気に加速し、現在1300万人ほどの会員数となっています。たとえば、新商品が出たときにはそのカテゴリーをよく購入している方々にレコメンドしたり、新店が出たときにそのエリアにお住まいの方々にお知らせしたり、お客さまの購買タイプ別にアプローチを変えています。非常に重要なコミュニケーションチャネルだと位置付けていて、今後サービスの拡充も考えています。

藤原 3つ目の「ギフティング」とはどういう施策でしょうか。

森井 大きいものだとLINEさんと取り組んでいるLINEギフトですね。これもコロナ禍で大きく広がったデジタルサービスです。大学生など若いお客さまの中では、ギフトというよりもコミュニケーションのきっかけのツールのひとつとしても使っていただいているようです。これについても、まだまだ可能性があると思っています。

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