リテールアジェンダ2023レポート ##01

リテールにおける新たな価値の見つけ方、スターバックスCRMO森井久恵氏が語るピープル・マーケティングの重要性【リテールアジェンダ】

 

ピープル・マーケティングの一丁目一番地は「理念の浸透」


藤原 先ほどおっしゃっていたパートナー体験、パートナー満足度というのは、会社全体の戦略を100とすると、どの程度大切にしているのでしょうか。

森井 80くらいでしょうか。パートナー満足度はKPIを設定し、四半期ごとに計測して、各エリアのリーダーたちがトラッキングして、上下したときには、そのときに必要なアクションをとっています。

たとえばプロモーションで、すごく仕込みが複雑なものになると、満足度が如実に低下します。負担が大きいのですね。そういうときは即座にオペレーションを見直してパートナーが働きやすいようにアップデートしていきます。

藤原 店長やエリアマネージャーへの評価は、売上とパートナー満足度ではどちらが大きいのですか。

森井 「売上か、パートナー満足度か」というトレードオフでは見ていません。売上目標を持ちながらも、それを達成する要素としてパートナーの体験向上を図り続けていくことが重要です。

藤原 スターバックスでは「多様なパートナー一人ひとりが能力を最大限発揮でき、『誰もが自分の居場所』と感じられる社会の実現を目指しています」と掲げられています。具体的にどういうことでしょうか。

森井 スターバックスはコーヒーカンパニーではなく「ピープルカンパニーだ」という創業者のハワード・シュルツの想いから始まった会社です。人はひとりでは生きていけないので、お互いがつながることでエネルギーとなり、豊かな生活を送ることができます。その「居場所」を作るのがスターバックスの役割です。

「居場所」とは、お客さまの居場所であると同時に、そこで働く人の居場所であるという意味でもあります。スターバックスでは、従業員という言葉は使わず一緒に働く仲間をパートナーと呼び、その満足度を重視しているということです。

藤原 お店のコンディションを良くするのがピープルマネジメントとすると、それは仕組みで行っているのか、理念の浸透で行っているのか、どちらが大きいですか。

森井 理念の浸透だと思います。スターバックスの場合、アルバイトパートナーも全員、会社のミッションを理解するための対話の時間をとっています。最近、ミッションがアップデートされたのですが、これを全パートナーに理解・浸透するために、半年かけて小さなグループでセッションを続けています。

ミッションのどこに共感し、どこに違和感を覚えたか。それはなぜなのか。日々の行動に落とし込むと何が変わるのかといったことを対話するセッションを、全員に対して行っていきます。そこに会社として大きなリソース、エネルギーをかけており、理念の浸透は一丁目一番地なのです。
  

藤原 パートナーとのエンゲージメントはどのように醸成しているのですか。

森井 ミッションをベースにして、パートナーの満足度やエンゲージメントを高めていくために、一人ひとりが大切にしているものとスターバックスが大切にしているものが重なり合う共通点を、四半期ごとの上司・部下、店長・パートナーの面談ですり合わせています。会社と自分が目指したいことのベクトルを合わせるというところが、パートナーが力を発揮する源になると考えています。

藤原 それが目に見えて現れたトピックはありますか。

森井 たとえば廃棄物削減の一環として、タンブラーの利用率を上げるためのプロジェクト「タンブラー部」を継続的なキャンペーンとしてスタートしました。

パートナー自ら、「部活の心得」「おすすめのタンブラーの使い方」などをお客さまに楽しく呼びかけていったことで、1カ月間のタンブラー利用総数は120万本以上にのぼり、昨年の月間利用平均数の約1.7倍になるという成果を挙げました。

全社的に取り組むサステナビリティのアクションについても、お店がさらに工夫して発信することでお客さまに伝わり、一つひとつのお店の違いにもつながります。そしてそれは、パートナー自身に想いがないと自律的なアクションにつながりません。やはりパートナーの共感が根底にあると思います。

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