リテールアジェンダ2023レポート ##01
リテールにおける新たな価値の見つけ方、スターバックスCRMO森井久恵氏が語るピープル・マーケティングの重要性【リテールアジェンダ】
サステナビリティをいかに事業のど真ん中で行うか
藤原 もうひとつ、これからのマストアジェンダであるサステナビリティの話をさせてもらいたいと思います。日本企業だと「言っているだけ」になったり、やっていてもお客さまを巻き込めていなかったりすることが多いです。スターバックスの取り組みを教えてもらえますか。
森井 サステナビリティのアクションは多岐にわたり、正解もない。社内では「Walk The Talk」をひとつの指針として掲げています。言う以上にやる、という意味なのですが、まずはできることから愚直に取り組んでいくということです。
たとえば、スターバックスのお店から出る廃棄物で一番多いのはコーヒーの豆かすですが、これを廃棄物にしないために畑の堆肥にして再利用し、そこで育った野菜を店内で販売しているサンドイッチに使うといったリサイクルループを作っています。再利用には手間もコストもかかる部分もありますが、そこに投資するために、価格に見合った価値を商品として提供できるよう努力を続けています。
また、環境配慮型店舗の国際認証「Greener Stores Framework」を取得した「グリーナーストア」日本1号店となる「皇居外苑 和田倉噴水公園店」がオープンから約2年が経ち、年明けにも認証店舗が100店舗へ広がる予定です。
お客さまを巻き込むという意味では、気軽にリユースに取り組んでいただける「タンブラー部」のような取り組みや、2023年3月から導入された店内グラスによって、よりビバレッジを見た目にも美しく、より美味しく召し上がっていただけるようになり、環境へのアクションをお客さまに押し付けるのではなく、スターバックスらしいアプローチで楽しんでいただけるよう常に考えています。
サステナビリティへの取り組みは、「やっているふり」はいくらでもできます。しかし、やはり「事業のど真ん中」に置かなければ、本当のインパクトは生まれません。日本はまだ、サステナビリティに取り組んでいるかどうかでブランドを選ぶお客さまは少ないとはいえ、明らかに世界の潮流としては主流となってきています。いかに日本に合ったやり方で、事業の真ん中でできるかというのは、挑戦ですね。
藤原 最後のスライドに、「ブランドをつくるのは人」と掲げてくださいました。これはどういう意図があるのでしょうか。
森井 スターバックスはパートナーが作っている体験=お客さまの体験価値になります。どんなにいい商品を提供しても、お店での対応に不満があれば、全てのブランド体験が台無しになってしまい、二度と来ていただけないこともあるもしれません。
これから働く人口が減っていく中でいかにピープルマーケティングでパートナーの満足度を高め、スターバックスで働きたい、働き続けたいと思ってもらえるバリューをつくれるかは、大きなマーケティングのテーマです。
藤原 今回、森井さんがリテールまで統括することになったのは、会社の意思のような気がします。顧客体験を高めるという大前提を実現するために、商品もお店のマーケティングも全部やらないとダメだと。その象徴が森井さんです。そして店舗にいるパートナー一人ひとりにも、商品を自分なりにお客さまにプロモーションしてもらうなど、粒度は違えど同じことをやる。その意思が今回の人事に表れていると感じました。最後に、今後について何かお考えはありますか。
森井 「人」を大事にすることは引き続き取り組んでいきます。さらに、スターバックスは「地域」を大事にしています。どう個性を出して地域とつながれるかは、個人的にも突き詰めていきたいテーマです。2021年に販売した都道府県別にパートナーのアイデアを商品化した「47 JIMOTO フラペチーノ」でも、その想いを強く反映しましたが、もっと恒常的につながって地域経済に貢献することができないか考えたいと思います。
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