トップマーケターに聞くダイレクトマーケティングの重要キーワード #01

デジタル全盛の今こそ? 青山商事株式会社 藤原尚也氏が語る最新DM活用法【トップマーケターに聞くダイレクトマーケティングの重要キーワード】

 デジタルツールやSNSの普及、コロナ禍によるECの隆盛とその反動、生成AIの台頭や物流問題。企業と消費者が直接やり取りするダイレクトマーケティングを取り巻く状況は、近年急激に変化している。それに伴って従来、基本的すぎてあらためて考える必要がないと思われたダイレクトマーケティングの用語や手法についても、その内実を問い直す時期が来ているのではないだろうか。

 2024年3月7日~9日には鹿児島市でカンファレンス「ダイレクトアジェンダ2024(主催:ナノベーション)」が開催され、ダイレクトマーケティングを巡る最新の知見が、全国から集まるマーケターらによって交換される。本連載はカンファレンスへの予習を兼ねて、敢えて基本的な重要キーワードについてトップマーケターに尋ね、その本質や最新潮流を深掘りしてもらう連続インタビューだ。

 第1回はダイレクトマーケティングの必須アイテム「DM(ダイレクトメール)」に焦点を当てる。デジタル全盛の今、アナログなDMに潜むOMO(Online Merges with Offline)な活用法とは?本カンファレンスのカウンシルメンバーであり、「全日本DM大賞」(日本郵便株式会社主催)の最終審査委員も務める青山商事 デジタルコミュニケーションヘッドオフィスゼネラルマネージャーの藤原尚也氏に聞いた。
 
【DM(ダイレクトメール)】
企業から郵送などの配送方法によって、見込み顧客の元に直接届けられる手紙や チラシ、パンフレットなどの印刷物、またはその手法を指す。電子メールやSNS のダイレクトメッセージとは区別して、主に紙媒体のものを指すことが多い。
 
藤原 尚也 氏
青山商事株式会社

 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTSUTAYA店舗、ツタヤオンライン事業、DBマーケティング事業を立ち上げる。その後、外資系化粧品会社のデジタルマーケティング責任者を経て、独立。アクティブ合同会社CEOに就任。青山商事にて「洋服の青山」のデジタル戦略などを推進する。
 

優良顧客向けなら最強? マーケティング全体の中で効果的な活用を


――本日はまず、藤原さんとDMとの関わりを教えてください

 私の経歴から「デジタルのイメージが強い」と思われますが、実はTSUTAYAの店長だった頃からDMには携わっていますし、通販事業においては顧客が直接手に取る商品の入れ物や同梱物に非常にこだわってきました。ここ数年は日本郵便株式会社主催の「全日本DM大賞」の最終審査委員を務め、特に近年需要が高まる「データドリブン」なDMに注目しています。マーケティング全体の中でDMがどれだけ価値を持って存在できているかを見ています。

――DMは昔からある手法ですが、ここ最近の潮流をどう見ていますか。

 DMを巡る環境はここ数年、大きく変わりました。まずコロナ禍前は、手元に届いて意外性のあるもの、とにかく顧客に開けてもらうためのインパクト重視のDMが主流でした。それがコロナ禍で、クーポン付きのDMを送っても顧客がリアル店舗に行けない状態になると、実店舗誘導型のDMはほぼ姿を消し、QRコードで動画を見せたり、ECサイトに飛んでアクションを促したりという、デジタルとの融合型が増えました。BtoBビジネスを展開する事業者のDMが増えたのも特徴的です。得意先に行って自社のカレンダーを渡す、といった営業ができなくなった代わりに、DMがカレンダーになるようなケースですね。

 コロナ禍が沈静化して実店舗の売上が復活してからは、デジタルとリアルを掛け合わせた、複合的なDMが目立つようになりました。私が審査員になる前の事例ですが、全日本DM大賞で金賞グランプリに輝いたディノス・セシールのDMは、ECサイトで商品をカートに入れて離脱した顧客のもとに即座にDMが届くというもので、秀逸でしたね。

 今はさらに進化して、たとえばアテンションでまずDMを送り、QRコード経由でECサイトに誘導し、アクションした人にメールを送り、それでも購買に至らなかった人にさらにDMで「キャンペーン終了間近!」とお知らせする、といったように、送る内容やタイミングを一層シームレスに複合した運用が見られるようになってきました。

――紙の印刷や発送が必要なDMは、メールなどのデジタルツールに比べて、コストや環境負荷、プライバシーの面でデメリットが思い浮かびますが、どんなメリットがあるのでしょうか。

 何よりまず手元に残って見てもらえるのがメリットです。メールやLINEが全盛の今、ポストに届くものってそれほど多くありません。見てから興味がなければ捨てられるとしても、手元に残ることで顧客の「滞在時間」を長くする効果があり、客単価の向上が見込めます。メールは一瞬で閉じてしまっても、紙のカタログは手元に置いて、たまにじっくり見たくなりますよね。お店でもWebサイトでも、滞在時間が長いほどコンバージョン率は高くなります。

 見てもらえさえすれば、アクションを起こしてもらうために何を仕掛けるかはアイデア次第です。QRコードやECサイトでのクーポンコードを入れるのもいいですが、店頭に持ってきてもらうインセンティブを付ければ、店頭で回収して販促効果も計測できます。そして、優良顧客に対してはパーソナライズしたQRコードを付けて、1on1のマーケティングが可能です。たとえば顧客に合ったコーディネートを提案したり、クロスセルで新商品をレコメンドしたり。うまくいけば客単価が上がるし、ABテストもできます。これらはメールでも簡単にできるけれど、まず見てもらえない。その点DMは確実に手元に残ることから、今やメールやLINEよりも費用対効果を測りやすくなっていると言えます。
  
出典:123RF

 特に優良顧客向けマーケティングツールとして、DMは絶大な効果を発揮します。たとえばスキンケア用品の顧客に、アンケートに答えてくれたらシャンプーの新商品をプレゼントします、というDMを送ったとします。答えてもらえれば、顧客情報のみならず髪の悩みなども聞けて、単にプレゼントを配るだけの場合と比べてリターンが大きくなります。良いレスポンスをくれた人にはさらにメールやDMでリテンションして…と、良い循環ができます。お客さまにとっても、DMを活用することで、より自分の悩みに合っていたり、タイミングよく欲しい商品のレコメンドが来たりするというメリットがあります。

 DMのデメリットとしては、やはりコストでしょう。原材料費や人件費・運送コストが上昇している上、切手代も値上がり予定です。確実にコストを回収して売上につなげる必要があり、だからこそ優良顧客に絞ったほうが効果的と言えます。あとは組織的な課題もあるかもしれません。昔から通販をしている企業はDMとデジタル部門が別になっていることが多く、一緒にストーリーを作ってシームレスにお客さまとの関係を紡いでいけなければ、効果が上がりにくいです。また、個人情報の取り扱いが厳しくなり、消費者がパーソナライズされ過ぎた情報提供を警戒する可能性があります。このあたりが、デジタルに比べて敬遠される理由かもしれません。

 でも、私は本質的にはDMでもデジタルでも、求められることは同じだと思います。クッキー規制によって、サイトを閲覧した人をトラッキングして広告やマーケティングに生かす従来の手法が通用しなくなる中、企業が顧客から直接得られるゼロパーティー、ファーストパーティーデータはとても貴重です。DMにしろデジタルにしろ、このデータを活用して、顧客とのコミュニケーションのタイミングと商品・サービスをどう組み合わせるか、複合的なマーケティングプランをつくれる人が求められています。それも単にDMやメールを見たお客さまをお店に送客するのではなく、たとえばスタッフとのチャットルームに飛んでいただいて、パーソナライズされた接客を受け、来店予約もしていただく、というような店舗体験とマージするOMOが重要です。

――見た瞬間に顧客を惹きつけるクリエイティブも相当にこだわる必要があるのでしょうか。

 多くの企業はやはり専門の広告会社に委託してDMのクリエイティブにこだわっており、相応のコストがかかるケースが多いです。ただ、たとえば町のパン屋さんやクリーニング屋さんがエリア限定で、シンプルなDMを出すことはありますよね。そのままポイントカードで使えるとか、店舗に持っていくと粗品プレゼントとか。大事なのはターゲットである顧客の望んでいるポイントを押さえることです。自治体と商店街が連携した地域活性化や行政の施策周知など、広報誌よりもDMのほうが効果を見込める場合もあるでしょう。

――DMの活用に課題を感じるダイレクトマーケターに向けて、メッセージをお願いします。

 既存顧客の重要性が増す中、MA(Marketing Automation)やレコメンデーションを担うデジタルツールがどんどん出てきます。当然ながらそれらは高い導入コストがかかる上に、導入してもマーケティングにうまく生かせない例が非常に多いです。ツールの導入ありきではなく、純粋に顧客が喜ぶコミュニケーションとは何か、その実現に向けてDMやメール・デジタルツールを組み合わせたマーケティングを考えるべきではないでしょうか。デジタルもDMも店舗も、本質的には同じです。複合的なマーケティングを検討してみてください。
 

ダイレクトアジェンダ2024 開催概要

 
名称
ダイレクトアジェンダ 2024
日時
2024年3月7日(木) - 9日(土) 
会場
SHIROYAMA HOTEL kagoshima(城山ホテル鹿児島)
〒890-8586 鹿児島県鹿児島市 新照院町41番1号
参加者
250名(通販事業主125名、パートナー125名)
参加方法
ブランド枠:無料(事前審査制)
プレミアムブランド枠:180,000円(税込198,000円)
パートナー枠:450,000円(税込495,000円)
ハッシュタグ
#DA24
主催
株式会社ナノベーション

ダイレクトアジェンダ2024 公式サイトは、こちら

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