リテールアジェンダ2023レポート #02

リテールメディアに見出す、日本の小売業の可能性【セブン&アイ-Google対談】

 

小売業界の構造的課題「愛の減衰モデル」


木村 業界をよく理解されているからこそ、変に逃げずに企業の強みやクリエイティブで何を伝えるかに集中するという策に至ったのかなと思います。その中で業界が抱える課題をモデル化されたと伺いました。

望月 はい、「愛の減衰モデル」と呼んでいます。メーカーの商品開発担当者は、お客様の熱心な声を聞きますし、すごくこだわりを持っています。しかし、小売との商流の中でひとつコマが進んで営業担当者になると、担当する商品カテゴリーの売上を最大化することが目標なので、こだわった商品だけを売ることだけに集中できるわけではない。

さらに小売企業の売場責任者になれば、複数のカテゴリのメーカー商品の中から何を売ってもいいわけです。こうしてお客様の手元に届くころには、商品へのこだわりや愛がだんだんと減っていきます。誰も悪くないんですが、この構造的な課題を何とかしたいと考えました。その中でリテールメディアは、小売とメーカーの関係の中に、「お客さまに対して、こういう取り組みをしよう」というムーブメントを起こす新しい武器になると思っています。

木村 商流で分断されている小売業界でまさに発生している課題ですよね。それを解消する道筋としても、リテールメディアは期待できます。米国ではすでに大きな市場規模になっていますが、日米の違いについて望月さんはどのように見ていますか。

望月 米国のリテールメディアの市場は2023年に6.8兆円で、2027年にはさらに2倍以上成長すると言われています。その上で日米の小売業との違いは、たとえば市場占有率が挙げられます。米国の場合、ハイパーマーケットの大手4社だけで98.8%占めているのに対し、日本はGMSを合わせて63.31%です。日本にはローカルの強いチェーンがあるので、大手に乗っかるだけでは不十分なんですね。

また、米国は資本が大きくテックベンチャーを買収できる体力があるのでテクノロジーを内製化できています。一方、日本はローカルで分散していて大きな資本がない場合が多いのでテクノロジー投資は限られており、SIer(システム開発などを請け負う企業)のサポート体制に頼ってきたという背景があります。
  

木村 たしかに日本の小売業の場合、流通や商材に詳しい人は多くても、リテールメディアの分析やデータ、デジタルマーケティングを語る人が少ないのが現状だと感じます。今後、国内でリテールメディアを活性化させていくためには何が必要でしょうか。

望月 難しいテーマですね。経営者の意識も少しずつ変わってきていて、テクノロジーが重要であることは理解していると思います。しかし、どうやったらよいのかという具体的なHOWの領域まで至っていません。そこを推進できるリーダークラスの人材が入ってくることが重要ではないでしょうか。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録