リテールアジェンダ2023レポート #02

リテールメディアに見出す、日本の小売業の可能性【セブン&アイ-Google対談】

 

リテールメディアは広告ではなく「メディア事業」


木村 実際にイトーヨーカドーでは、リテールメディアにどういった姿勢で取り組んでいますか。

望月 セブン&アイグループはIRの中で、大きな2つの柱のうちひとつが金融、もう一つがリテールメディアであると明確な成長戦略として示しています。ありがたいことにセブンイレブンアプリの会員数は約2200万人、イトーヨーカドーアプリも約290万人と、多くの人に使っていただいています。そのおかげで7iDに紐づいた顧客データは約3000万ほど保有しています。この会員の方に、リテールメディアで接客し、いろいろなメーカーとタッグを組んで価値を届けたいと考えています。

木村 ネットスーパーなどのECが伸びるほど、リテールメディアも勃興するのではと期待していますが、いかがですか。
  

望月 おっしゃる通りだと思います。ECの買い物行動を見ていると、「いいな」と思った瞬間に買えることがダイレクトに効果につながる。そのため、商品の良さを紹介して、その場でその瞬間に買えるといった体験をどれだけ上手につくれるかが重要だと思います。

ただし、日本の状況ではすべての対象エリアをネットスーパーで網羅するのは難しいので、小売ごとに合わせて、ネットスーパーだけでなくリアル店舗やアプリ、ホームページを組み合わせるなど独自のスタイルを模索して、米国とは違うものが生まれるかもしれません。

木村 今後、リテールメディアの可能性がどう広がっていくのか、私も非常に興味深くみています。望月さんはどのように捉えていますか。

望月 リテールメディアは広告だと言われることもありますが、私は「メディア事業」だと捉えています。その中に、広告という要素も含まれているという位置づけです。たとえば、新聞が全部広告でしたら、誰も読まなくなります。先にユーザーが見たいコンテンツがあってこそ、見に来ていただけるのです。その前提で、どういう要素があったらお客様が嫌にならずに、私たちとお付き合いいただけるかという発想は、常に持っておきたいですね。

木村 ありがとうございます。小売としてリテールメディアをやることによって、何が変わっていくのでしょうか。

望月 リテールメディアでは、「買いたい気持ち」の最大化を目指すことがすべてだと思っています。そこで小売の何が変わっていくかというと、メーカーとの関係性です。購買データや店舗での動線といったさまざまなデータをかけ合わせて、顧客理解を進めます。その知見をメーカーにもっと提供して、一緒にお客様をつくっていくのだという考え方が必要です。小売は、もっとメーカーに寄り添った取り組みが求められてくるのではないでしょうか。

木村 まさに私もメーカーから、リテールメディアをどう考えたらいいのかという問い合わせを多く受けます。小売とメーカーの関係性が、変化していきますよね。

望月 「デジタルでないと、リテールメディアでない」みたいなテーマもあり、オンサイト・オフサイトが議論になりますが、それはあくまで手段の話です。商品とクリエイティブをきちんと掛け合わせて出していくことが、リテールメディアとしての重要なポイントだと思っています。

こういった考えから、当社はオフラインのコミュニケーションにも注力していこうとしています。たとえば、ネットスーパーでお買い上げいただいたお客様にフリーマガジンを同梱してお届けする取り組みを予定しています。商品とお客様が出会う場所をオンオフ問わず増やしていきたいと思っています。

最後に宣伝になりますが、11月20日に私が編集に携わった書籍『リテールメディア』(日経BP)が発売されます(※編集部注:登壇時は発売前)。リテールメディアの優れた取り組みをされている企業が登場し、生々しいレポートも載っています。ぜひご覧いただいて、こんなにたくさんのリテールメディアにチャレンジしている人たちがいるんだということを知っていただきたいです。

木村 本日はありがとうございました。
  
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