あなたのクリエイティブ・ジャンプは何ですか?~ネプラス・ユー京都2024 特別企画~ #12

「一泊100万」は安かった?世界遺産・仁和寺が資産活用とデジタルに舵を切った理由【ネプラス・ユー京都2024特別企画】

 

無料とデジタル化は未来への投資


―― 富裕層の集客を狙う一方で、庭園や霊宝館の拝観料を高校生以下無料にしたのはなぜですか。

 無料化は段階的に進め、2021年6月から高校生以下は完全無料にしました。もともと、修学旅行生はたくさん来てくれていたのですが、無料の境内のみを回って帰ってしまう人が多かった。せっかく来たのだから、もっと踏み込んでほしいという思いがありましたし、拝観者層を若い世代に広げる必要も感じていました。高校生以下を無料にしたことで年間6~7万人が無料対象になり、そのうちの何割かでも、将来また参拝してくれたら、中長期的に参拝者層は広がっていくはずです。SNSでの映えを意識した境内のライトアップにも、そういった狙いがあります。

 また無料化と同時に、18歳以上の拝観料は引き上げたのです。その際はちゃんとプレスリリースを出して、今申し上げたような背景や事情を説明しました。「親子で気軽に来られるようになった」などと反応があり、ご理解いただけたと感じましたね。来訪者数はコロナ禍があったためにまだ完全に回復していないのですが、拝観料全体は、無料化前よりも増えているのです。

―― コロナ禍の2020年5月には、成就山の整備事業計画に伴う「OMURO88」プロジェクトも始めましたね。仁和寺の裏手にある成就山にあるお堂88カ所を擬人化したキャラクター「御室ムスメ」は、寺院の取り組みとしては異色な印象です。



 OMURO88で整備を計画している88カ所のお堂は1827年に創建されました。経年劣化で、お堂や参道など成就山自体がボロボロになっており、整備計画のひとつとして、88人の「御室ムスメ」というキャラクターを生み出しました。キャラクターコンテンツが好きな方々に成就山の状況を見てもらったり、グッズ販売したりして売上の一部を整備事業に充てることを目的としています。コロナ禍で、なかなか思うようにイベントを開催できませんでしたが、公式Twitterでの発信やリアルイベントの開催でファンとのコミュニケーションを続けています。88人のクリエイターや声優、プロデューサーなど多くの人に関わってもらった本格的なキャラクターコンテンツなので、NFTアートとしても活用していきたいですね。

 コロナ禍にはECサイトを開設したり、御所庭園をデジタル空間で擬似体験できる3次元コンテンツを公開したりもしました。これらを本格的な収益基盤にするほどのリソースをさけていないのが現状ですが、拝観料以外で収益を得るための環境と、さまざまな方向に活用できるデジタル資産をつくれたことには、大きな意義があったと思います。その意味で、高校生以下無料化と同じく将来への投資です。3次元データやキャラクターを使って、アニメやゲームといった新たなコンテンツに広げていく可能性も考えています。

―― 格式の高いお寺が斬新な集客施策を行うと、驚きや批判の声が起こることもあります。金崎さんが施策展開や情報発信で心掛けていることはなんですか。

 宗教活動とお金を稼ぐことに対しては、いろいろな考え方があると思います。ただ、仁和寺に入って以来、危機感に突き動かされてさまざまな施策を考え、発信してきた身としては、「一貫性」を重視しています。一見、突飛な取り組みに見えても、過去からの数珠繋ぎになっていることをきちんと説明するということです。

 たとえば寺宝を使った体験に対して、お金をいただくということは、「勧進」と呼ばれる昔から行われてきた宗教活動の延長と考えられます。ラグジュアリーな日本文化の体験や、現代のクリエイターやアーティストとの連携も、昔から文化の発信地であり、職人に仕事を依頼することで文化を育ててきたお寺の役割を果たしていくことに他なりません。そして境内施設の維持管理は、人々が参拝するための場所を守るという、寺院活動における最も重要な部分です。

 かつての仁和寺は、僧侶は祈ることに集中していればよかったかも知れませんが、社会の変化に伴って、祈る以外のことも考えなければならなくなりました。自分たちで経営やマーケティングの知識を身につけたり、必要に応じてコンサルタントに依頼したりするなど、他の企業が当たり前にやっていることをやらねば、活動を維持できないのです。

 ここ数年、メディアに取り上げられるようになった各施策は、実はかなり前から準備をして、ようやく芽が出たものばかりです。これからは寺宝や松林庵などの資産活用をよりブラッシュアップすることに加え、せっかくつくったデジタルコンテンツやECサイトをもっと活用していく必要があると考えています。

―― 社員(僧侶)のマインドを変え、体験やデジタルなど新たな価値を創出していくクリエイティブな姿勢は、ほかの寺社や企業にとっても参考になりそうです。本日はありがとうございました。
 

クリエイティブ・ジャンプなアイデアが結集


 5月20日、21日に京都で開催される「ネプラス・ユー京都2024」には関西を拠点としてクリエイティブなアイデアを実行して成果に結び付けているスピーカーや、全国のマーケターが多数集結する。バラエティーに富んだ施策や思考法からインスピレーションを得て、ビジネスの成果へとつなげる機会にしてほしい。
 

ネプラス・ユー京都2024 開催概要

  
名称
Ne Plus U 京都 2024(ネプラス・ユー 京都 2024)
日時
2024年5月20日(月) - 21日(火) *2DAYS
会場
京都テルサ テルサホール
〒601-8047
京都府京都市南区東九条下殿田町70 JR京都駅(八条口西口)より南へ徒歩約15分
参加方法
ブランド(2DAY):無料(事前審査制)
ブランド(ワンデイ):無料(事前審査制)
プレミアムブランド枠:100,000円(税込110,000円)
パートナー枠:250,000円(税込275,000円)
定員
250名
ハッシュタグ
#NPU24
主催
株式会社ナノベーション
特別協力
アジェンダノート(Agenda note)
ネプラス・ユー京都2024 公式サイトは、こちら
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