ダイレクトアジェンダ2024 #06

中川政七商店会長が、あえて「マーケティング」と「ブランディング」を分けて考える理由【ダイレクトアジェンダ2024レポート】

 

マーケティングとブランディングの違い


西井 では、中川さんの考える「マーケティング」と「ブランディング」は、どのように違うのでしょうか。
 
シンクロ 代表取締役社長
西井 敏恭 氏

 1975年福井県生まれ。2年半にわたる世界一周の旅行記を更新したWebサイトが人気となり、帰国後、旅の本を出版し、EC企業にてデジタルマーケティングに取り組む。二度目の世界一周の旅をしたのち、2016年にシンクロを設立。大手通販・スタートアップなど多くの企業のマーケティング支援やデジタル事業の協業・推進を行うほか、複数企業の取締役を兼任する。その傍ら旅を続け、訪問した国は150カ国近く。 全国のマーケティングイベントやビジネスフォーラムでの講演、雑誌・新聞・テレビなどメディア掲載多数。

中川 一番わかりやすい違いは、「マーケティング=市場起点」で「ブランディング=自分たち起点」であることだと思います。

たとえば包丁屋であれば、どのような包丁が売れるのかを市場に問うて、それを起点とすることがマーケティング的な視点です。一方で、自分たちに包丁屋として何がしたいのかを問うて、それを起点にすべてを組み立てていくことがブランディング的な視点だと思います。その場合、同じ包丁屋でも100軒あれば100通りの目指す世界があるはずなんです。

西井 なるほど、すごい発見ですね。

中川 若干偏った見方かもしれませんが、やや短期的ながらもどのように最大瞬間風速をつくるか、いかに商品を売るかというのがマーケティングで、いかに中長期的に積み上げていくか、どのように世界観を理解してもらうかがブランディングだと思っています。

具体例を挙げると、日本の家電メーカーがAppleのiPhoneに見事にやられた話がわかりやすいかもしれません。機能性や価格面では日本のメーカーも決してiPhoneに負けていなかったと思いますが、日本のメーカーはあくまでもプロダクトの勝負をしていたのに対し、iPhoneは「これから先どのような世界を描いているのか」を示しました。それで、iPhoneは見事に勝っていったんです。

西井 そう考えると、中川さんが定義するブランディングができている日本のブランドはすごく少ないのかもしれませんね。

中川 そうですね。あまりピンとくるところがないなと思います。私がこのようにブランディングが大切だという話をすると、「私もまったく同じことを思ってて」と言われることが多いのですが、だいたい話が合わないんですよね。

なぜ合わないのかというと、その人たちが指しているブランドと、私の指しているブランドが違うんですよ。我々は、ブランドを「差別化され、かつ一定の方向性を持ったイメージにより、商品・サービス・会社にプラスをもたらすもの」と定義しています。商品には機能的価値と付加的価値の2つがありますが、付加的価値を高めることがブランディングだと理解している人が多くいると思います。

会場の皆さんに聞きたいのですが、ユニクロはブランドでしょうか。ユニクロをブランドだと思う人はどれくらいいますか。…7割くらい手が挙がっていますね。

西井 私も手を挙げましたが、どうですか。

中川 私もブランドだと思いますが、極論を言えば、ご自身の思うままでいいと思います。大切なのは、この質問をされたときに頭の中で何を考えたのかということです。

おそらく商品のことだけを思い浮かべた人はほとんどいないでしょう。手を挙げた人は、皆さんが知っているユニクロの情報を頭の中に引っ張り出してきて、総合的に考えた結果、ブランドだと思ったのではないでしょうか。皆さんそれぞれユニクロに異なる体験をもっていると思いますが、商品のほかにもテレビCMや店頭での接客、店のインテリア、チラシ、新聞、柳井社長のインタビューなど、いろいろな要素があって、それらをすべて含めてひとつのブランドイメージができているのです。

つまり、ブランドだと思われている付加的価値というのは、そのひとつの要素にすぎないのです。我々が考えるブランドとは、すべてのタッチポイントをコントロールして、あるべきイメージをつくっていくことです。言い換えれば「総力戦」ですね。
 


西井 先ほどの、マーケティングとブランディングの違いの話とも似ているかもしれませんが、価値をつくるというのはマーケティングであって、ブランディングの一部分でしかないということですかね。

中川 そうですね。ブランディングが総力戦だと考えれば、組織のつくり方も非常に大切になります。ブランディングを組織のいち機能としての部署に置くのではなく、全社に横串を刺すような形でブランドマネジメントの部隊が存在しなければ、ブランディングは成り立たないわけです。

わりと大きな会社にはブランドマネージャーが存在しますが、実態を聞くと、単に部門を超えた調整役になっていることが多いと思います。そうではなく、一気通貫でブランドをコントロールし、ジャッジする強い力を持たなければならないと考えています。

西井 では、全社として一気通貫でブランドをコントロールし、ブランディングに取り組んでいくためには、どのようなことに取り組む必要があると思いますか。

中川 私は「伝えるべき情報を整理して(コンテンツ)正しく伝えること(コミュニケーション)」が必要だと考えています。その結果、お客さまの頭の中に何らかのブランドイメージが形づくられ、それが何らかの拍子にお客さまの頭の中できちんと想起されて、最終的には買ってもらえるということになります。お客さまの頭の中に、ひとつポジションを取るようなものだと思っています。

また、私はよくブランドをつくるということは、空のコップを置くようなものだと言っています。ブランドの体裁が整った時点では、コップは空の状態です。そこに、いろいろなコミュニケーションをしていくことで、「ブランド力」という名の水が溜まっていくわけです。この水を溜めるフェーズのほうが圧倒的に大切ですが、それをわかっていない人が多いなと思います。

※後編 中川政七商店会長が語る、究極のブランディングの先にある「ライフスタンス」【ダイレクトアジェンダ2024レポート】 に続く
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