ネプラス・ユー京都2024 #05
「キャンパスノート」「しゅくだいやる気ペン」なぜコクヨはヒット商品を次々と生み出せるのか、その本気度を黒田社長が明かす【ネプラス・ユー京都2024レポート】
「未充足ニーズ」にこだわる
廣澤 痒いところに手が届くようなステーショナリーから、不動産事業、オフィス用品などビジネスサプライ流通事業など、本当に多角的な事業を展開されていらっしゃるのですね。ここからは本題として、組織としてのクリエイティビティについて伺っていきたいと思います。文具メーカーとしてユニークな商品を多数出していらっしゃいますが、製品開発プロセスにおいて独自性はあるのでしょうか。
黒田 2つあって、ひとつは月並みではあるのですが、とにかく顧客の「未充足ニーズ」を捉えることを重視しています。世の中がまだ満たすことができていないニーズ、顕在化しつつあるけどもまだ広がってはいないニーズです。
TAM(Total Addressable Market:ターゲットとなり得る市場規模)、SAM(Serviceable Available Market:実際にアプローチできる市場規模)、SOM(Serviceable Obtainable Market:現実的な顧客の市場規模)を大きくしていくことを狙うように言っています。新商品を出す時は、デザインやアイデアとともに、今はすごく小さなニーズだけれど、市場は将来ここまで大きくなる、という発想を企画の入り口にしているところがユニークかもしれません。
そして商品開発のゲートを進むと、たいていの場合、最初の企画段階から比べると冷めています。「こんなの欲しいと思う人いないよね」とか「こんなの作れるのか」みたいに。でも、そこで最初の企画者が説明責任を果たすというのではなく、バリューチェーンのいろいろな人が関わって、その不確実なニーズをどうやったら大きく広げていくか、どういうデザインにすればマーケティングの効果が上がるか、どこまで原価を詰められるかなど、企画の確度を上げていく深掘りを、組織として進めていきます。もし確度が上がらなければ、残念ながらお蔵入りですが、次のタームでまた、チャンスが回ってくるかもしれません。
もうひとつは、今も少し触れましたが粗利率です。粗利率が低いとやはり価格競争で負けてしまいますし、もしくはロットが小さいから原価が出せません。売上を狙い過ぎると最初から無謀な企画になりがちになりますが、我々としてはとにかくシェアをどう上げていくか、そして利益率をどう上げるかということにこだわりながら、今はまだ小さな未充足ニーズを捉えた商品企画を持ってくるように呼びかけています。
廣澤 一般的な製品開発ではステージゲートプロセスのように、企画を持っていってチェックが入って、試作品をつくってチェックが入ってというように、ふるいにかけていくイメージですが、コクヨはアイデアを膨らませていくイメージなんですね。
黒田 そうですね。オプションが増えていくということだと思います。商品化する時に、どういうデザイン、どういうターゲット、どういうチャネルがいいかは、顧客のニーズによって違います。そのニーズを叶えるために必要な商品の仕様や売価、プロモーション施策も、必ずしもひとつじゃない。
もちろん最終的には絞っていきますが、皆でアイデアを出して企画を進めようという時に「それは昔やって失敗した」とか「昔見たことがある」とか言う人には、バツのマスクを着用させていました。最近もやっているかは、ちょっと分かりませんが。