ネプラス・ユー京都2024 #06

「誠実な変態であれ」コクヨ黒田社長が語るヒット商品開発の真髄【ネプラス・ユー京都2024レポート】

 

どんどん実験する


廣澤 突き詰める力はどのように上げていくのですが。

黒田 企業理念の中にいくつかキーワードがあるのですが、「実験カルチャー」というものがあります。これは文具やオフィス家具といった身近な商品を、まずはちょっとつくってみよう、プロトタイピングしてみようと促す文化です。最近は3Dプリンターなどで比較的簡単に試作品をつくれますが、やっぱり「お金がかかる」とか「変なものをつくったら上の人に怒られる」とか考えがちです。しかし、我が社ではどんどんプロトタイピングしていいと言っています。

たとえば、社員の間で使っている掲示板を見ると、新商品の消しゴムについて「中高生のお子さんいませんか」などとモニター募集する投稿で溢れていたりします。逆に何かアイデアが持ち上がったら、「プロトタイプしている?」「お客さんの声聞いてる?」と聞かれることもあります。

たとえ社内関係者であっても、「モニターからすごく良い反応があった」となれば、盛り上げて開発の流れに乗せていく、ということをしょっちゅうやっているのです。自分たちで身近なユーザーの声を聞いて、実験するという文化が根付いています。



廣澤 手が届く範囲から実験を始めて、アイデアを膨らませていく、乗せていくという感じなのですね。

黒田 社外にヒアリングしようとなると立ち止まってしまいがちですが、まずは社員の子供とか、先程話に出た「本に寄り添う文鎮」のようにモニターのコミュニティーをつくるなどして、身近なところで気軽に試したり、ヒアリングしたりできる仕掛けをつくっています。

ちなみに、オフィス事業もやっている我々のオフィスは「ライブオフィス」と呼ばれ、お客さまに私たちの働き方を見ていただけるようになっていますが、私が入社した約20年前にはすでに、フリーアドレスになっていました。社長になるまで自分の席というものをもらったことがなくて、早くからフリーアドレスを導入して分かったのは、人気がない上司の近くには部下が集まらないということですね(笑)。

また、私たちはマーケティングやクリエイティブはできるだけインハウスでやっています。たとえばパッケージデザインもまずはつくってみて、実際に売れるイメージまで想定するようにしています。社内で架空の陳列棚をつくって、競合の文具が並んでいる中で自分たちの商品は売れるのか、来社されるお客さまにもご協力いただいたりして実験しています。

廣澤 なるほど、つくる工程はOEMで外注することもあるけど、マーケティングやクリエイティブというコアな部分は絶対に内製化するのですね。コクヨの人材といえば、「コクヨのヨコク」のテレビCMシリーズがありますが、「ヨコク人材」とはどういう人材なのですか。
 
テレビCMで放映されているコクヨのヨコク

黒田 実は「コクヨのヨコク」というのは20年ほど前にPRでやったことを、企業CMとして復活させたものです。私たちは「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする」というパーパスを持っていますが、そのワークスタイルやライフスタイルは、絶えず変化していきます。コロナでは働き方や学び方、暮らし方も大きく変わりました。オフィスがいらなくなるかもしれないというのはやっぱり、衝撃的でした。文具だって、いらなくなるかもしれません。だからこそ受け身ではなく、新しい未来を誰より早く提案するのはコクヨでありたい。コクヨじゃなきゃいけない。未来をヨコクする会社になろうというパーパスです。

バカリズムさんのテレビ CMでもやっていますが、コクヨには社員に自分のヨコクを書いてもらうキャリアシートがあります。会社を通じてどんなことをやってみたいのか、どんな未来をつくりたいのか宣言してもらい、考えてもらう取り組みです。

廣澤 ヨコクする人材が企業理念の「be Unique.」にもつながるんでしょうか。

黒田 そうですね。元々、コクヨは帳簿の表紙屋さんから始まって、この120年を振り返ると事業を結構、ピボットしています。最初は文具や家具はほとんど関係なかったのです。商品だけでなく、事業にもライフサイクルが必ずあります。そもそも文具っているの?という問いかけも、今や現実味を帯びています。顧客の未来のワークライフスタイルを捉えていけば、事業をピボットするチャンスも、社内にはあるようにしていたいのです。

お客さまのニーズが無くなってくると商品はつくれなくなり、市場が成熟して飽和したら価格競争になってしまう。けれど、裏返せばユーザーが変わっていく限りは、企業もまた成長するチャンスはずっとあるということです。だから企業が新しい未来をつくっていかなければならない、まずはそれをヨコクします、ということなのです。じゃあ何をヨコクしているのか、何も言ってないじゃないかと、怒られたりもしていますが(笑)。

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