ネプラス・ユー京都2024 #06

「誠実な変態であれ」コクヨ黒田社長が語るヒット商品開発の真髄【ネプラス・ユー京都2024レポート】

 

クリエイティブの仕事はAIに奪われるか?


廣澤 「be Unique.」や「誠実な変態」、「ヨコク」といった、コクヨのクリエイティビティーを推進するキーワードが出てきましたが、そういう発信に対して社員の方々も前向きなのですか。

黒田 クリエイティブというと創造性、クリエイターのことを指すように聞こえますが、私はほとんど、人間性という言葉に置き換わると思います。人間らしく仕事したい、人と協力して新しいものを作りたい、人の役に立ちたい。そういう思いを乗せた、誰もが発する言葉だと思うのです。
  

たとえば、文具事業を考えた時に、どういう価値に着目すべきなのか。商品の機能価値など即物的な部分は最終的にはもちろんありますが、最初に着目するのはユーザーにとって何が体験価値になるかです。学生の気分が上がる、学校に行きたくなる、勉強したくなる。受験勉強の先にある人生を通して成長したいと思う。そんな思いと体験を学生たちに渡すのが、私たちのミッションです。

こう考えると、どんどん発想が出てくるんですよね。売れる商品は何なのかとか、どの流通に乗るのが大事だとか考えるより前に、どの顧客に何の価値を提供するか、新しい体験価値をどうつくるか。この両輪を生み出し、回すのはマーケターやデザイナーだけではありません。生産も開発も営業もプロモーションも流通も、みんなでその体験価値をどう生み出し、クリエイティブやマーケティングが狙ったお客さまにきちんと届いているか、価値をちゃんと体験してもらえているかにこだわる。顧客を中心に考えることで、会社の中の各種改革がどんどん関連づいて、連鎖して動いていっているという実感があります。

廣澤 コクヨの中で顧客の体験価値を中心に、クリエイティビティを発揮できる環境や機運が出来上がってきているのですね。一方で、昨今では人間性の拠り所と思えた創造性すらも、生成AIに奪われると危惧する声も高まっています。この先のクリエイティビティと、そこに従事する人々の働き方は、どうなっていくと思われますか。
  

黒田 月並みですが、生成AIやロボットは手段であって、人間は使う側であって使われる側ではないと信じています。コクヨでは「コクヨデザインアワード」といって年に1回、文具や家具のアイデアを集めて、受賞したら商品化するというコンペをやっています。カドケシなどはここで出てきた商品です。もし今、AIがアイデアを出してきたら、それだけでは恐らく判別がつかないでしょう。でも、なぜそれをつくりたいと思ったのか、なぜ思いついたかといった「ストーリー」の部分は、まだAIにはつくり出せないと思います。

AIはパッケージデザインや商品名のアイデアをたくさん出したり、売れ筋を予測したり、短時間で大量にこなすというのは確かに得意です。一方、本当にやりたいもの、自分たちとして主張したいもの、新しい価値を生み出そうという熱量のあるアイデアは、やはり人間からしか生まれないと思うので、人間はそちらに集中していくことになるんじゃないでしょうか。

たとえばコクヨのソフトリングノートという商品は、リングが鉄じゃなく樹脂なんですが、そこに至るまでの社員の「とにかく柔らかいリングをつくりたい」という熱量やアイデアは、凄まじいものでした。そういう人間のクリエイティビティは、AIやビッグデータだけでは、生み出されないと思うのです。

廣澤 組織や個人のクリエイティビティを高める方法や、クリエイティブとは何なのかという問いに、恐らく明確な答えはないと思いますが、黒田さんのお話から出てきた「誠実な変態」や、「突き詰める力」というのはクリエイティブだけでなく、全てのビジネスにおいて必要なんじゃないかと思いました。本日はありがとうございました。

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