ネプラス・ユー京都2024 #07

生成AI、ロボットはマーケティングをどう変える?アンドロイド権威の石黒浩氏が語る未来【ネプラス・ユー京都2024レポート前編】

 

自分よりはるかに優れた教師アンドロイド


石黒 人間らしいロボットが社会の中で少しずつ普及していく最大の理由は、人間の脳にあると思います。人間の脳は人を認識するためにある。たとえば以前、ある家電メーカーが「しゃべる炊飯器」をつくった時に、最初はみんな気持ち悪いと言っていましたが、今ではほとんどの家電がしゃべっていますよね。海外でも、しゃべる家電が受け入れられるようになったのはGoogle HomeやAmazon Echoが出てからなんですが、今となっては結局、すべて受け入れられています。

AIについても、さまざまな懸念がありながらも結局みんな、使っているわけです。人間にとって便利なものは必ず受け入れられます。それも単純な掃除ロボットと違い、人と関わりを持たなければいけない場面で普及していくのは、「人間らしいもの」であるケースがほとんどだと思います。

ここで重要なのは、いろんな「人間らしいもの」と関わることで、私たちは「人間とは何か」を理解しようとすることです。僕はそれが人間の生きる目的だと思うんです。お金を稼いだり、ご飯食べたりするのは手段であって、本来の生きる目的は人と繋がって自らを知って、自らをさらに進化させていく、社会をさらに進化させていくことにあるはずです。



なので、人間らしい機械やロボットと関わっていくことで、人間や社会というものを深く理解していく。インターネットの普及で人間の社会性はすごく拡張しましたが、これはインターネットを通して、人間社会がどのように発展していくのかを改めて考えさせられたわけです。それが人間の生きる意味であり、重要な活動だと思います。

馬渕 テクノロジーの普及を通して、人間や社会とは何かということを理解していくのですね。ロボットやアバターの社会実装についてご紹介いただけますか。

石黒 大規模言語モデルは大事な技術ですが、面白いのは、巨大なニューロンネットワークをつくれば、ここまで人間らしくなるとは誰も予想していなかったことです。少しずつ人間らしくなってきたと思ったら、OpenAIが思い切り巨大にしてしまって、社会実装できちゃった。従来、人と関わるロボットで最もボトルネックだったのが「対話」で、それが実現できないためになかなか社会実装できていませんでした。その難題が解決できてこの先、何が起こるか。より人間らしい高次の認知機能を実装できるかになりますが、感情や意識、考えるということは、人間自身にも実はよく分かっていないんですよね。

生身の人間が相手だと、その高次認知機能の解明は難しいです。でも、大規模言語モデルを使って社会関係を築けるようになったロボットが相手であれば、人間の意識や感情の秘密、仕組みを詳しく調べることができます。私自身、自分のアンドロイドをつくって大規模言語モデルを実装し、人間の高次の認知機能の解明・研究に取り組んでいます。

具体的には、私の著作10冊以上とメディアのインタビューをすべて仕込みました。するとどんな質問をしても正確に答えてくれます。私よりも遥かにハルシネーションが少ないです。生身の私の場合、同じ質問を受けるとイライラして適当な回答をしてしまうこともありますが、石黒アンドロイドであれば、学生は好きな時に好きな質問ができます。

現在の教育は、能力や好みが異なる学生に同じ速度で同じ内容を教えていますが、本来、間違っています。アンドロイドを全員に配ることはできませんが、スマホにCGのエージェントや、教育型AIを実装しておけば、好きなときに勉強できるわけです。私のインタビューから拾い上げて私の「人格」で面白いことも言ってくれます。もうこれがあれば、私は大学を辞めても、極端に言えば死んでも、アンドロイドが代わりを務めてくれるのです。むしろ、私より正しく知識を記憶しているし、何カ国語でも良い発音で話せますから、こちらの方がはるかによい教師ということになります。



馬渕 そのような研究を通して、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

石黒 このようなロボットやアバターの力を組み合わせて、内閣府の大型研究プログラム「ムーンショット型研究開発制度」では、アバターと共生する未来社会を日本で実現しようというプロジェクトに取り組んでいます。2050年までにアバター共生社会をつくるのが目標です。そこでは高齢者、障害者を含む誰もが多数のアバターを用いて身体的知覚能力を拡張しながら、常人を超えた能力でさまざまな活動に自在に参加できるようになります。いつでもどこでも仕事や学習ができるので、教育や仕事も思い切り変わります。

たとえば学校の大事な機能は友だちをつくったりアイデアを議論したりという点ですが、AIとアバターを使えば外国の子どもも日本の子どもと議論して友だちになれます。日本中の学校がインターナショナルスクールになるわけです。仕事では家にいながら専門的知識をAIに聞けるし、アバターを使えば世界中の人と議論できます。



病院でもアバターを活用できます。たとえばコロナ禍では、病院に行きにくいですよね。本来は医者が患者さんの家に行くべきで、アバターだったらそれが安心してできます。コロナで遠隔医療は一部認められましたが、今後もっと増えていくでしょう。

また、たとえば街の小さな耳鼻科にアバターを置いて大学病院と繋いでおけば、専門以外の診断もできるので、街の病院が総合病院に変わります。実際、長崎県の久賀島ではアバターを用いた遠隔医療モデルを構築して、活用いただいています。コロナ禍では高齢者施設の孤立が問題になりましたが、アバターになれば幼稚園の子ども達と交流することもできますよね。

※後編へ続く
 
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