マーケティングアジェンダ2024レポート #02
YOASOBIのヒットをフェーズごとに徹底解剖、最適解を探し続けることの大切さ【マーケティングアジェンダ2024レポート】
2024/09/04
NHK紅白歌合戦に出場した後の接点をつくる、「1~10」のフェーズ
徳力 では、YOASOBIプロジェクトとして2曲制作したら終わる予定だったのでしょうか。
屋代 基本的にはそのつもりでした。売れなければそれで終わり。
徳力 1曲目で2019年の11月にリリースした「夜に駆ける」は、ミュージックビデオが1カ月で100万回再生と、結果的には1曲目でいきなりヒットしました。それは狙ってやったんですか。
YOASOBIのデビュー曲「夜に駆ける」
山本 「夜に駆ける」は、狙ってヒットしたわけではないんです。それはさまざまな要素と偶然の重なり合いだと思っていて、そのひとつに曲を半年ぐらい長い時間をかけて制作したことはあると思います。何十曲もやり直し、つくり直しながら取り組んでいたので、結果的にたくさんの曲をつぎはぎしました。でも、それが今までにない構成になり、それを面白がってくれたのかなと思います。
また「夜に駆ける」をリリースする時期は、単純に自粛期間に突入したタイミングだったので、あまり世間的にもエンタメ関連の話題がありませんでした。「夜に駆ける」の場合は小説を音楽にするという切り口をきっかけに若者以外にも、年齢層が高い層の人も興味を持ってもらって、ニュース番組を含むいろいろなメディアが取り上げてくれました。
徳力 「夜に駆ける」がリリースされてから、ヒットまでは半年くらいかかっているということですね。
屋代 はい、世の中的にヒットと呼ばれる実績になるまでは時間がかかっているんです。その期間に意識して取り組んでいたことは、本当に毎日のように「夜に駆ける」がどういう状況で、どのように世の中で使って遊んでもらっていて、それがYOASOBIとしてはすごく嬉しいですみたいなことを主にSNSで継続的に発信していました。ポジティブな情報としてどんどんと世の中に伝わり、その結果少しずつ雪だるま式に大きくなって、社会的なヒットにつながったのだと考えています。
ヒットした後は、曲が持っている力がとても強いので、それがシンプルに音楽として評価されて広がったのだと思います。いま振り返ってみると、その瞬間毎に熱い情報を世の中に対して発信、共有し続けていったというところがポイントだったと思います。
徳力 そういった時代背景もありSNSを駆使して、YOASOBIに関する情報は絶えず発信していったんですね。ただ、コロナも直撃でしたよね。
屋代 業界全体としては苦境でしたね。売り方自体も変わってきていて、CDの時代は当然初動でオリコンのチャートに入れて1週間で稼いで、それを話題として興味がない人にも伝えてさらにそこで購入してもらう。発売週の金曜日にテレビ番組に出て、そこで認知をとって翌週にまたCDを購入してもらうというのがセオリーでした。
しかし昨今では、ストリーミング再生が主流になっているので、初動はもちろん大事なのですが、別の切り口がきっかけとなって聴かれる可能性があります。つまり、現代では売り出していくための掴みどころがないということがベースにあり、おまけにその時期はコロナで新譜の発売や新作をリリースするという行為自体がなくなっていて、CDが売れなくなるという状況ではありました。
そうなると新譜が出ないので、チャートは硬直化します。私たちにとっては結果的によかったのですが、それによって「夜に駆ける」がずっと売れている曲という認識が世の中にも浸透していったと思います。