リテールアジェンダ2024 #02

サントリー中村直人氏と店舗のICT活用研究所郡司昇氏が考える、リテールとメーカーのデータ活用最前線とは?【リテールアジェンダ2024キックオフ】

 

目線を揃えてウィンウィンを探る


中村 そうですよね。メーカーはマクロ的に見渡せるのが強みで、逆に言うと、小売はやはりお客さまの解像度の深さというメリットがあると思います。我々メーカーも、デジタルデータの出口はカテゴリーマネージメントとショッパーマーケティングに帰結すると考えます。必然的にマスターデータからトランザクションデータまで、データをしっかり集めて分析できて、いかに仮説を立てて出口を考えられるか。この流れが必要不可欠になってきたなと思います。

郡司 小売の海外進出がうまくいきにくい理由のひとつに、市場全体を把握せずに自分たちの方法なら売れるだろうと考えがちな部分があると思います。一方、メーカーはマーケットから入る、つまり「この地域ならこう営業活動としていこう」という指針を決める。店頭から入るか、地域から入るか、カテゴリーから入るなど入口が違うのです。そのすり合わせがデータ連携において必要ですね。

中村 いままで郡司さんがお話されていたように、バリューチェーンにおいてリテールとメーカーが持ち合わせるデータは実は違います。本来はお客さまのライフスタイルからすると、それぞれのバリューチェーンは繋がっていないといけないんですが、分断していることが多かったわけです。

以前のメーカーはリテールのバリューチェーンのデータはマーケティングにそれほど活用してなかったですが、やはり顧客をより深く見ていく必要性が出てきたことで、リテールが持つデータの重要性が高まっています。プロダクトアウトからマーケットインへ変遷してきたという影響もあるかもしれません。

郡司 昔は小売とメーカーの考えることは噛み合わなかったですが、最近はだいぶ噛み合うようになってきました。かつては、メーカーにとっては自社商品がいくら売れるかが極めて重要で、小売からすると同じ500円で売れるならどの商品でもよかったわけです。

しかし今は、小売側もメーカーに対してさまざまなデータを提供し、そのメーカーの商品の売上だけが上がるのではなく、売り場全体の売上が上がる方向にチャレンジしています。必ずしも成功するとは限らないんですが、結果が出ることも多いので、いい時代になったと思います。

中村 そうですね。ただ、本当にメーカーがそこまでの発想でカテゴリーマネージメントとしてデータを活用しきれているかというと、不十分なのが実態です。自社ブランドのシェアがどれだけ上がったかに帰結してしまう。

しかし人口減少の中、リテールの有限な売り場のシェア、お客さまのマインドシェアを考えると、競合他社とのトレードオフ的な発想だけだと、 結果的に価格競争や同質化競争に入り、ブランドを毀損しかねません。まさにカテゴリーマネージメントと、ライフタイムバリューの中で、ショッパーマーケティングに取り組まないと、結果的にいいブランドがつくれないということに気づき始めています。

郡司 だいぶ状況が改善されてきたというお話でしたが、メーカーと小売のデータを連携しようとした時に困ったことはありますか?

中村 課題はかなり残っています。よくあるのは、たとえば小売側でメーカーの窓口になることが多い商品部は、やはり売価や値入れの利益率、カテゴリー全体の数字を見るのがメインになり、顧客ベースでのカテゴリーの位置付けやブランドの話は遠くなりがちです。データ連携というより、まずデータを見る上での目線合わせを変えていく必要があるのではと思っています。

郡司 メーカーとしては1個でも多く自社商品を少しでも良い場所に置いてほしい。そのための企画や宣伝を持ち込むわけですが、小売のバイヤーは「周りの値段を考えると100円引いてくれないと難しいです」というような対立構造が生まれがちですよね。その妥協点をどこで探るかに長年終始してきました。

それは当然必要なことですが、ウィンウィンになれる場所を探し当てた一例が、「リテールアジェンダ2024」にも登壇が決まっている柳瀬隆志さんが率いるホームセンター「グッデイ」などだと思っています。
  
リテールアジェンダ2023でセッションするグッディ代表取締役社長 柳瀬隆志氏(左)とサツドラホールディングス代表取締役社長 富山浩樹氏

小売に響くのは、「ようは、いくら儲かんねん」という話です。売上、粗利率を上げる、コストを減らすなど、メーカーと小売が対立しないところが実はあるのです。廃棄ロス削減は一例ですが、在庫の適正化や価格弾力性に対して、協業できる領域は他にもあると思います。

中村 おっしゃる通りですね。互いのメリットを出していこうと思った時に、ウィンウィンをつくれるポイントはあるはず。たとえば、物流コストの無駄をお互いに省いたほうが、プロモーションコストを削減するよりも、経常利益へのインパクトは大きく得られる可能性もあります。本来はそういったことも俎上にあげるべきです。

郡司 メーカー同士では共同配送など広がってきていますし、社会的にも意義がある取り組みですね。おそらく、各メーカーのトップが旗振りしないとなかなか難しい現状はあると思いますが。

中村 顧客起点でサプライチェーン全体のどこに無理、無駄、ムラがあるかを可視化できる環境にはなってきているので、将来的には変わっていくと思いますね。

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