リテールアジェンダ2024レポート #01
ネットスーパーの売上比率が50%を超える日も。三重県の隠れた優良企業 スーパーサンシが取り組む4つの必勝法【リテールアジェンダ2024レポート】
国内外のリテールのマーケターとメーカーのマーケター、そしてパートナーをつなぎ、一気通貫のマーケティングを実現するためのカンファレンス「リテールアジェンダ2024(主催:ナノベーション)」が11月11日と12日、東京(大手町三井ホール)で開催された。
キーノートでは「人間理解のメガネで見るサンシのネットスーパー成功のメカニズム」と題し、スーパーサンシ 専務取締役 NetMarket事業本部長 システム部/開発部統括の高倉照和氏がスピーカーとして登壇した。同氏は1997年からネットスーパー事業に携わり、20年以上の豊富な知識と経験を生かし、全国のスーパーマーケットにネットスーパーのプラットフォームを提供している。
スーパーサンシがネットスーパーの分野で成功を収めるに至った4つの必勝法と人間理解に基づいた戦略について、グランドデザイン 執行役員 マーケティングディレクターの村尾大介氏がモデレーターとして切り込んだセッションをレポートする。
キーノートでは「人間理解のメガネで見るサンシのネットスーパー成功のメカニズム」と題し、スーパーサンシ 専務取締役 NetMarket事業本部長 システム部/開発部統括の高倉照和氏がスピーカーとして登壇した。同氏は1997年からネットスーパー事業に携わり、20年以上の豊富な知識と経験を生かし、全国のスーパーマーケットにネットスーパーのプラットフォームを提供している。
スーパーサンシがネットスーパーの分野で成功を収めるに至った4つの必勝法と人間理解に基づいた戦略について、グランドデザイン 執行役員 マーケティングディレクターの村尾大介氏がモデレーターとして切り込んだセッションをレポートする。
脳科学や行動経済学が「人間理解」のヒントになる
村尾 まずは、スーパーサンシさんの紹介をお願いします。
高倉 スーパーサンシは三重県を中心に展開するスーパーマーケットです。1970年代から宅配事業を続けており、1997年には全国に先駆けてネットスーパーを開始しました。現在では、ネットスーパーの売上比率がリアル店舗の50%を超える日もあるほどまでに成長しています。2019年からは「Japan NetMarket」を立ち上げフランチャイズ展開を始め、全国にネットスーパーのプラットフォームを提供しています。
スーパーサンシ 専務取締役 NetMarket事業本部長 システム部/開発部統括
高倉 照和 氏
三重県出身。学生時代より生鮮宅配の実現化に向けての課題に取り組む。NYでの商社勤務後、貿易会社を創業、社長を務める。1996年よりスーパーサンシ代表取締役を11年間務める。2019年5月より「JAPAN NetMarket」を立ち上げFC展開を開始。全国各地を回り、大手に勝てるネットスーパー導入をサポート中。
高倉 照和 氏
三重県出身。学生時代より生鮮宅配の実現化に向けての課題に取り組む。NYでの商社勤務後、貿易会社を創業、社長を務める。1996年よりスーパーサンシ代表取締役を11年間務める。2019年5月より「JAPAN NetMarket」を立ち上げFC展開を開始。全国各地を回り、大手に勝てるネットスーパー導入をサポート中。
村尾 今回のテーマは「人間理解のメガネで見る、サンシのネットスーパー成功のメカニズム」です。スーパーサンシさんのネットスーパーには、長年の経験から生まれた暗黙知がたくさんあると思います。今回はそれを「人間理解」のメガネを用いてひも解いていければと考えています。
そこで最初に、人間の行動を理解するためのヒントとして、脳科学と行動経済学の一般的な事例をいくつか紹介します。
まずは「認知バイアス」です。人間は常に合理的な行動をとるとは限らず、情報過多の場合や、根拠が不十分で不確実な状況で即時行動が必要な場合、人間が生き残るために効率的に行動するために備わっているバイアスです。これは、180種類以上も存在すると言われています。
次に「習慣化」です。今回の高倉さんのお話で、「習慣化」は非常に重要なキーワードとなります。世界的なプロダクトデザイナーの深澤直人さんは、「全てのプロダクト(椅子も車もマグカップも)は反復して使うことが前提、プロダクトとの別れは習慣の喪失である」という言葉を残しています。この言葉から読み取れるのは、多くの場合、プロダクトは日常の中で習慣的に使われるからこそ意味があるということです。
グランドデザイン 執行役員 マーケティングディレクター
村尾 大介 氏
2006年、凸版印刷株式会社にてキャリアをスタート。一貫して「生活者と店舗・ブランドをつなぐプラットフォーム」開発に従事している。2011年より電子オリコミプラットフォームShufoo!(シュフー)のメディア化をリード。2014年にグランドデザイン株式会社にジョインし、マーケティングディレクターとして、「生活者」を「消費者」に変える新たなきっかけを作り、よりたくさんのお買い物をして頂くためのプラットフォーム「Gotcha!mall(ガッチャモール)」を推進し、小売・メーカー各社の売上拡大に貢献している。
村尾 大介 氏
2006年、凸版印刷株式会社にてキャリアをスタート。一貫して「生活者と店舗・ブランドをつなぐプラットフォーム」開発に従事している。2011年より電子オリコミプラットフォームShufoo!(シュフー)のメディア化をリード。2014年にグランドデザイン株式会社にジョインし、マーケティングディレクターとして、「生活者」を「消費者」に変える新たなきっかけを作り、よりたくさんのお買い物をして頂くためのプラットフォーム「Gotcha!mall(ガッチャモール)」を推進し、小売・メーカー各社の売上拡大に貢献している。
その習慣化には「報酬」が重要です。人間の脳はドーパミンという物質によって行動を強化する仕組みを持っており、報酬には4つのタイプがあります。ひとつ目は、生命維持や繁殖に直接的に影響する「生理的報酬」です。2つ目は、間接的に自身のメリットに結びつくことが学習によって理解できている「学習獲得的報酬」です。3つ目は、生存や繁栄に直接結びつかないが「快」をもたらす「内発的報酬」です。4つ目は、生存のために「不快・危険」から逃れる「嫌悪回避的報酬」です。これらがドーパミン分泌を引き起こすトリガーとなります。サービス設計においては、これらの要素を考慮することで、顧客の習慣化を促進することができ、実は買い物もドーパミンのサイクルだと捉えることもできます。
また人間の脳は、大きく「無意識に反応するシステム」と「意識的に考えるシステム」の2つで構成されています。無意識のシステムは、文脈の影響を受けずに反射的に価値を計算し、その後、意識的なシステムがその行動の理由を後付けで解釈します。
この仕組みを利用した理論のひとつに「ナッジ理論」があります。2017年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のリチャード・セイラーが提唱した考え方で、環境や仕掛けを少し工夫することで無意識に行動を促す方法です。たとえば、階段にピアノの鍵盤を描くことで、エスカレーターではなく階段を選ぶ人が増えるという事例が有名です。これは、無意識に楽しいと感じられる仕組みにより、自然と行動変容が促される典型例でしょう。
しかし、ナッジ理論には環境を変えなければ、持続的な効果が期待できないという側面もあります。そこで対となる理論が「ブースト理論」です。ブースト理論は、個々人が納得し、合理的な選択ができるような能力を高めるためにサポートするという考え方です。たとえば、トレーニングジムに通った人が食品に含まれる糖質量を確認するようになる、といった例が挙げられます。
「ナッジ理論」と「ブースト理論」という2つの考え方に加えて、特定の行動を取ったときにインセンティブ(報酬)を提供することで、行動を促進する「報酬理論」という3つ目の行動理論があります。これらの行動理論の併合で実効性のある施策をつくります。
小売業界では少し新しい理論に聞こえるかもしれませんが、任天堂のゲームは40年以上前からこのような脳科学や行動経済学、心理学の知見を取り入れています。また、海外のゲームデザイナーは、脳科学や行動経済、心理学の博士号取得者ばかりです。ゲームは飽きとの戦いといえます。買い物の楽しさは、こうしたゲームからも学ぶことができます。