ライジングアジェンダ2024レポート #01
みずほFG秋田夏実氏は、なぜ複数のビジネス領域を「越境」してキャリアを築けたのか?【ライジングアジェンダ2024レポート】
2025/02/19
- ライジングプロジェクト,
- 組織改革,
- 人材育成,
2024年12月4日、次世代を担う若手マーケターが集まる「ライジングアジェンダ2024」が都内で開催された。キーノートに登壇したのは、みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCBO兼グループCCuOの秋田夏実氏。モデレーターをUCCジャパン 執行役員 サステナビリティ経営推進本部の里見陵氏が務め、マーケターでありながら人事などの幅広い領域に携わってきた秋田氏が、どのような姿勢で、いつ何をどのように学びながら領域を超えたキャリアを築いてきたのかを紐解いた。
タグを増やし、掛け算していく
里見 秋田さんのこれまでのキャリアは、マーケター、あるいはマーケティングの越境というテーマを考えるうえで非常に参考になります。そこで、まずは現在の役割とこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。
秋田 私は、2022年5月にみずほフィナンシャルグループへ、チーフピープルオフィサー(CPO)として入社しました。現在はCPOの仕事を後任に委ね、グループ全体のチーフブランディングオフィサー(CBO)とチーフカルチャーオフィサー(CCuO)を兼務して、国内外6万数千人からなるグループ全体のカルチャー変革の推進やコミュニケーションの活性化、ブランド価値の向上などに取り組んでいます。
前職は、米国IT企業であるアドビの日本法人副社長として、マーケティングや広報の領域などに携わり、さらにそれ以前は、国内外のいろいろな金融機関でマーケターとして仕事をしてきました。本業以外でも、ボランティア的に大学や出身地である山梨県の観光促進に携わっており、それが本業にもいい影響を与えています。
プライベートでは子どもが3人いて、趣味として子供たちと一緒に空手に取り組んでいます。それと、ワインエキスパートの資格も持っています。

みずほフィナンシャルグループ 執行役 グループCBO兼グループCCuO
秋田 夏実 氏
〈みずほ〉のCBO兼CCuOとして、グループ全体のカルチャー改革、コミュニケーション活性化、ブランド価値の向上等を担う。〈みずほ〉入社前は、米国IT企業のアドビの日本法人副社長として、⽇本のマーケティングおよび広報を統括すると共に、DEIの推進、自由闊達な組織風土の醸成に取り組む。それ以前は約20年に渡って金融業界に身を置き、マスターカードの日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などを歴任。東京⼤学 大学院総合文化研究科・教養学部 諮問委員、立教大学経営学部 諮問委員。日本学術振興会 男女共同参画推進アドバイザー 、未来やまなし創造会議委員、他。
秋田 夏実 氏
〈みずほ〉のCBO兼CCuOとして、グループ全体のカルチャー改革、コミュニケーション活性化、ブランド価値の向上等を担う。〈みずほ〉入社前は、米国IT企業のアドビの日本法人副社長として、⽇本のマーケティングおよび広報を統括すると共に、DEIの推進、自由闊達な組織風土の醸成に取り組む。それ以前は約20年に渡って金融業界に身を置き、マスターカードの日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などを歴任。東京⼤学 大学院総合文化研究科・教養学部 諮問委員、立教大学経営学部 諮問委員。日本学術振興会 男女共同参画推進アドバイザー 、未来やまなし創造会議委員、他。
里見 ありがとうございます。すごくエネルギッシュですよね。今回のライジングアジェンダの全体テーマは「理想のマーケター」です。セッションのテーマとしては「越境できるマーケターになるには」ですが、秋田さんはそもそもマーケターをどのように捉えていますか。
秋田 私は、前の会社では「カスタマーエクスペリエンス」を強く意識してきました。自分の相対するお客さまに徹底的に寄り添い、いろいろなデータからインサイトをしっかり把握して、よりよい顧客体験を提供する。それがマーケターかなと思います。
実はこれは角度を変えると、社内にも同じように適用可能です。人事領域でも相対するものは人です。ターゲットとして見ている相手をどれだけしっかりと理解して寄り添い、その人の成功を支えていくか、よい体験を提供するか。マーケターは、人を中心とする業務にとことん向き合う人なのではないかと思います。
里見 なるほど。マーケターというと、なんだかキラキラしていて楽しそうな印象を受ける人もいるのではと思いますが、それに対してはどう思われますか。

UCCジャパン 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
里見 陵 氏
UCCジャパン執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
1981年生まれ。大学卒業後アーサー・D・リトル、A.T.カーニーにて主に製造業の経営コンサルティングに従事。クライアントの外資系消費財メーカーにおける経営企画、国内営業責任者、アジア統括ブランドマネージャーを経て、B2Cサービススタートアップにて営業、マーケティング、事業開発の責任者を経験。2017年6月UCCホールディングスに入社。同社執行役員CSO、UCC上島珈琲副社長等を経て2024年1月より現職。趣味は料理、読書、バスケ、食べ歩き飲み歩き、サウナ、アウトドア、登山、散歩、音楽フェス、旅。
里見 陵 氏
UCCジャパン執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
1981年生まれ。大学卒業後アーサー・D・リトル、A.T.カーニーにて主に製造業の経営コンサルティングに従事。クライアントの外資系消費財メーカーにおける経営企画、国内営業責任者、アジア統括ブランドマネージャーを経て、B2Cサービススタートアップにて営業、マーケティング、事業開発の責任者を経験。2017年6月UCCホールディングスに入社。同社執行役員CSO、UCC上島珈琲副社長等を経て2024年1月より現職。趣味は料理、読書、バスケ、食べ歩き飲み歩き、サウナ、アウトドア、登山、散歩、音楽フェス、旅。
秋田 マーケティング業界の外からは、そういう見られ方もありますよね。でもそれは、表面のキラキラしている部分だけを見ているのだと思います。実はその水面下には、ある意味泥臭く、積み重ねていっているものがあります。そうした部分をお伝えしたり、見せていったりすることで、マーケティングに携わる人への見方は変わるのかなと思います。
里見 秋田さんは金融とITの領域でマーケティングに携わられて、かつ人事領域にも広がりを持つなど、まさに「越境」といえるキャリアを築かれています。直球の質問になりますが、秋田さんのようになるには、どうしたらいいのでしょうか。
秋田 こちらも直球で、結論からお答えしますね。まず大事なのは、「成長を諦めずにインプットし続けること」、そして「世の中の変化への感度を上げること」です。今は、世の中の変化のスピードがものすごく速くなっているので、過去に有効だったことや経験則は、数年後、もしくはもっと近い未来には有効でなくなるわけです。
実は、私自身もそれで失敗したことがあります。以前の職場で、若いマーケターの方が提案してくれたものが、私からすると有効だと思えなくて。いろいろ議論した結果、結局不採用にしてしまったのですが、そのあとやっぱりやっておけばよかったと後悔して謝りました。より正しい判断をするための私のインプット量が足りなかったと反省しました。いかに感度を上げて自分が古いマーケターにならないかということが、とても大事だと思っています。
それと通ずることでもありますが、3つ目に大事なのは「挑戦し続けること」。自分の責任でリスクを取って挑戦することです。修羅場で追いつめられる経験もする中で磨かれていくことがあるのではと思っています。失敗することもありますが、失敗も肥やしになります。ここまでが自分を磨けという話ですね。
次にお伝えしたいのが、「人間力を上げること」。キーワードは笑顔、情熱、謙虚さ、感謝、利他の精神です。皆さんも、いろいろなプロジェクトに追われたりして、余裕がなくなることがあると思います。そうしたときに、だんだん笑顔がなくなったり、仕事自体を楽しめなくなったりすることもあると思いますが、その際にあえて鏡などで表情をチェックして、口角を上げることがとても大事だと思っています。
これは実際に脳科学でも言われていることですが、同じマンガを読んでいても、口角を下げた状態で読むのと口角を上げた状態で読むのとでは、面白さを感じる度合いが違うのだそうです。感情から表情ができるだけでなく、表情から感情ができる部分もあると思っています。

謙虚であることも大切です。役職が上がったりクライアント側だったりすると、ともすると謙虚さが失われることがあります。人としてはもちろんですが、これだけ雇用が流動している世の中では、かつての仲間と再会したり、チームを組んだりすることがあるわけです。そういう中で、関係性を大事にして感謝しながら、自分だけが果実を得るのではなくギブアンドテイクだと思いながらやっていくこと、その蓄積が幸福の「複利」になり、信頼という大きな果実になり、10年後、20年後の自分に返ってくるのだと思います。忙しい中でも、そうしたことを意識することが大事だと思っています。
そして最後にお伝えしたいのが、「人と同じことをしないこと」。よく守破離と言われますが、基本の型ができない間は当然、人から学んで自分のベースをつくるわけです。でも、ある程度できたら、いろいろな挑戦をして一歩二歩と飛び出して、自分の常識も壊していってみるということをすべきかなと思います。
里見 すごい、とても共感します。では、マーケティングという仕事には、どのような広がりや可能性があると思われますか。
秋田 私は最初、金融でキャリアをスタートしたのですが、留学をしてマーケティングを学び、金融専門のマーケターになりました。金融は規制の多い業種なので、広告表現も制限されます。消費財業界のマーケターにはあまり楽しくないでしょうから、そこは自分の勝ち筋だと思いましたね。英語もあまり得意ではありませんでしたが、苦労しながら仕事でも使えるようにしたり、デジタルを学んだりして、自分のタグを少しずつ増やしていきました。そうして掛け算できるようにしていくと、自分なりの強み、アイデンティティができていくと思います。
タグを増やすにはコンフォートゾーンにいてはダメです。ちょっと大変ですが、少し越境してみる、手を伸ばしてみる中で、自分のタグが増えていきます。「今はもう手一杯だからやりません」と言ってしまうと、チャンスを逃してしまうのではと思います。
一方で、「これ以上増やせない」ということも、当然あります。私はこれについては若い頃、結構、交渉しました。「あれもこれも」となったとき、「経験値がないので研修を受けさせてほしい」「サポートしてくれる人が必要」「この仕事は、他の人に引き取ってほしい」など。全部背負い込んで潰れてしまっては元も子もないので、引き受けるのであれば、そのためにどうしたらいいかを考えるようにしました。