ライジングアジェンダ2024レポート #05

パルコ安藤彩子氏が語る、苦しいときに立ち返るマーケターとしての2つの原点【ライジングアジェンダ2024レポート】

 

キャリア戦略は、事業戦略の山登りに似ている


 当時、マーケティング部門で販売促進を担当していたとき、ポイントカード担当の社員が辞めてしまったことをきっかけに、不本意ながら舞い込んできたのがCRM(顧客関係管理)の業務でした。自らの意思ではなかったものの、それがきっかけとなり、CRMは私のスペシャリティになりました。

 CRMに出会ってからの最初の5年間、当初はCRMの手法、顧客データ、分析、システム…何も知見がない状態でしたが、経験を通して習得し顧客データ分析やロイヤルティプログラムのプランニングなどに取組みました。

 次の挑戦として、ユナイテッドアローズに転職し、その5年間はプロフェッショナルとしてCRMを徹底的に実践する時間でした。現在、所属しているパルコでも、入社後の5年間ほどは実践のフェーズで、パルコのCRMを実行するための環境構築やデジタルタッチポイントに関する業務を推進してきました。

 キャリアは、必ずしもずっと上り調子で、順調に進むわけではありません。しかし、何かにつまずいたとき、自分の「原点」を理解していれば、そこに立ち戻ってモチベーションを高めることができると考えています。

 私にとっての原点のひとつは、3社目での転機でした。「マーケティングがしっかりと機能すれば、売り場は本来の機能を果たすことができる」と考え、営業からマーケティングへと転向したことです。

 もうひとつの原点は、CRMとの出会いです。最初はまったく関心のない仕事でしたが、取り組む以上は真剣にその意義を理解したいと考えました。CRMについて深く考えるうちに、その意義に気づき、やがて自分のスペシャリティへとつながる仕事に出会えたのです。これらの経験は、今でも私のモチベーションを高める場所となっています。
 
【安藤彩子氏の2つの原点】
この2つを自分の中で明確化して、いつでもここに立ち戻ることができる(自分の強み)

① マーケティングへの転向
社会人になって初めて仕事に対して自分の意志を持った。何かあればいつもこの時の純粋な気持ちに立ち戻っている

② CRM担当
自分のスペシャリティになる領域に出会う。最初はやりたいことではなかったが、やりたいことになるきっかけがあった。おそらく、この仕事で私の進む道ができた

 今振り返るとCRMを3社で取り組んできて、キャリアの形成には「スキル(学び)」「実践(プロ)」「再現・発展(経験活用)」の大きく3つのフェーズに分かれると考えています。現在はマネジメントの立場ですが、この3つのフェーズを経験していてよかったなと感じています。チームのメンバーの成長に関して「この人は今スキルをつけるフェーズだな」「この人は実践のフェーズにいる」など、自分の経験をもとに理解することができています。

 また、キャリアは事業戦略に似ていると感じています。よく事業戦略は山登りに例えられますが、若手マーケターの皆さんにも「自分のキャリアで登る山を理解していますか?」と自問自答してほしいと思います。どの山を登り、今何合目にいるのか、次はどの山を目指すのか。こうした視点を持つことで、より明確なキャリアデザインが描けると思います。

 最後に、キャリアデザインのフレームワークにWill(意志)、Can(能力)、Must(必要性)があります。Willを持っている人と持っていない人では、仕事の進め方や質が変わってきます。そして最終的には成果にも大きな違いが生まれると私は考えています。

 皆さんも現在マーケティングの仕事をしていると思いますが、「なぜマーケティングの仕事をしているのか?」「今担当している業務の意義は何か?」この問いに自分の言葉で答えられることが重要です。これまでの経験を振り返り、自分のキャリアの中で最も意義を感じた瞬間を見つけ、それが何だったのかを考えてみてください。それが、前向きなキャリア形成の第一歩となるはずです。
  

※安藤彩子氏は「Agenda note」が主催する次世代を担う若手マーケターの育成の場となるアクセラレータープログラム「Rising Academy powered by ノバセル (ライジングアカデミー)」で2025年8月19日、「CRM」をテーマに講義を実施予定。
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