マーケティングアジェンダ2025 #06
リテール淘汰の時代、進化する米国・高級百貨店ノードストロームの「顧客第一主義」【マーケティングアジェンダ特別インタビュー】
2025/04/18
2025年5月21日から23日まで、マーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ2025」が沖縄で開催される。キーノートには、米国の大手高級百貨店チェーンであるノードストローム(Nordstrom)でテクノロジー活用を推進するシニア・バイス・プレジデントのミーガン・キースター氏が登壇。
同社は1901年にシアトルで創業して以来、ファッションやアクセサリー、化粧品、インテリア雑貨などを取り扱い、高級百貨店ブランドとして確固たる地位を築いてきた。
「顧客第一主義」を標榜し、厳しいと言われる百貨店市場においても需要を生み出し続ける同社は、時代に合わせた変革で現在はECが売上の30%以上を占めるまでに成長している。デジタルテクノロジーをどのように駆使して、どのような顧客体験を実現しているのか。マーケティングアジェンダの開催に先立って、カウンシルメンバーを務めるキンドリルジャパンVice President, CMO加藤希尊氏がキースター氏にインタビューを実施した。

同社は1901年にシアトルで創業して以来、ファッションやアクセサリー、化粧品、インテリア雑貨などを取り扱い、高級百貨店ブランドとして確固たる地位を築いてきた。
「顧客第一主義」を標榜し、厳しいと言われる百貨店市場においても需要を生み出し続ける同社は、時代に合わせた変革で現在はECが売上の30%以上を占めるまでに成長している。デジタルテクノロジーをどのように駆使して、どのような顧客体験を実現しているのか。マーケティングアジェンダの開催に先立って、カウンシルメンバーを務めるキンドリルジャパンVice President, CMO加藤希尊氏がキースター氏にインタビューを実施した。

オンラインでも店舗と同等の体験を提供する
加藤 現在に至るまでのミーガンさんの経歴を簡単にお聞かせください。
キースター 私が大学院を卒業するころ、シアトルではIT関連企業が乱立し成長するドットコムブームの真っただ中でした。その中で、私もテクノロジー企業に就職。専門は経済学でしたが、技術系の仕事をするようになり、今もずっとその道を歩み続けています。
オンラインで展開する旅行会社に長らく勤め、ノードストロームには約6年前に入社しました。ノードストロームでは、デジタルエクスペリエンスやマーケティングを支えるテクノロジーチームに重点的に関わってきたほか、店舗テクノロジーチームのサポートなどにも携わってきました。
現在は、デジタルとマーケティング、そして企業の決済サービスのサポートなどを手掛けています。あまり表に見える仕事ではありますが、デジタルエクスペリエンスにおいて非常に重要な役割を担っていると自負しています。

ミーガン キースター
ノードストローム社
シニア・バイス・プレジデント(テクノロジー)
シニア・バイス・プレジデント(テクノロジー担当)として、ノードストロームおよびノードストローム・ラックのブランド全体にわたるすべてのデジタル顧客接点を担当。
テクノロジー、デジタルマーケティング、プロダクトマネジメント、人事(HR)など多岐にわたる分野で20年以上のEコマース経験を持ち、ビジネスに大きな成果を出す高パフォーマンスのチームおよびリーダーの育成に注力しています。ノードストロームに入社する前は、エクスペディア社(Expedia)でプロダクトおよびテクノロジーのバイス・プレジデントを務めていました。エクスペディアでは、テクノロジー、ダイバーシティ&インクルージョン、マーケティング、プロダクトマネジメントの分野でリーダーシップを発揮し、シアトル、サンフランシスコ、ロンドン、モントリオールのチームを率いてきました。
ノードストローム社
シニア・バイス・プレジデント(テクノロジー)
シニア・バイス・プレジデント(テクノロジー担当)として、ノードストロームおよびノードストローム・ラックのブランド全体にわたるすべてのデジタル顧客接点を担当。
テクノロジー、デジタルマーケティング、プロダクトマネジメント、人事(HR)など多岐にわたる分野で20年以上のEコマース経験を持ち、ビジネスに大きな成果を出す高パフォーマンスのチームおよびリーダーの育成に注力しています。ノードストロームに入社する前は、エクスペディア社(Expedia)でプロダクトおよびテクノロジーのバイス・プレジデントを務めていました。エクスペディアでは、テクノロジー、ダイバーシティ&インクルージョン、マーケティング、プロダクトマネジメントの分野でリーダーシップを発揮し、シアトル、サンフランシスコ、ロンドン、モントリオールのチームを率いてきました。
加藤 ノードストロームは「顧客第一主義」の文化が深く根付く企業だと言われていますが、最高のカスタマーエクスペリエンスを提供する上で最も重要な要素は何だと考えておられますか。
キースター おっしゃるとおり、ノードストロームは伝統的に顧客重視のビジネスを展開してきました。そうした中で、直近10年間は特にデジタル戦略が重要な役割を果たしています。私が入社してからの6年間は特にそうで、コロナ禍ではビジネスの半分以上がデジタルによって動いていました。
ただ、店舗でもオンラインでも顧客体験のカギとなるのは、「顧客を中心に置くこと」だと考えています。私たちが目指すのは、オンラインにおいても、店舗で販売員と接するのと同等の体験をしていただくこと。私たちが伝統の中でこだわってきたカスタマーサービスとカスタマージャーニーを常に念頭に置くことが、強力なデジタルエクスペリエンスの提供につながっていると考えています。

加藤希尊氏
キンドリルジャパン
Vice President, CMO
国内100社以上のブランドが参加するマーケティング責任者のネットワーク「CMO X」を2014年に創設したFounderであり、現在は世界60カ国以上でITインフラサービスを展開するキンドリルジャパンでVice President 兼 CMOを務める。20年以上のマーケティング経験を持ち、WPPグループ、Salesforce、チーターデジタルなどで豊富な経験を積む。B2CおよびB2Bの両セクターでの実績があり、特にSaaS製品の市場導入と成長戦略、そしてEnterprize MarketingやAccount Based Marketingに強みを発揮している。『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』など、マーケティングと顧客体験をテーマにした複数の書籍を執筆しており、その専門知識を広く共有している。
キンドリルジャパン
Vice President, CMO
国内100社以上のブランドが参加するマーケティング責任者のネットワーク「CMO X」を2014年に創設したFounderであり、現在は世界60カ国以上でITインフラサービスを展開するキンドリルジャパンでVice President 兼 CMOを務める。20年以上のマーケティング経験を持ち、WPPグループ、Salesforce、チーターデジタルなどで豊富な経験を積む。B2CおよびB2Bの両セクターでの実績があり、特にSaaS製品の市場導入と成長戦略、そしてEnterprize MarketingやAccount Based Marketingに強みを発揮している。『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』など、マーケティングと顧客体験をテーマにした複数の書籍を執筆しており、その専門知識を広く共有している。
加藤 店舗でもオンラインでも同等の体験を、とありましたが、店舗の販売員も接客時に顧客データにアクセスできる手段があるのでしょうか。
キースター あります。かつては小さな手帳のようなものに書き留めていましたが、現在はそれがオンラインに移行し、店舗用のアプリケーションとして提供されています。データは店舗もオンラインも単一の顧客IDに紐づけられているので、どのタッチポイントからアクセスしても、そのお客様が誰で、どのようなものが好きなのかを知ることができるようになっています。優秀な販売員は、お客さまの好きなブランドやサイズ、スタイルを把握していますし、気に入っていただけそうな商品が入荷したら、ご連絡することもあります。

加藤 ほかに、顧客第一主義の文化が根付いていることがわかる例はありますか。
キースター 当社が考えるカスタマージャーニーにおいて、顧客は「ある機会のために服を買い求めるということ」を想定しています。私たちはWebサイトやアプリで、そうした機会にあわせたコーディネートを提案しており、顧客もそれをさまざまな形で閲覧できるようになっています。
たとえば、当社のスタイリストが自分の作成したコーディネートを1対1でお客さまに送ることや、お客さまが自分でリクエストして受け取ることも可能ですし、過去の閲覧履歴に基づいてAIが作成したものがサイトに表示されることもあります。要するに、同じサービスをさまざまな方法で受けることができるわけです。
その際、私たちは実際のお客さまの情報を踏まえた提案を行っています。場合によっては、お客様から「結婚式に着る服がない」といったメッセージを直接やりとりし、そのためのコーディネートをしてその衣装を送ったり、サイト上で特定のジーンズを閲覧しているお客さまにそのジーンズを使ったコーディネートをご紹介したりすることもあります。
こうしたサービスを、私たちは「ルックス」または「アウトフィッター」と呼んでいますが、オフラインでの体験をデジタルにも取り入れている非常に良い例だと言えるのではないでしょうか。