マーケティングアジェンダ2025 #06

リテール淘汰の時代、進化する米国・高級百貨店ノードストロームの「顧客第一主義」【マーケティングアジェンダ特別インタビュー】

 

顧客データの統合と体系化が、データ活用の第一歩


加藤 ノードストロームは複数のブランドやチャネルの顧客データを統合し、それらを活用して顧客体験をパーソナライズしていると聞きました。どのようにして約2億の顧客プロファイルを活用する仕組みを構築したのでしょうか。

キースター まず、私がノードストロームに入社する直前の2018年頃に、「社内データを民主化する」という取り組みが始まりました。ユーザーエクスペリエンスに関するデータや、そのほかWebサイト内で得られるデータなどを集約し、体系化して一貫性を持たせることにしたんです。データは、サイト上のクリックや購入履歴をはじめ、フルフィルメントや流通センター、商品化テクノロジースタックから得られるものまで、流れるように集約できるよう構造化しました。

次に、顧客ビューや商品ビュー、在庫ビューなどが作成できるようにしました。ほかにも、集約したデータから、適切な種類のデータを適切な構造で生成できるよう、多くの作業を行いました。

そのようにして集約、生成したデータをどのように役立てるかというのは、ここ数年も取り組んできた課題ですし、今後も焦点を当てて考えていかなければならないと思っています。ただ、あらゆるデータを持っているからこそ、何かをしたいと思ったときにすぐに必要なデータを取り出して使い始めることができるというのは大きいと感じています。
  
米国ニューヨークのノードストローム店内。

加藤 実際に、データをどのように施策の立案に活用していますか。

キースター データが揃っているので、浮かんだアイデアに対してデータマイニングを行い、判断材料にしています。

たとえば、アウトフィッターに投資するかどうかを検討しているのであれば、人々が一度に複数のものを購入する頻度や、人々がスタイリストに相談しながら服を探している頻度を確認します。

次に、顧客テストとして紙のプロトタイプを作成したり、顧客インタビューを行ったりします。それがクリアできれば、WebサイトでA/Bテストを行い、明確な結果が得られなければ追加のデータ分析をするといった形で、「どちらの方向に進むのが正しいのか」といった判断を行っています。

加藤 CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の実装後、広告の費用対効果が約9倍になった製品があったとうかがいました。なぜそのようなすばらしい成果が得られたのでしょうか。

キースター データによって強力な裏付けが得られることは、すばらしいことです。ただ一方で、私たちが真に注目していたのは、「既存の優良顧客にはコストをかけずに、マーケティングキャンペーンを実行する方法はあるのか」ということでした。

そこで、既存の顧客はキャンペーンから除外することに焦点を当て、CDPによってオフサイトでターゲティングを行うことで、非常に良い成果をあげることができました。Treasure Dataのカスタマーサービスチームからアドバイスを受けることができたことも、成果をあげられた理由の一つだと思います。
 

AIも含め、常に新しいソリューションや手法の検討が重要


加藤 ノードストロームでは、特にEコマースの分野でどのようにAIを活用していますか。

キースター AIで何ができるかということは常に検討していますが、長年AIを活用しているのは、先ほどお話ししたアウトフィット生成です。もともとアウトフィット生成は、スタイリストがアイテムを検索して組み合わせることで行っていましたが、低価格帯のブランドであるノードストロームラックにはスタイリストがいませんでした。そこで、アウトフィット生成を行うAIアルゴリズムを構築し、検証を経て、実用化に至りました。

また、私たちは顧客エンゲージメントを非常に重要視しており、AIを活用してレコメンドエンジンの最適化も行っています。AIを使うことで、コンバージョン率のような指標だけでなく、平均注文金額や来店回数、ロイヤルティレベルなども見ながら、レコメンドを行っています。

いずれにせよ、物事は急速に変化しており、世の中には常に新しいソリューションや新しい手法、新たな成功事例をつくるための新しいモデルが生み出されています。そうした最新の情報をどのように把握し、どこに投資してどこに時間をかけるかというのは、ますます判断が難しくなっていると感じますね。

加藤 マーケティングアジェンダ2025」で詳しくお話を伺えるのを楽しみにしています。最後に、日本のマーケターにメッセージをいただけますか。

キースター
マーケティングアジェンダでは、日本の小売業界において、日本の小売ブランドがどのように私たちと同じ課題に取り組んでいるのかを知ることができるということに興奮しています。

日本の市場は、高級デパートのような高い基準を満たすブランドが多くあるため、私たちも学ぶことがたくさんあるだろうと感じています。

その中で、私たちと同じ課題に対する考え方や、異なる解決方法などが聞けることを楽しみにしています。それと同時に、私たちの取り組みについてもいくつか共有できたらと思っていますね。
  
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