ライジングアジェンダ2025 #11
環境が変わっても成果を出すために、メリーチョコレートカムパニー高田氏が大事にしていること【ライジングアジェンダ2025レポート】
2025/08/12
次世代を担うマーケターが一堂に集う「ライジングアジェンダ2025」が2025年6月12~13日、東京都内で開催された。マーケティングの先輩が自らの経験と知見を語り、若手マーケターに学びのヒントを届けるセッション「This is my story」には、メリーチョコレートカムパニー 執行役員 マーケティング本部本部長 高田基位氏が登壇。「どんな環境でも成果を出せるブランドマーケターになるには?」と題して講演した。
高田氏は、ロッテの宣伝部とマーケティング本部を経験後、ポーランドにあるグループ会社のWedel社への出向を経て、現職のメリーチョコレートカムパニーへと、着実にキャリアを積み上げてきた。一貫してマーケティングの領域に携わってきた高田氏が、環境や立場が変化するたびに身につけてきた新しい視点や学びについて語った。
高田氏は、ロッテの宣伝部とマーケティング本部を経験後、ポーランドにあるグループ会社のWedel社への出向を経て、現職のメリーチョコレートカムパニーへと、着実にキャリアを積み上げてきた。一貫してマーケティングの領域に携わってきた高田氏が、環境や立場が変化するたびに身につけてきた新しい視点や学びについて語った。
広告とマーケティングで学んだこと

私のキャリアのスタートは、ロッテの宣伝部からでした。そこに約10年在籍し、広告宣伝について一通りのことを学びました。
その中でも特に重要な学びは、「伝えるべき何かとターゲットが決まれば、それをいかに魅力的に表現するかの勝負」であることと、「One Messageが基本。それ以上では散漫になり、言いたいことがきちんと伝わらない」ということです。
次にマーケティング本部に異動し、「コアラのマーチ」「トッポ」「パイの実」という大きいブランドを担当しました。私が担当した2001年当時は、お菓子をブランドとして位置付けて扱う手法がまだ珍しく、ブランドやマーケティングと言われても何だかよく分からない状態でした。そうした中で上司からいろいろなことを教わり、次のようなことに取り組みました。
当時、すでに「コアラのマーチ」はだいたいの人が知っていて、食べたこともある状況でした。しかし、ターゲット層別に分解すると、20代の社会人女性と女子大生の層のスコアが低いということが分かったんです。「コアラのマーチ」は、ご存知のように1粒1粒のお菓子の表面にいろいろな絵柄がプリントされていますが、当時、過去の調査データを読みあさって、その絵柄がブランドを活性化していく上で武器になりそうだという感触を持っていました。そこで、キャラクターのグッズをつくり、それを本体の商品と合わせて一つの商品にして、コンビニエンスストアのチャネルを中心に300~1200円という高単価で売ることにしました。
今なら絶対にやらないだろうなと思う施策ですが、うまく結果が出まして。まさにターゲットとした層の1年間の食用経験率が上がったんです。また理由は分かりませんが、女子高校生から反応があったことも大きな驚きでした。
振り返って思うのは、当時は無謀に突っ走っていたけれど、実は大きなターニングポイントだったなということ。宣伝部のときは、ブランド担当者にターゲットや伝えたいことについて取材をして、その答えをもとにそれをどのように伝えるかを考えていました。広告担当とブランド担当でやっていることに多少の違いはあれど、見ている方向は同じ。広告部時代の経験が生かせると気づいてからは、安心して仕事に取り組めるようになりました。
マーケティング本部でも10年ほど過ごし、ブランド育成について学びました。特に大事だと思うのは次の6つです。
まず、「仮説でいいので、ブランドが抱える課題の理由をユーザー目線で言語化&見える化すること」。そして、その「解決策は自ら構築すること」です。人任せにすれば、失敗したときに非常に後悔します。「協力してくれそうな人たちを片っ端から巻き込んで味方につけること」、「恐れずに実行すること」も大事です。それによって「出てきた結果は素直に受け入れ、さらなる改善と実行に臨むこと」。失敗しても、死んだりクビになったりすることはほぼありません。それから、「そのブランドのことを宇宙一考え、理解している人物になること」。ブランドについては、社長やお客様よりも理解し、何が課題なのかを毎日追求し続けるという姿勢を持つことが重要です。

メリーチョコレートカムパニー 執行役員
マーケティング本部本部長
高田 基位 氏
1992年ロッテ入社。宣伝部で、TVCMや新聞、雑誌のグラフィック制作に従事の後、マーケティング部でコアラのマーチ、トッポ、パイの実のチョコ菓子ブランド担当者としてブランドの育成業務に携わる。
2011年にポーランドのLOTTE Wedel(ロッテウェデル)社に役員として赴任し、Marketing、R&D、Export部門を管掌し、経営に従事。
帰国後、グループ会社の株式会社メリーチョコレートカムパニーでマーケティング本部の執行役員本部長に着任。現在に至る。
マーケティング本部本部長
高田 基位 氏
1992年ロッテ入社。宣伝部で、TVCMや新聞、雑誌のグラフィック制作に従事の後、マーケティング部でコアラのマーチ、トッポ、パイの実のチョコ菓子ブランド担当者としてブランドの育成業務に携わる。
2011年にポーランドのLOTTE Wedel(ロッテウェデル)社に役員として赴任し、Marketing、R&D、Export部門を管掌し、経営に従事。
帰国後、グループ会社の株式会社メリーチョコレートカムパニーでマーケティング本部の執行役員本部長に着任。現在に至る。
異国の地で奮闘し、売上を拡大
2011年には、ロッテが買収したばかりのWedel社に出向しました。前任者がいない状況で会社を経営することになり、かなり面食らいましたが、当時の上司に「前任者がいないということは比較されることがないのだから、やれると思ったことを何でもやればいいんだよ」と背中を押されました。
Wedel社では「タブレット」と「バーズミルク」という二大ブランドで売上の約7割を構成していました。しかし、どちらも市場がレッドオーシャンで価格競争に陥っており、売上は数年間にわたって右肩下がりになってしまっている状態でした。
そこで、ブランドマーケターの経験を生かし、あらためてコミュニケーションに注力。最初は、「東洋からやって来た変なおじさんがわけの分からないことを言っているぞ」と思われたようですが、だんだんみんなが巻き込まれてくれて、何とかやっていくことができました。
加えて、包装の仕様にも手を入れました。特に「バーズミルク」は、賞味期限が2ヵ月ほどしかなく、売れなければすぐに滞貨在庫になります。ポーランドは寒冷な地域で空気も乾燥しているので、法律上は簡易的な包装が許されていますが、2ヵ月はあまりにも短い。そこで、世界一と言われる日本の包装技術を使って改良し、賞味期限をさらに2ヵ月延ばしました。すると、滞貨在庫を一気に減らすことができ、会社の業績も大きく伸ばすことができました。
この経験によって、マーケターの視点は経営者の視点とかなりリンクすることが分かりました。ブランドを一生懸命磨けば、それが経営にも非常に良い結果をもたらします。それに気づいたことが再び大きなターニングポイントになり、経営にも自信を持つことができるようになりました。
どのような環境でも成果を出せるマーケターになるために
そして2017年に、日本のグループ会社であるメリーチョコレートカムパニーに出向しました。メリーは、贈答用のスイーツがメインで、百貨店を主戦場の一つとするブランドです。ほぼ初めての環境でしたが、それまでの経験が自信になり、あまりひるむことなく臨むことができました。
マネジメントの立場になって心がけているのは、現場から自発的に出てきたアイデアは原則否定しないこと。また、人と少し違う経験をしてきたことを生かして、一人ひとりと丁寧に対話しながらアドバイスすることも大事にしています。経験や知識が有機的に結びついて機能しているとを実感していますね。
最後に、僭越ながら皆さんへのアドバイスとして、どのような環境でも成果を出せるブランドマーケターになるために必要な4つのことをお話ししたいと思います。
一つ目は「高い市場読解力」です。二つ目は「優れた『見える化』力」。これは説明力とも言い換えることができますが、マーケティングの仕事には基本的に協力者が必要なので、相手を説得するために、数字やグラフなどのさまざまな手段を使って、自分がどういう理由で何をしたいのかを見える化することが大事です。三つ目が「成功体験に縛られない胆力」です。マーケティングの世界では、まったく同じ状況が訪れることは二度とないので、あえて前例にとらわれずに考えてみるストイックさが大事だと考えています。
四つ目が、私が一番重要だと考えていることです。それは「ものすごいパッション」。パッションは、自分を前に進める原動力になるだけでなく、不思議と人にも伝播していきます。そして、パッションを受け取った人はいつの間にか協力者になります。だからとても大事なんです。本日の話が皆さんの仕事に少しでもお役に立てば幸いです。
