ライジングアジェンダ2025 #13

マーケターには皆、起業の素地がある。ロート製薬・平田貴子氏の“成功する思考法”【ライジングアジェンダ2025レポート】

前回の記事:
「先読み」と「夢中」が成功のカギ。KDDI・合澤智子氏の挑戦の軌跡【ライジングアジェンダ2025レポート】
 次世代を担うマーケターが一堂に集う「ライジングアジェンダ2025」が2025年6月12~13日、東京都内で開催された。マーケティングの先輩が自らの経験と知見を語り、若手マーケターに学びのヒントを届けるセッション「This is my story」には、ロート製薬 経営企画部 新規事業開発部長の平田貴子氏が登壇した。

 平田氏は英国の大学を卒業。P&Gでマーケターとして複数のヒット商品を担当後、米国・中国のブランディングに携わり、イオンのブランド戦略室ディレクターなどを経てロート製薬に参画。現在は新規事業開発の責任者としてシリコンバレーに駐在して4年目になる。海外を中心に活躍してきた平田氏がマーケターの可能性やキャリアの広がりについて自身の考えを語った。
 

成功する思考のヒントを学んでほしい


 今日、皆さんに学んでほしいのは、どのような考え方で生きていけば成功できるのかという思考のヒントです。私の成功体験をお話ししようかとも思っていましたが、そもそも生きてきた環境や知識、性別などが一人ひとり違う中で、私の成功体験を聞くだけでは、全く役に立ちません。ですので、成功するための考え方をお話ししたいと思います。

 私は海外の大学を出て、海外に長く駐在してきました。よく「すごいね」と言われますが、ごく普通の会社員です。社会人を20年以上やっていれば誰でも上がっていくことができます。それが昭和や平成のキャリアの積み上げ方だからです。

 しかし、デジタルやAIの時代になり、私が20年以上かけて築いたキャリアに、皆さんは3年や5年という短期間で到達できるようになりました。個々の能力によらず、全員にその可能性があると考えていいと思います。
 
ロート製薬株式会社
経営企画部 新規事業開発部長
平田 貴子 氏

P&Gにてファブリーズ・レノアなどのヒット商品を担当後、マーケティングデザインマネージャーとしてアメリカ、中国のブランディングに携わる。その後イオンのブランド戦略室ディレクターを経てロート製薬に参画。現在はアメリカの子会社に出向し、シリコンバレーを拠点にVP of New Business Developmentとして活動。副業として、ヘルスケア×テクノロジーの日英バイリンガルメディアサイト「intech.media」を設立・運営。ヘルステック系トレンド、スタートアップ、ビジネスモデル構築、ブランディングを得意領域とし、各種コンサルティングも行う。2020年にMIT-Harvard Medical School Healthcare Innovation Bootcampファイナリストに唯一の日本人として選出され、2022年にはUCLA Executive MBA卒業。同年アメリカで出版した著書『The Virtual Leader: How to Manage a Remote Workplace』はamazon USA 、Wall Street Journalにてベストセラー2冠達成。
 

マーケターは皆、起業できる素地を持っている


 ここからが本題です。マーケターは、起業的思考のプロ。つまり、おそらく全員が起業できる素質を持っています。マーケターと一口に言っても、SNSなどを運用するメディアマーケターや、商品開発に関わるマーケター、営業に関わるマーケター、データ分析を行って戦略を立てるマーケターなどいろいろな種類がありますが、結局やっていることはみんな同じ。お客さんなどの相手がどのようなニーズを持っていて、それに対してどのようなソリューションを与えるかを考えているわけです。

 つまりマーケターの頭は、ニーズに対するソリューションを思いつくような癖付けがされているんです。ということは、他の場面でも何らかのニーズに気づいて事業を興す能力をすでに持っているということ。マーケターの仕事を1年も続ければ、誰にでも起業の素地が身に付くと考えています。

 大事なのはIT技術ではなく、気づくこと。たとえば、米国でスタートしたUberは、米国ではタクシーがなかなか捕まらなかったり、ドライバーの接客態度が良くなかったり、車内が清潔でなかったりと、あまり環境が良くないという課題がありました。一方で、米国は車社会で多くの人が車を持っているけれど、24時間ずっと使っているわけではない。そこで、自分が持っている車を使って個人タクシーができるようなアプリを開発したわけです。

 これは、ニーズとアンメットニーズを合わせて叶えたということ。アンメットニーズにソリューションを与えることによってビジネスが成り立ち、それが社会を変えるほどに拡大しました。

 こうした発想は、AIやディープテックありきではありません。アンメットニーズに気づいて、ソリューションを与える。それが起点となって、世界を変えるということに至っています。皆さんには、それを考えられる素地がすでにあるんです。
  
 

好きなことの中で得た気づきから、起業へ


 私の友人の話もご紹介します。その友人は、大皿に乗ったお惣菜がカウンターの上にずらりと並んでいる居酒屋が大好きで、よく食べ歩きをしていました。その中で、近所の寂れた商店街においしい居酒屋さんを見つけて、通うようになったんだそうです。

 そのうちに、このメニューはもっとこうしたらいいんじゃないかという思いが芽生えはじめて、たまたまそこのオーナーさんにその話をしたら、「じゃあやってよ」と言われて。土曜日に週1回だけ手伝うようになったところ、2年経った頃には友人のつくったお惣菜が大きな反響を呼ぶようになっていました。そこで友人は会社を辞めて起業し、その居酒屋の隣の店舗を借りて、居酒屋風総菜の販売店を始めることにしたんです。

 これもAIやディープテックとは無関係の話ですよね。自分の好きなことの中で、「こうしたらいいんじゃないか」という気づきがあって、まずはやってみた。そこから起業につながったわけです。

 いきなり起業するのは怖い、今の会社が好きという人もいるかもしれません。そうした人たちがマーケターとして次に目指すべきは、新規事業開拓や経営企画、CVCだと考えています。CVCは、コーポレートベンチャーキャピタルの略で、外部のベンチャーや新規事業に投資する部門のことです。こういうものがあったらいいなと思うものを新規事業として追加したり、自社の技術と提携したらいいだろうなと思う会社に投資したりすることができます。

 マーケティングを2~3年やれば素地は十分。起業をするか、会社員としてやっていくのであれば、新規事業開拓や営業企画、CVCの三つをお勧めしたいなと思います。ぴったり合致する部門がなければ、社内で提案するのも一つのやり方だと思います。私自身も、今は経営企画部で、社内のスタートアップに投資するというCVC周りの仕事をしています。
 

諦める必要はない、自分がやりたいことを軸に


 最後にお伝えしたいのは、止まらずに動くことが重要だということです。今の会社が大好きで、3~4年はマーケティング部門に在籍していますという人は、もしかすると危険な兆候かもしれません。なぜなら、そこが快適だからという理由で、そこにとどまり続けてしまう可能性があるからです。

 今の仕事である程度の成果を出せるようになってきたら、次に、次にと挑戦していくことを強くお勧めします。今のキャリアを継続して積みながら副業で少しずつ試していくというのもいいですし、社内の部署移動やプロジェクト移動を希望して、自分の幅を広げていくというのもいいでしょう。

 何かをやろうと思ったときに、周囲の人から「やめた方がいいんじゃない」「それは無理じゃない」と言われたり、自分でも「できないかも」と思ったりすることがあると思います。でもそれは、過去に誰かに言われたことや、過去の自分の経験から判断しているだけ。明日は今日より知識も経験も増えた新しい自分に生まれ変わっているので、未来のことは誰にも分かりません。

 だから諦める必要はなく、自分がやりたいことを軸に選んでいけばいいんです。できないかも、このタイミングじゃないかもと考えているのは過去の自分であって、未来の自分は違います。明日の自分はできるかもしれないし、1週間後の自分はもうできているかもしれません。自分のやりたいことを軸に選んだほうが、上手くいくはず。

 私自身も、20年前には、自分が投資や新規事業に関わるとは思ってもいませんでした。でも、やりたいことをどんどん突き詰めていったら、ここにたどり着きました。皆さんは、3年以内にやりたいことに辿り着く可能性があります。ぜひ頑張ってください。
  

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