ネプラス・ユー2025 #07
パナソニック コネクトが全社員1.3万人のAI導入に成功した3つの秘訣【小林製薬 大槻氏によるネプラス・ユー振り返り】
2025/08/25
「便利だから使われる」ーマーケティング業務とAI
「生成AIは、とにかくマーケティング業務と相性がいい」と向野氏は断言します。企画、実行、分析、効果検証といったあらゆるプロセスで生成AIは活躍します。特に、最終的な成果物に至るまでの中間生成物(企画書、ペルソナ、コピー案など)の作成をAIに任せることで、業務は劇的に効率化されます。
例えば、堅牢PC「TOUGHBOOK(タフブック)」のマーケティングで、北米ヒューストンの発電所で働く現場監督のペルソナを設定するケースを考えてみましょう。日本の担当者がこれをゼロから詳細に設定するのは困難です。しかし、「Connect AI」を使えば、ターゲットの顔写真と共に、その業務内容、課題、製品購入の動機といった、マーケティングに必要なユーザー像が瞬時に生成されます。

さらに、そのユーザーに対して「TOUGHBOOK」が提供できるユーザーベネフィットや独自の強み(USP)を、社内の製品情報などを引用しながら具体的に示してくれます。
従来であれば、現地法人へのヒアリング、翻訳、チームでの議論、USPの検討など、数日かかっていた一連のプロセスが、わずか数クリックで完了します。向野氏が強調する「便利だから使われる」という原理原則が現れています。
前段のコーパス構想がさらに進めば、現地法人のユーザー調査結果や、現場を知る保守担当者の声も反映され、より精緻で確実性の高いアウトプットが瞬時に得られるようになるでしょう。
データで顧客を理解する「CDP構築」の勘どころ
続いて、データ活用の核となるCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)の構築です。パナソニック コネクトでは、マーケティング、営業、カスタマーサービスのデータをCDPに連携させ、顧客解像度の向上や施策の高度化に活用しています。

データ連携はまだ途上ですが、認知から購入までのマーケティングファネルの可視化はすでに実現しています。
組織やデータのサイロ化を乗り越えるのは容易ではありません。向野氏は、CDP構築の勘どころを「営業担当者にとって価値ある情報を、CDPから引き出せるか」という点にあると語ります。マーケティングと営業が一体となり、特定の顧客に有益な情報をピンポイントで提供するABM(アカウント・ベースド・マーケティング)を実現することが、成功の鍵なのです。

この動きは、BtoC企業にも当てはまります。人件費や原材料費が高騰する中、無駄なマーケティング活動は許されません。1st Partyデータを活用してロイヤル顧客と離反顧客を正確に分析し、持続的に売上を伸ばすための戦略へとシフトすることが急務です。
多くの企業は、卸売や小売店を介したBtoBtoCという事業構造をしています。だからこそ、マーケティング、営業、カスタマーサービスといった組織の壁を取り払い、企業全体の成長のために「お客さま」を深く理解するデータ連携を目指す必要があります。
AIエージェントが拓く「1to1マーケティング」の未来
マーケティングにおけるAI活用とCDPの構築。これらは元々、個別の活動でした。しかし、AIエージェントが台頭する現代において、この2つが結びつくことで、かつてないほどの大きな可能性が生まれます。
例えば、担当者が「TOUGHBOOKの新規リードを100件獲得せよ」と指示するだけで、AIエージェントがCDPの顧客データやコーパスの情報を駆使し、目標達成に向けた最適なプランを自律的に考え続けてくれる。そんな、真の1to1マーケティングが実現する世界が近づいています。

パナソニック コネクトではその第一歩として、Webサイトのアクセス解析データを、営業やカスタマーサポートの担当者にも分かりやすいレポート形式に要約し、メールで自動配信するAIエージェントの検証を始めています。従来は共有が難しかった情報を、AIがハブとなって届けているのです。
生成AI時代、マーケターの価値は「問いを立てる力」に
セッションの最後に、向野氏にこんな問いを投げかけました。
「ナレッジマネジメントやCDPは、これまでもマーケティングDXの文脈で語られてきたテーマです。生成AIの登場で、一体何が変わったのでしょうか」

「いままでのAI(人工知能)は数字のAI、理系のAIだった。生成AIは言葉のAI、文系のAIです。そうなると言葉のプロであるマーケター方々が一番よく使えるツールだと考えていただきたい。AIに仕事を取られるかも、、と不安に駆られないで、どんどんAIを仲間にして使っていっていただきたいと思います」
そう語る向野氏の言葉は、これからの時代を生きるマーケターへの力強いエールとなりました。ぜひ、一緒にマーケターにとってチャンスとなる素晴らしい時代を楽しみましょう!

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