マーケティングアジェンダ2025 #15
ミツカン・アサヒグループのマネジメント層が考える、AIと人間の役割分担【マーケティングアジェンダ2025レポート】
2025/09/01
国内外のトップマーケターが集結するマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ2025」が5月21~23日、沖縄県読谷村(グランドメルキュール沖縄残波岬リゾート)で開催された。
生成AIの台頭により、マーケティング業界は大きな変革期を迎えている。クリエイティブ制作の自動化から戦略立案支援まで、AIの活用範囲は急速に拡大する一方で、「果たして、AIは市場を創造できるのか?」という問いが浮上している。
初日に行われたキーノートには、Mizkan 代表取締役専務 兼 日本+アジア事業COOの槇亮次氏と、アサヒグループジャパン 常務執行役員 最高成長責任者(CGO)の梶浦瑞穂氏が登壇。日本ケンタッキー・フライド・チキン 専務執行役員 CDTO(Chief Digital Technology Officer)DX 推進本部長の池照直樹氏がモデレーターを務め、AI時代におけるマーケティングの未来像を探った。
AIによる業務効率化の先にある「人間にしかできない価値創造」の重要性や、マーケターが経営人材に転換していくための真のリーダーシップについて問い直した、注目のセッションの模様を振り返る。
生成AIの台頭により、マーケティング業界は大きな変革期を迎えている。クリエイティブ制作の自動化から戦略立案支援まで、AIの活用範囲は急速に拡大する一方で、「果たして、AIは市場を創造できるのか?」という問いが浮上している。
初日に行われたキーノートには、Mizkan 代表取締役専務 兼 日本+アジア事業COOの槇亮次氏と、アサヒグループジャパン 常務執行役員 最高成長責任者(CGO)の梶浦瑞穂氏が登壇。日本ケンタッキー・フライド・チキン 専務執行役員 CDTO(Chief Digital Technology Officer)DX 推進本部長の池照直樹氏がモデレーターを務め、AI時代におけるマーケティングの未来像を探った。
AIによる業務効率化の先にある「人間にしかできない価値創造」の重要性や、マーケターが経営人材に転換していくための真のリーダーシップについて問い直した、注目のセッションの模様を振り返る。

モデレーターを務めた日本ケンタッキー・フライド・チキン 専務取締役員 CDTOの池照直樹氏
AIが生み出す「時間」「スケーラビリティ」「成果物の品質」
池照 本日のテーマは「AIは市場を創造するのか」。AIという道具を使って、僕らはどうやってビジネスを大きくしていくのか。ビジネスを大きくするために、これから求められる人材とはどんな人なのか。そんな話ができればと思っています。まずは、「AIと共に進化する、マーケティング業務の効率化」というテーマに沿ってお話ししていきます。お二人の所属企業がどのようなAIの使い方をしているかということから話を進めていきましょう。
槇 この春からMizkanのCOOとして、マーケティング、営業、生産、物流、調達部門などを統括しています。当社にはデジタル専門のチームがあり、基本的にツール類は社内で内製化して、隅々までAIを活用しようとしています。
まず、マーケティング分野でのAI活用事例としてご紹介したいのは、戦略・コンセプト開発です。新しいジャンルの商品をつくる際には、社内の知見だけでは不足しますので、情報収集・分析、コンセプト調査・開発にAIを活用しています。
もう一つは、制作オペレーションへの活用です。最近、新たなWebサイトを立ち上げたのですが、システム構築や画像制作など、従来は外注していた業務をAIを活用して内製化したことで、コストを抑えると同時に社内に知見を蓄積することができました。
また、審査・承認という手続きが多い業務に対しては、AIを使って仕組みを構築して効率化しようとしています。
梶浦 私はマーケティングと国際畑で、さまざまな国で多様な消費者を見てきました。アサヒビールのマーケティング本部長を経て、現在は常務執行役員最高成長責任者として、日本および東アジア全体の成長をミッションとしています。
当社ではイノベーション推進組織FCH(Future Creation Headquarters)を設置しており、新規事業開発を目的に、最先端の取り組みを実験的に行っています。生成AIの登場以降、さまざまなプロジェクトを発足させて、社内認知を高めながら、多くの社員がAIを使う素地をつくる取り組みを始めています。
AI活用をアサヒグループ全体に促進する機能を持ったデータ&イノベーション室が主導して、商品パッケージなどのクリエイティブをAIでつくることにもトライしています。
池照 お二人からいただいた事例にもあてはまりますが、AIが生み出すものとして、「時間」「スケーラビリティ」「繰り返し作業の成果物の品質」が挙げられると思います。このあたりの実感やお考えについてお話しいただけますか?
槇 先ほどWebサイトの制作にAIを活用している事例を紹介しましたが、そういったものが、これからは個人ベースでもできるようになっていくと思います。そうなると、今まで部門間でバケツリレーをしていたプロセスも減っていくのではないかと考えています。企業活動のベースになるのは時間ですから、作業的な時間をAIで減らしていけると、より有用な時間の使い方ができ、最終的な価値の生み出し方が変わってきます。
梶浦 AIが時間を生み出してくれるというのは間違いありませんね。生産性を上げて、本当にやらなければいけないことに割く時間をつくっていくことが、まずやるべきことかなと思っています。
クリエイティブ制作に限らず、皆さんいろいろな作業をされていると思います。私も担当ブランドを持っているときは、商品の表示のチェックなど細かい作業にとてつもない時間を取られていました。それらをいかに会社全体で減らし、時間の余裕をつくるかというのは、AI活用において最初にすべきことだと思いますね。

Mizkan 代表取締役専務 兼 日本+アジア事業COOの槇亮次氏
既存事業、新規事業ともにAI活用の機会がある
池照 人が時間をいかに効率的に使っていくかはこれからの課題だと思います。こうしたAIの特性を経営戦略にどう生かしていくかが次のテーマです。ビジネスを成長させるには、必ず差別化と独創性が必要になります。経営における独創性とは、新たなビジネスモデルの創造、新規事業の推進、また経営フレームワークや仕事のやり方を変えていくことではないでしょうか。
槇 食品業界は、人口減少問題に直面しています。特に当社は調味料の事業規模が大きいので、家庭で料理をつくらない人が増えていく中、市場環境の厳しさを痛感しています。こうした状況下では、会社全体でのポートフォリオマネジメントが大事になると思います。既存のビジネスにとらわれず、新しいモデルも探索していく。いわゆる両利きの経営をしていくべきだと思います。
既存事業のオペレーションを効率化していく一方で、新規事業に取り組み、市場機会を見つけることにAI活用の機会があると考えています。AIによって新規事業を推進しやすい環境になっていくと思うので、楽しみです。
梶浦 私がブランドマネージャーをしていた時は、目の前の仕事に追われる毎日でした。しかし、マーケティングとは何かを問い直すと、本当にすべきは日々のオペレーションを回すことではなく、市場をつくり、新たな顧客を創造することです。
いかにそれを実現していくか。私が今の立場から考えるのは、現場で「本当にやるべきこと」ができる人を見つけ、育て、成果を出してもらうことです。
AIを使いながら新規事業を0→1で考える。それを少人数で進めることでスキルをつけ、さまざまなトライのなかで学習をしていって、仲間を増やしていく。そんなことを実現できるといいと思っています。

アサヒグループジャパン 常務執行役員の梶浦瑞穂氏
市場創造や顧客創造は最終的に人間の仕事
池照 AIは、過去に蓄積されてきた大量のデータを高速で処理してくれます。そのデータの中にはない、戦略的思考や構造改革をする能力こそ、これからのマーケターの仕事になっていくと言えそうですね。
梶浦 その通りですね。新しいビジネスは、当然ながらこれまでの世の中にはないものです。既存のデータが使えるところにはAIを活用すればいいのですが、本当にゼロからイチをつくることや、それをやらなければならない理由を明確にすることは、人間の仕事として残ると思います。つまり市場創造や顧客創造は、最終的には人間の、マーケターの仕事であると思っています。
槇 例えばこのカンファレンスも、この場で人が話しているからこそ、意味があると思います。誰かと交渉する、調整する、謝罪する……人にしかできない仕事はたくさんあります。
経営における、人にしかできない仕事とは何か。一つは思考です。戦略思考を持って考えること。ここは人材育成と絡んでくる部分だと思います。私は今、会社で「ヒット商品をつくるよりも、ヒットメーカーをつくりたい」と話しているんです。人を育てることで、戦略思考が社内の至るところで行われ、それが循環していくのではないかと思うのです。
構造改革の目的は構造を変えることではなく価値をつくることですから、さまざまな失敗を乗り越えながら価値づくりとは何かを学んでいくことが重要です。これには勇気もいるし、上手くいかなかったときにそれを認める胆力もいる。でもそういうことに、より時間を割いていくことが必要だと思います。
池照 もう一つ大事なものに「馬力」があると思うのですが、いかがですか?
梶浦 その通りですね。実行や変革の前に立ちはだかる壁を最後に突破していくのは人間だと改めて思います。いくらきれいなマーケティング戦略やコミュニケーションプランを書いても、それだけでは何も実現しない。戦略やプランを具現化して世の中に出ていくまでのプロセスをやりきるのは、結局、人間のパッションとパワー。AIは「絵を描く」ことはできますが、それを実現するのは人間であるということは変わりませんね。私たちは昭和の生まれですが、あの時代のパワーがもう一度求められているのではないかという気もしています。

活発に意見を交わした(左から)池照氏、梶浦氏、槇氏
経営者・マーケターは操縦士で、AIは副操縦士
池照 高度経済成長時代につくられたビジネスモデルにとらわれたままでは、今後は国際競争力が落ちていきます。人口減少社会の中で、働き方も変えていかなければ間違いなく立ち行かなくなります。
変革を進めるにあたっては、もちろんAIの力を借りて効率化したり、PDCAサイクルを高速化したりすることが可能です。ただし、変革を実現していく推進力はAIにはありません。経営者・マーケターは操縦士で、AIは副操縦士。そんな位置づけなのではないかと考えています。
ここからは、今後求められる組織やチームについて考えてみましょう。AIの導入によってオペレーショナルな業務から解放され、戦略的思考を得た経営人材へと変貌するチャンスが到来しています。そうした中で、チームをどう育成し、自分自身の成長をどうつくっていくかが次のテーマであると考えます。お二人は、プロフェッショナル・オペレーターから経営人材になるために必要なこととはなんだと思いますか?
槇 まずは、組織全体の観点から。現状さまざまな部門と、それらが担っている機能があると思うのですが、一度見直すべきではないかと思っています。例えば、営業部門がAIの導入によってオペレーション業務から解放されると、よりコンサルティング要素を強めた営業組織が実現できるかもしれません。そうなれば営業の機能は販売ではなくなり、組織の形が変わってくるでしょう。まず、このような構想を描いて、組織の再構成を進める必要があります。
メンバーの育成という観点では、とにかくPDCAを回すこと。チーム単位でも個人単位でも、AIでこのサイクルのスピードを上げていきたいですね。若ければ若いほどチャンスが多いので、機会を与えていきたいなと思っています。
梶浦 さまざまな経験をするスピードが我々の時代とは格段に違うはずなので、それをぜひポジティブに捉えて欲しいですし、それこそAIを上手く使いこなしていただきたいです。マーケターの皆さんは、全員が経営者候補であるはずです。少なくとも我々は今のマーケターをそのように見ていますし、過去にはそう見られてもいました。
リーダーを育て、選んでいく立場から見ると、仕事ができるのは当然として、「AI時代のリーダーにふさわしいかどうか」を重視します。そのためにはAIを使いこなすだけでは不十分で、チームを率いる人とはどういう人かを問うてほしいと思っています。組織は結局人間の集まりなので、人間を動かすために何が必要なのかを考えながら仕事をしていくと、AIの活用によって生み出された時間の使い方が進化していくと思います。
池照 最後にお一人ずつ、マーケターの皆さんに対してメッセージをお願いします。
槇 大きな戦略を掲げたら、絵に描いた餅にせず、やりきることが本当に重要です。やりきるまでのプロセスでも、AIはさまざまなシーンで助けてくれると思います。頼りになる相棒のつもりで使っていけば、よりハイレベルな部分に良い影響を与えられると思います。
梶浦 AIをバリバリ使いこなして、どんどん提案を持ってくる人は、我々マネジメント層から見ると光り輝いて見えます。こういう人に次のチャンスをあげたいと本当に思うのです。
今の仕事を超えて、リーダーや経営者として飛躍していくためにも、ぜひそういうふうに仕事を効率化して成果を出して、組織の中で光り輝くような存在になってください。それはきっと自分の人生も豊かにすることにつながると思います。
池照 失敗してもいいから、AIを使って色々なことをどんどん試して、自分の中に知識と経験を溜めていく。これが短いサイクルでできることが大切というお話がありました。皆さんも今日のお話を参考にしながら、これからのAIとの向き合い方、そしてご自身のキャリアや人生との向き合い方を考えていっていただければと思います。

マーケティングアジェンダ東京2025開催概要
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名称
- マーケティングアジェンダ東京2025
- 日時
- 2025年11月26日(水)~27日(木)
- 会場
- 新宿住友ホール
〒163-0290 東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビルB1F - 参加方法
- ブランド枠:無料(事前審査制)
プレミアムブランド枠:150,000円(税込み165,000円)
パートナー枠:400,000円(税込み440,000円) - 主催
- 株式会社ナノベーション
- 特別協力
- アジェンダノート