ネプラス・ユー2025レポート #03
サントリー、ユナイテッドアローズの挑戦に迫る 顧客理解を深め「意味のある消費」をつくるCRM戦略とは?【ネプラス・ユー2025レポート】
2025/11/20
関西のマーケターを中心に「知識と情報、経験を繋ぎ、共創を生み出すこと」を目的とするマーケティングカンファレンス「ネプラス・ユー2025」(主催:ナノベーション)が7月16-17日、大阪市中央公会堂で開催された。
「買って終わり」ではなく、顧客との関係づくりが企業の競争力を左右する時代。インターネットの発達によって、消費者はさまざまなブランドと容易に出会えるようになった一方で、ブランドにとっては、顧客とどのように関係を構築・維持していくかが戦略の中心的な課題に。リテールはロイヤルティプログラムやパーソナライゼーション施策を駆使し、メーカーも多様なタッチポイントを通じて消費者と継続的な関係を構築することが求められている。
初日のセッション「サントリー、ユナイテッドアローズが語るCRM戦略の現在地ー再購入される必然性をどう設計するか」では、顧客にとって「意味のある体験」を目指すロイヤルティプログラムの進化について、サントリーの中村直人氏、ユナイテッドアローズの池田沙貴子氏が実体験をもとに議論した。モデレーターは顧客時間/オイシックス・ラ・大地の奥谷孝司氏が務めた。
「買って終わり」ではなく、顧客との関係づくりが企業の競争力を左右する時代。インターネットの発達によって、消費者はさまざまなブランドと容易に出会えるようになった一方で、ブランドにとっては、顧客とどのように関係を構築・維持していくかが戦略の中心的な課題に。リテールはロイヤルティプログラムやパーソナライゼーション施策を駆使し、メーカーも多様なタッチポイントを通じて消費者と継続的な関係を構築することが求められている。
初日のセッション「サントリー、ユナイテッドアローズが語るCRM戦略の現在地ー再購入される必然性をどう設計するか」では、顧客にとって「意味のある体験」を目指すロイヤルティプログラムの進化について、サントリーの中村直人氏、ユナイテッドアローズの池田沙貴子氏が実体験をもとに議論した。モデレーターは顧客時間/オイシックス・ラ・大地の奥谷孝司氏が務めた。
UAクラブが仕掛ける「部活型コミュニティ」
奥谷 今年前半を振り返りますと、海外では「ゲームチェンジ」というテーマを強く感じました。店舗とデジタルタッチポイントの変化が顕著で、店舗から顧客情報を多く取得できるようになった結果、店舗がネット化し、逆にネットはリアルに近づいてきています。
これにより、かつては難しかった高度な接客が可能になりました。AI導入によって、特に海外ではリテールの働き方が変わってきています。「リアル店舗がなくてもいい時代」になる中で、どうやって顧客に店舗へ足を運んでもらうかが、大きなテーマになっています。
顧客時間 共同CEO 代表取締役
オイシックス・ラ・大地 COCO(Chief Omni-Channel Officer)
Super Normal 代表取締役
奥谷 孝司氏
1997年良品計画入社。05年に服飾雑貨のカテゴリーマネージャに就任し、定番商品の「足なり直角靴下」を開発、ヒット商品に。10年WEB事業部長。「MUJI passport」をプロデュース。15年10月よりオイシックス株式会社(当時)入社。18年9月にDX & CX戦略構築支援会社として、株式会社顧客時間を設立し共同CEO取締役に就任。また24年6月に自らD2C事業を手掛ける株式会社としてSuper Normalを設立。著書に『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)、『マーケティングの新しい基本 顧客と繋がる時代の4P x エンゲージメント』(共著、日経BP社)がある。
オイシックス・ラ・大地 COCO(Chief Omni-Channel Officer)
Super Normal 代表取締役
奥谷 孝司氏
1997年良品計画入社。05年に服飾雑貨のカテゴリーマネージャに就任し、定番商品の「足なり直角靴下」を開発、ヒット商品に。10年WEB事業部長。「MUJI passport」をプロデュース。15年10月よりオイシックス株式会社(当時)入社。18年9月にDX & CX戦略構築支援会社として、株式会社顧客時間を設立し共同CEO取締役に就任。また24年6月に自らD2C事業を手掛ける株式会社としてSuper Normalを設立。著書に『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)、『マーケティングの新しい基本 顧客と繋がる時代の4P x エンゲージメント』(共著、日経BP社)がある。
海外のマーケターの間でよく語られていたことのひとつが、顧客の課題解決に着目した「ジョブ理論」です。そしてもうひとつが、このセッションのテーマでもあるロイヤルティプログラムで、海外ではロイヤルティプログラムが従来のものから進化しています。
ロイヤルティプログラムで重要なのは「お客さまにとって自分たちはどういう存在としてい続けられるか」という問いです。「私のためのブランド」と感じてもらえる仕組みづくりと、課題解決や共感を軸にしたコミュニティづくり、そしてアンケートなどを通じたゼロパーティデータの取得と深掘り。こうした取り組みが、お客さまとの関係を深め、ブランドへの愛着を育むことにつながります。
本セッションでは、国内で興味深いロイヤルティプログラムを展開されているユナイテッド・アローズ(UA)さんと、自らは「失敗談」と仰っていますが、実際には多くの学びを得られたサントリーさんの取り組みをお話しいただきます。
池田 当社のロイヤルティプログラム「UAクラブ」は、2023年8月にリニューアルを行いました。「クラブ」という呼び方にはいくつかの意味があります。ひとつは、将来的に部活のようなコミュニティをつくりたいという考えからです。たとえば「別注アイテムが好きな人」や「仕立てシャツにこだわる人」など、共通の趣味・関心を持つお客さま同士が交流できる場をつくれたら面白いのではないかという発想です。また、当社と関わってくださる方を「部員」のように親しい仲間として捉えたいという思いもあります。
当社ではEC・アプリ・店舗など、どの購買チャネルであっても同一の顧客IDでデータを紐づけ、購入履歴を一元管理しています。そのデータをもとに、売れ筋や顧客特性に応じたオファーを提供する。これが基本的な仕組みです。
2019年に本格的なIT・デジタル基盤の強化を行い、2020年のコロナ禍でECシフトが一気に加速しました。デジタル上で接客できるようオンラインチャットを導入したほか、ECプラットフォームと店舗をシームレスにつなぐ仕組みが必要と判断し、基幹システムも入れ替えました。CRMや自社アプリのリニューアル、店舗端末の入れ替えなどを進め、2025年1月には、アプリに新機能「店内モード」を追加しました。店舗でのお客さまの行動データを取得できる仕組みを組み込み、OMOを加速させています。
奥谷 UAクラブの特徴的な仕組みについて教えてください。
池田 購買に応じて「マイル」が貯まる仕組みになっており、一般的な「1ポイント=1円」ではない点が工夫ポイントです。少し手間をかけることで、お客さまがいつ・どのタイミングでクーポンに交換しようとしているのか、交換までにどれくらいのリードタイムがあるのかといったデータを取得できます。これは意図して設計しました。
また当社は、購入額に応じて貯まるポイントに加えて、買わなくても貯まる「アクションマイル」を設けています。アプリのダウンロード、LINE ID連携、お気に入りのスタッフ登録、アンケート回答といった、さまざまな行動で少しずつマイルが貯まります。

奥谷 なぜこうした設計にしたのでしょうか。
池田 売上構成を分析すると「パレートの法則」が当てはまり、上位顧客のごく少数が売上の大半を占めています。最も高いステージのダイヤモンド・プラチナ会員はわずか約1万人と、全顧客に占める割合は低いですが、売上の中心を担っています。
そのため、まずはこの上位顧客層の売上を維持・強化することが重要です。しかしそれと同時に、UA社全体の売上を底上げするためにはベーシック層や、年に1回しか購入しないお客さまに、年2回以上購入していただく仕組みをつくる必要があります。購入頻度を向上する仕掛けがあれば、売上構造のピラミッドそのものを大きくすることができます。
そのためKPIとしては、まずライト層、つまり年1回しか購入しないお客さまのシェアを把握し、購買頻度をどれだけ引き上げられるかを重視しています。
ユナイテッドアローズ
顧客管理部/副部長 兼CX課/課長
池田 沙貴子氏
2018年 ユナイテッドアローズ入社。2023年8月に自社ロイヤリティプログラム「UAクラブ」をリリース。自社CRMの運営および、顧客コミュニケーション設計に従事。チャネルを横断したOne to Oneマーケティング実現へ向けて、顧客のLTV向上を目指し、戦略設計・運営を担う。
顧客管理部/副部長 兼CX課/課長
池田 沙貴子氏
2018年 ユナイテッドアローズ入社。2023年8月に自社ロイヤリティプログラム「UAクラブ」をリリース。自社CRMの運営および、顧客コミュニケーション設計に従事。チャネルを横断したOne to Oneマーケティング実現へ向けて、顧客のLTV向上を目指し、戦略設計・運営を担う。
ただ、データやKPIという言葉ばかりになると面白みに欠けます。そこで意識したのは「UAならではの強みをどう生かすか」です。他のファストファッションにはない独自の価値を考え、ブランド事業部と密に連携して要件定義を行いました。
我々の強みは「店舗体験」です。店舗スタッフはお客さまのリアルで具体的なニーズをヒアリングしてカルテに記録し、お客さまのライフスタイルに合いつつ、ブランド価値に沿った商品を提案します。このスタッフとのつながりを、どうプログラムに組み込むかを含め、金銭的インセンティブと心理的インセンティブをどこでどのように与えるかについて、漠然とした発想を具体化しながら設計しました。
今年導入した「店内モード」では、これまで購買データしか取れていなかったのに対して、購買前のお客さまの情報を収集できるようになりました。
小さな行動でマイルが貯まる仕組みによって、お客さまの「第一想起」にUAが入る効果が期待されます。その結果、数値面では会員維持率が大きく向上しています。UAクラブは始まって2年になりますが、年2回以上購入してくださる会員シェアは3割から5割へと伸びました。
会員維持率をKPIに入れている企業は多くないかもしれません。しかし、例えばコートなどは必ずしも毎年購入されるわけではないので、数年単位で見てどれだけ長くご利用いただけるか、LTV(顧客生涯価値)の観点から維持率を重視しています。アクションマイルなど細かな施策も順調に達成できており、今後は集めたデータを活用して、店舗とオンラインの購買体験をシームレスに統合し、継続的にお客さまとつながれる仕組みづくりに注力します。
奥谷 お客さまにとっては、もっと安い服を買ったり、別の所で買った方が安くなったりする場合もある中で、アプリや接客を通じて、「UAで買いたい」という心理や「意味のある消費」をつくれていると感じますか?
池田 「UAで」洋服を購入する背景には、何かしら理由や叶えたい課題があるはずです。その理由をしっかりつかむことが重要で、私個人の意見としては、やはり「人」の力が大きいと思っています。デジタルだけでは店舗でのお客さまの表情や声のニュアンスまではわかりません。まだまだ「人」の力が中心だと考えています。
奥谷 私は「ヒューマンタッチテクノロジー」と呼んでいますが、高度なテックでなくても、一定レベルのデジタル接点でお客さまにサービスを提供し、ポジティブな接客によって優れた顧客体験が生まれ、店舗に行く理由や意味ある商品購入につながりやすくなると思います。
では、店舗を持たない場合は、どのようにこれらを進めるのでしょうか。中村さんにサントリーの取り組みをお伺いします。




メルマガ登録















