ネプラス・ユー2025レポート #03
サントリー、ユナイテッドアローズの挑戦に迫る 顧客理解を深め「意味のある消費」をつくるCRM戦略とは?【ネプラス・ユー2025レポート】
2025/11/20
「意味ある顧客体験」を生み出すエコシステム
奥谷 たとえ失敗の部分があったとしても、お客さまが参加してくれたわけですから、創出したお客さまとのつながりが無意味だったわけではありません。もちろんインセンティブ目的で動いている面があっても、お客さまが行動を起こしてくれること自体が価値です。
メーカーのCRMは、やはり小売を経由するのが基本形になると思いますが、優れた商品と本当に買いたいお客さまを結びつけるのが純粋に小売の役割だとすると、メーカー側からユニファイドコマース(顧客情報を統合し、パーソナライズされたサービスを提供する販売戦略)をつくっていければ、お客さまにとっての「買い物の意味」を可視化し、エコシステムの設計に生かせる可能性があると思います。こうした取り組みがもっと広がってほしいですね。
中村 そうですね。もし「サントリー九州クラブ」を全国展開できていれば、スケールメリットが生まれ、より持続可能な仕組みとして育てられたかもしれません。
また、経済的インセンティブを前提にPoCを行っていたため疲弊した面がありましたが、サントリーファンになっていただくためのタッチポイントは経済的な面以外にもいろいろあります。たとえば工場見学でモノづくりに感動していただいたり、社会貢献事業やスポーツ事業などの取り組みを通じてサントリーを好きになってくださった方が入会してくださるケースも見られました。こうしたところにも施策を広げられていたら、より有益な仕組みになったのではという悔しさもあります。
奥谷 メーカーには「場所」がない。けれど工場体験など、モノづくりの背景にあるストーリーを通じてお客さまに感動していただくのも大きな価値です。大手メーカーであるほど、社会的責任や権威といったものを統合的にマーケティングに組み込んでいくことで、お得意さま、いわゆる「(パレートの法則の)2:8」の「2」の部分にリーチできる場合があります。そこからさらに、なぜこのビールを選んで飲んでいるのか、「意味」を把握・理解していくことが重要になります。
池田 中村さんのお話で印象深かったのが、外部ID-POSとの連携です。システムの難易度など、実現までにはかなり高いハードルがあったのではないでしょうか。私たちも、外部の通販サイトなどとのデータ連携を模索しているので、参考にしたいです。
奥谷 米国でも、小売と良好な関係を築くことは非常に重要です。たとえSKUが限られていたとしても小売と協力し、お客さまが商品を使い続ける価値をどう見出していくかがポイントになります。
今後、お客さまとつながり続けるためには、単に購入してもらうだけではなく、たとえばお酒であれば、購入の背景にある「友人との交流」や「特別な体験」といったオケージョンを理解することが重要です。こうしたインサイトがあるからこそ、二度三度と繰り返し購入してもらう状況を把握でき、より「意味」のある商品体験を提供できるのです。
お二人の話を伺って、立場が違えど共通して言えるのは、ユニファイドコマースの仕組みがなければ、顧客理解を深めることはできないという点です。デジタルとリアルを統合しながら、あらゆるチャネルでデータを活用しながら顧客の関心や行動パターンを理解し、消費の「意味」を見つけて顧客体験を高めることが今後、重要になると改めて感じました。
最後に、今後取り組みたいことについて、一言ずついただきたいと思います。
池田 私が挑戦したいことは、当社の強みである「人」をデジタルの力を使って最大限引き出すこと。データやデジタルツールの手段を生かし、スタッフの接客力を最大化することです。当社にはUAメソッドの接客マニュアル、充実した接客研修がありますが、現在はまだスタッフ各々の経験や閃きに頼る部分が大きいのではと感じることがあります。
たとえば、来店前のお客さまの興味関心や実際のオンラインストア上での行動などの情報をスタッフが接客時にリアルタイムで確認できる環境を用意できれば、お客さまにフィットした商品提案のスムースさ、お客さまとスタッフのコミュニケーションの上質さをもっと演出することにつながるのではと考えています。当社の強みである「人」を、デジタルの力を使って誰もが「スーパースタッフ」に近づけられたらいいなと考えています。
中村 メーカーとしての強みを生かし、流通企業さまのデータを含むID-POSデータを活用して、お客さま理解をさらに深めていきたいです。しかし一方で、企業ごとに顧客情報の管理方法が異なり、同じお客さまでも複数のIDが存在するケースが多いため、真の顧客理解につなげにくいという課題があります。
この課題を解決するには、まず顧客に明確なベネフィットを提供し、パーミッションを得た上で、流通企業さまとも連携してデータを統合していくことが不可欠です。成熟市場では商品や価格による差別化が難しいからこそ、ブランドの付加価値をお客さまと共創できる環境をいかに整えるかが、今後の戦略の鍵を握ると考えています。
奥谷 真の顧客理解を実行するために連携・協調していくことで、消費の「意味」がもっと理解でき、小売・メーカー・顧客の三者にとって有益なエコシステムが構築できると思います。本日はありがとうございました。
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