リテールアジェンダ2025レポート #01

増収増益のスギホールディングス カギはデータを活用した顧客ロイヤル化戦略【リテールアジェンダ2025レポート】

 国内外のリテールとメーカーのマーケターが集結するカンファレンス「リテールアジェンダ2025」(ナノベーション主催)が9月11日、東京都渋谷区のEBiS303で開催された。200人あまりが参加し、小売ビジネス・マーケティングの最新潮流が共有され、議論とネットワーキングが交わされた。

 最初のキーノートは「選ばれる店舗をどうつくる?─AI時代を見越したデータ活用による体験設計と利益創出」をテーマに、スギホールディングス 執行役員SCM・DX・コーポレートブランディング担当の森永和也氏が登壇。サントリー 広域営業本部 第2支社長 兼 デジタル戦略部 部長 リテールAI推進チーム シニアリーダーの中村直人氏がモデレーターを務め、激戦のドラッグストア業界において急成長を遂げる同社のデータ活用とリテール戦略に迫った。
 

「トータルヘルスケア」によるLTV向上


中村 ドラッグストアの全国総売上高は現在、前年比約6%増の成長を続けています。その中でもスギホールディングスは、直近の決算で約120%成長と群を抜いています。今回はスギホールディングスのDX、サプライチェーン、コーポレートブランディングを率いる森永和也さんに話を伺いながら、AI時代におけるデータ活用による体験設計と利益創出の可能性を探っていきます。

森永 私が入社した2019年当時、売上高は5000億ほどでした。そこから現在、2027年2月期の目標として掲げている売上高1兆円を1年前倒しで達成する見込みです。この成長にはいくつかの背景があり、ひとつは店舗戦略です。
 
スギホールディングス 執行役員SCM・DX・コーポレートブランディング担当
森永 和也 氏

2020年6月スギ薬局入社。社長室室長、取締役DX戦略本部副本部長、取締役DX戦略本部本部長を経て、2025年3月に執行役員SCM・DX・コーポレートブランディング担当に就任

従来、調剤併設型ドラッグストアをロードサイドや都心部の駅前に展開してきましたが、2024年に阪神調剤グループが傘下に入ったことで店舗数は一気に拡大し、現在は全国2200店超を展開しています。ただ、ご存じのように建設費の高騰や小売全体の出店競争があり、「面」の取り合いでは勝てないと認識しています。そこで考えるのは、皆さんと同様と思いますが、人が生まれてから亡くなるまでに必要なモノやサービスを「垂直」に揃えることです。

阪神調剤が大型病院やクリニックに隣接した専業調剤であることから、より医師や患者さまのニーズに応じた薬の提供を行えるようになり、ビジネス的にも収益性の改善につながっています。重病・難病の患者さまへのコミットを深めることで、介護や終末期にかかる場面でも、適切な価格で質の高いサービスを提供できるよう、他企業との連携を高め、有機的に店舗・事業を拡大していきたいと考えています。

健康なときから、残念ながらお亡くなりになるまでのすべてのライフステージにおいてお客さまに寄り添うことを目指す「トータルヘルスケア戦略」が、当社の目指す姿です。身近な店舗や拠点でお客さまとの接点を強化し、デジタルの力を使ってお客さまとのつながりをより深めていく戦略方針です。
 

中村 まさに顧客を軸にした「LTV」の考え方とピッタリ合う図式ですね。ここで中心となるデジタル活用について、私もさまざまな企業とやり取りさせていただいていますが、これだけDXが叫ばれる現在においても、デジタル投資に消極的なリーダーはまだまだ多いと感じます。御社はかなり早い段階からアプリや1to1マーケティングに取り組んでいる印象ですが、現在の杉浦克典社長の方針だったのでしょうか。
 
サントリー 広域営業本部 第2支社長 兼 デジタル戦略部 部長 リテールAI推進チーム シニアリーダー
中村 直人 氏

1992年入社、2011年営業推進本部、2020年広域営業本部第2支社長、2023年データ戦略部部長兼務

森永 そうですね。「トータルヘルスケア戦略」は現在の社長が2021年の就任時から掲げた戦略ですが、取締役会などで説得力を持って進めるためにも、裏付けとなる実績とデータが必要という認識を強く持っていました。ただ、当社において私たちのようなデジタル部隊が表に立つことはなく、ほぼすべての企画は商品本部のバイヤー主導です。

中村 デジタル部隊と商品部隊の連携はどのようにされているでしょうか。往々にして、両者の間には壁ができやすく、データ分析やアウトプットを商品やサービスに生かしたくても、スキルを持つ人材が社内にいないという課題に直面しがちですが…。

森永 デジタル部隊はバイヤーの商談や企画に役立つデータ、それもダッシュボードのような無機質なものではなく、根拠を伴った説明をするためのデータを1to1でつくりあげてきました。人材育成が追いつかない部分は外部人材を活用し、採用もハイスピードで行ってきました。

商品本部のやりたいことが理解できたら、それをつくる。その役割をここ4~5年で果たしてきて、じつは最近の組織改変で、ようやくこの部隊を丸ごと商品本部に移すことができました。背景にはここ数年、培ってきた信頼関係があると思います。

中村 投資の裏付けとなる実績にもつながっているわけですね。

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