リテールアジェンダ2025レポート #01
増収増益のスギホールディングス カギはデータを活用した顧客ロイヤル化戦略【リテールアジェンダ2025レポート】
2025/12/02
データの「幅」と「質」を高め、ロイヤル化を進める
中村 では、具体的なデータ収集・活用の方法について教えてください。
森永 「トータルヘルスケア戦略」の中心にあるのが「ロイヤルカスタマープログラム」、つまり「ポイントプログラム」です。アプリは全国でもうすぐ1500万ダウンロードとなり、そのうち約6割の方がアクティブで利用しています。残りは紙のカードを使っていらっしゃる会員も多いですが、店舗に来るお客さまの8~9割ほどのデータは取れていることになります。このデータの「幅」と「質」を高めながら分析して、新しい商品やサービスの開発につなげていく歯車を回し続けるのが、私の役割です。

スギ薬局アプリを使ってくださった方はご存じかと思いますが、ポイントが非常に貯まりやすくなっています。ポイントの原資はメーカーや卸業者さんに協力していただいて、お客さまにポイントが貯まれば売上として還ってくる。この高速回転を回しながら顧客定着を促し、関係企業と一緒に成長しようという考え方です。
ユーザーに届くクーポンは一律ではなく、ロイヤルユーザーに近づくほど高い頻度で高いインセンティブのクーポンが届き、よりロイヤル化を促す設計になっています。蓄積した会員データや購買情報から顧客特性を分析し、メルマガやクーポンなどの情報を自動的に複数のチャネルで出し分けています。
中村 購買データを分析する中で見えてきたことはありますか?
森永 カテゴリー・商品・来店頻度など、さまざまな構成をラディアル(放射状)に示したところ、粗利の構造がロイヤル・ミドル・ライト・新規などのお客さま層によって異なることがわかってきました。たとえば酒類の利益率は高くないですが、買われるお客さまの来店頻度は比較的高いです。しかも一緒に、おつまみに加えて、代理購買の場合は化粧品を買われたりする傾向があります。あくまで一例ですが、このように、あるカテゴリに手を打てば、来店頻度や粗利の高い購買行動にアプローチできる可能性が見えてきました。

ただひとつ、誤解のないように申し上げると、調剤のデータについては分析には使っても、販促には使わないことを絶対的なルールとしています。頭痛薬などOTC医薬品などを多く購入している方に対しては分析したデータを活用し「一度、病院に行かれてはいかがですか?」などと受診勧奨を行うことはあります。
中村 そうなんですね。今回のセッションテーマ「選ばれる店舗をどうつくるか」にも関わりますが、スギ薬局の店舗スタッフの方々は、アプリ操作などすごく丁寧に素早く教えてくれる印象が強いです。そのあたりの研修や、店舗でのデータ活用はどのようにされているんでしょうか。
森永 まず我々のお客さまは、アプリどころかスマホの操作にも不慣れでいらっしゃる方が多いです。そのため、アプリも複数の機能を盛り込みすぎると使っていただけなくなるので、いくつかのアプリなどに分散させています。それから、これも当社の強みですが、従業員全員がアプリやクーポンの操作方法を分かりやすく説明できるようになっています。
これには背景があり、自社でアプリを内製した際、従業員から見たユーザビリティを徹底的に改善しました。私はもちろん、役員や社長、副社長も含めて店舗を回って従業員の意見を聞き、数千のデータを収集した上で優先順位を決めて改善したので、従業員にとってかなり使いやすい仕様になっています。
店舗でのデータ活用については「デジタルコミュニケーション台帳」を始めています。化粧品からスタートして、現在は健康食品・サプリメント版も出しており、OTC医薬品版も計画しています。アプリを提示いただくとグループ店舗での購買履歴などがわかるようになっていて、アドバイスやソリューションの提供が行えます。どんなクーポンが出ているかもスタッフ側のタブレットで分かるようになっているので、クロージングに向けたひと押しもできます。
中村 可視化された購買データや調剤状況などを、店舗スタッフの方々も顧客ロイヤル化に活用されているのですね。
森永 もともと商圏も狭いので、店舗スタッフは顧客の顔と名前を把握していることが多いです。デジタルコミュニケーション台帳は現在のところ、コミュニケーションの密度をより高めるためのものという位置付けですね。
中村 この先、さらに顧客ロイヤル化に向けて考えていることはありますか?
森永 先ほど申し上げたように、データの深み、幅をどんどん広げていきたいです。2025年夏に「スギサポwalk+」というウォーキングアプリをリリースしました。体重や血圧などを楽しく記録することでお客さまにとってはポイントに変換できるスターが貯まり、当社としては健康に関する情報が取得できる。この「パーソナルヘルスレポート」に今後ますます力を入れていきたいです。他にも、カプセルホテルの運営企業や大学病院と連携して、出張でカプセルホテルを利用する方の睡眠に関する悩み解消を支援する取り組みも始めようとしています。
こういったデータ収集・分析の目的は、健康に不安のある方に受診勧奨や適切な情報提供を働きかけていくことです。やはり病気は、早期発見・早期治療がポイントですから。
中村 データが蓄積されればされるほど、効率化が必要となってきます。森永さんは今後、AIをどう活用していこうとお考えですか?
森永 デスクワークや会議の手間をAIで代替して減らす取り組みは他企業と同様に進めています。店舗業務の効率化については、全国2200以上ある店舗から正確なデータを集める「店舗カルテ」を整えている最中です。3年ほどかけていますが、途上にあります。これが整えば、配送の最適な時間帯や店舗の最適な人員配置、オペレーション、接客のタイミングなどさまざまなことに活用ができ、ひいては出店戦略にもつながります。
中村 デジタル活用による物流を含めたサプライチェーン最適化も考えていらっしゃるんでしょうか。
森永 あまりに大きな話なので、逆に、細かな部分でしかお答えできませんが…。がんなどの重大な疾患の薬のなかには、2~8℃の温度帯で管理が必要なものもあります。これを患者さまに正しく安全に届けようとすると、出荷から自宅までをコールドチェーンで結ばなくてはなりません。現在、それらは製薬メーカーのMRが軽トラに専用の設備を積んで届けています。当社はまだ、そこまでは実現できていないのが実態です。
お客さまの手元に届く商品がチョコレートであろうが、ビールであろうが、これらの重大な薬であろうが、安心安全な状態を担保し、それを可視化してお届けしたい。壮大な目標ですが、ここ数年で実現したいと思っています。
中村 まだまだお聞きしたかったですが、時間が来てしまいました。本日はありがとうございました。
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