マーケティングアジェンダ2025

半年間でAIは日常業務に実装され、一周回ってヒトの役割は“人間らしさ”へ【マーケティングアジェンダ東京 参加レポート 多摩美術大学教授 佐藤達郎氏】

 

今年5月のマーケティングアジェンダ沖縄にも参加


 11月26日-27日の2日間、東京都庁近くの新宿住友ホールで、「マーケティングアジェンダ東京2025」が開催されました。筆者は、今年5月に3日間沖縄で開催された「マーケティングアジェンダ沖縄2025」に初参加し、このアジェンダノートでも前編後編の2回に分けてレポートを執筆しました。

 今回も250人ものトップマーケターが集結、メインテーマは「AIは市場を創造するのか」で半年前の沖縄とまったく同じもの。しかしそこで語られた内容は、半年で多くが様変わりしていて、いわば“空気感”がまったく異なっていると感じました。
 

“想像上の議論”が大半だった半年前から、今回はより具体的なディスカッションに


 AI活用の世界は、3ヵ月もすれば見える風景がガラッと変わる。AIを使い倒している人からはそうした発言をずいぶん聞いていましたが、そのことを実感した2日間でした。

 半年前5月の沖縄では、AIのさらなる広がりを予想して、「そうなった時のヒトの役割とは?」に多くの議論の時間が割かれていたように思います。それは今回と比較してみると、まだまだ想像の域を出ていなかった。
AI活用による業務の進化に対する大いなる期待感・ワクワクと、その時にヒトはいったい何をやればいいんだ?(仕事が無くなるのでは?)といった困惑が相半ばしていたのが、半年前の沖縄だったと思います。

 半年経って、多くの登壇者の方のお話の内容は格段に具体的になっていました。それはAI活用にしてもそうだし、ヒトがどう活動しているか?についても同様でした。

 例として、3つあるキーノートセッションのひとつである「AIの知能とマーケターの知能をどう使い分けるか」について、少し詳しく紹介しましょう。音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー代表取締役)をモデレーターに、岡本達也氏(味の素 執行役常務 食品事業本部副事業本部長兼マーケティングデザインセンター長)と鈴木章吾氏(日本プロサッカーリーグ〈Jリーグ〉 執行役員〈事業マーケティング担当〉 事業マーケティング本部本部長)のお二人のお話を伺いました。

※この後の登壇者の方の発言は、あくまでも筆者が聞いて解釈した内容なので、文責はすべて佐藤達郎にあります。
  
キーノート「AIの知能とマーケターの知能をどう使い分けるか」の登壇者の皆さん

 まず岡本さんのお話からは、味の素のマーケティングデザインセンターで、いかにAIが日常的に実装されているか、がヒシヒシと伝わってきました。スライドには「生成AIをマーケティングの“ど真ん中”で活用し、人の力と掛け算する」との記載。「人間は何をする?」と題されたスライドには「社員が大きな熱量を持って起爆剤となり、お客さまの熱量を上げる」と書かれていて、インフルエンサー向け新製品発表会の様子や「アミノバイタル アスリートクラブ」(トライアスリート向けの会員制コミュニティ)の事例が紹介されました。

 そして、鈴木さんのお話では、コンテンツ・クリエイティブや顧客管理・CRMの分野でAIを大いに活用されている様子が見えてきました。そして後半、人間の働きについて言及した部分では、「リーグ・クラブのマーケティング担当者は、ロジック化できない、ファン・サポーターの心理や熱量を反映させた施策に注力(むしろこれこそがAI活用の主目的であるとも言える)」と語られました。

 筆者は、正直驚きました。効率化をメインに語られるAI活用の文脈で、キーノートスピーカーである事業会社・事業組織のマーケティング責任者お二人の口から、期せずして同じ「熱量」という言葉が語られたことに、目が釘付けになりました。

 さらに岡本さんのお話の中に、「AIが爆速で企画書づくり等をしてくれるので、ヒト(社員)には時間的にもエネルギーとしても余裕ができているんですね」というお話が出てきました。「それで、私がメンバーに言っているのは、その余裕のぶん、例えば、毎日お客さんの声を対面で聞きに行けと。言ってみれば、ヒトはリアリティ担当になるので、そこに注力せよ、ということなんです」と岡本さん。
  
ラウンドテーブルに座って聞き入る参加者たち

 まとめると、AI活用による効率化の実装が本格化してきて、今後もさらに精緻になっていくことが予想される中で、ヒトの役割は、人間性・人間味・リアリティへの感性といった、いわば「人間らしさ」に、一周回って帰結していくのではないかと感じました。

 さて、筆者は、多くのAI活用や最先端テクノロジーを取り扱うイベントに顔を出していますが、この会がいちばん「アナログっぽい」と感じています。参加者はトランプのカードを使った抽選によって着席すべきラウンドテーブルが指定され(途中で席替えあり)、「ゆんたくタイム」(ゆんたくは、沖縄方言で「お喋り」の意味)と呼ばれるお喋りタイムや、「ネットワーキングブレイク」という人的交流の時間がふんだんに設けられています。

 つまり、会の性格そのものが、「AIによる効率化×人間らしさ」を体現している気がして、大変に興味深かったです。

ラウンドテーブルごとのディスカッションの様子
 

「Agenda Award」で感じた、若い力とベテラン勢の掛け算の重要性


 さて、もうひとつご紹介したいのが「Agenda Award(アジェンダアワード)」についてです。

 マーケティングアジェンダには、大きく分けて2種類の参加者がいます。一方は「ブランド」と呼ばれる事業会社側の方々であり、もう一方は「パートナー」と呼ばれるサービスベンダー側の方々です。例えば、味の素やセブンイレブンは「ブランド」の方々であり、博報堂やヤプリは「パートナー」の方々となります(筆者自身はまた別の枠組みである「アンバサダー」枠でした)。

 2日間の最後のコーナーとして行われるのが、パートナー側のプレゼンについてブランド側の方々による投票が行われ、トップ3が選ばれて表彰されるというAgenda Awardです。
  
Agenda Awardの発表が始まります

 その1位、2位に選ばれたのは、大企業のベテラン社員ではなく、ベンチャー企業系の20~30代前半と思われるお若いお二人でした。僕もその企業のプレゼンは拝聴しましたが、“若さ”とか“フレッシュさ”とか“未来への力”を感じると同時に、しっかりした内容を併せ持っていて、多くのプレゼンの中から1位と2位に選ばれることにも納得がいきました。

 AIは爆速で進化していて、とにかく新規性の強い分野ではありますが、それを組織の中でしっかりとビジネスにつなげていく必要があります。こうした若い力とベテラン勢の掛け算は、AI活用とヒトの力の掛け算と同じく、ますます必須のものになっていくでしょう。
  
Agenda Award受賞者の皆さん

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