リテールアジェンダ2025レポート #04

平和堂とパルが語る、データ・AI活用が導く「勝てるリテールビジネス」とは【リテールアジェンダ2025レポート】

前回の記事:
西友買収のトライアルが店舗とデータ活用で切り拓く流通業の未来【リテールアジェンダ2025レポート】
 国内外のリテールとメーカーのマーケターが集結するカンファレンス「リテールアジェンダ2025」(ナノベーション主催)が9月11-12日、東京都渋谷区のEBiS303で開催された。200人あまりが参加し、小売ビジネス・マーケティングの最新潮流が共有され、議論とネットワーキングが交わされた。

 初日のスペシャルセッションは「平和堂・パルが語る、データとAI活用で勝ち抜く『リテールビジネス成長』の条件」をテーマに、平和堂 クロステック企画部長の宮領康博氏、パル 取締役 専務執行役員 堀田覚氏が登壇。データ・AI活用に積極的に取り組む2社の事例を深掘ることで、嗜好の多様化、人手不足、コスト高騰など、かつてない変化にさらされるリテール業界で「勝ち抜く」ための方策を探った。モデレーターは店舗のICT活用研究所/小売DX合同会社 代表/代表社員 郡司昇氏が務めた。
 

成果主義とデータ分析でSNS活用


群司 私は年間500店舗以上の小売現場での一次情報体験をもとに知見を体系化し、小売業やIT企業にアドバイスを行っています。小売業の課題は「売上を上げる」と「経費を減らす」の2つに集約できると考えます。「経費を減らす」は、「人手が少なくても運営できる仕組み」や、残業や離職を減らす「働きやすい仕組み」を構築すれば達成可能です。また「売上を上げる」は主に、顧客数と顧客単価を上げるために「データに基づいた質の高い意思決定ができるかどうか」が勝負になります。本日はそれが実現されている2社のお話を聞ける貴重な機会です。
 
店舗のICT活用研究所/小売DX合同会社 代表/代表社員
郡司 昇 氏

1999年ランド設立。セイジョー(現ココカラファイン)とFC契約。 2007年セイジョー入社。調剤事業部課長→営業管理課長兼ココカラファインHD調剤担当で業務効率化・コスト削減・アライアンス等担当。2013年ココカラファインOEC社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。 2018年4月~現職。ITベンダーの持つ最新技術をどのように小売業で価値を持たせていくかをベンダー、小売業双方の三方良しを実現する手助けをしている。

堀田 パルグループは1973年に大阪で設立し、2025年2月期決算は売上高、経常利益とも過去最高を記録しました。ほとんどボトムアップ式で立ち上げたブランドが60ほどあり、店舗はM&Aによって1078店舗まで拡大しています。ECは他社と比較してかなり遅れていたのですが、2016年度から自社サイト運営の内製化をはじめ、EC売上高は2020年度に200億円、昨年度には500億円を達成し、中期計画として1000億円を目指すのが当面の私の大きなミッションです。
 
パル 取締役 専務執行役員
堀田 覚 氏

大学卒業後、大手アパレル企業に入社、婦人服の営業にはじまりVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)やMD、ブランド責任者を経験。 2009年 ハースト婦人画報社に入社。メディアコマースサイト「ELLE SHOP」の立ち上げとMDとマーケティング責任者として事業の成長に注力。2014年 パルに入社。現在は、EC、WEBシステム、プロモーション、SNS、CRM、DBマネジメントなどを管掌。

ここ10年、ECの売上を伸ばすために推進してきたのがスタッフ自身によるSNS活用とその評価です。これによって、よく指摘される「デジタルとリアルの対立」は解消され、EC売上が小規模だった頃の予算不足も補えると考えました。SNSを通して購買行動につながったことをきちんと可視化・評価し、成果を出した社員への報酬をマーケティングコストと捉えることにしたのです。コストを外部化せずに報酬にすることで社員の幸せにつなげる考え方です。

現在は全スタッフの3~4割にあたる約1900人が個人でInstagramやTikTokのアカウントを運用しており、そのうち1万人以上のフォロワーを持つスタッフは300人以上、総フォロワー数は2200万人にのぼります。これは一朝一夕でできたわけでなく、地道に取り組んできた結果です。数千のSNSアカウントをAPIで連携し、中で起きていることを可視化・分析しています。データの取得・分析にあたっては、SNSを取り巻く環境はどんどん変わるので、スタートアップ企業とも協業しています。データに基づいて仮説を立て、PDCAを回すことでさらにデータを取得し、次に生かしていきます。

たとえばフォロワー数を伸ばすには「こういう指標が伸びていると伸びやすい」という先行指標が必ずあるので、キーとなる指標を見つけKPI化します。ここで注意しなければならないのは、KPIを単なる数字として捉えてはいけないということです。「フォロワー数を伸ばす」は「火の用心」と同じでただの目標です。そのために何をすべきか、具体的なアクションに落とし込むまでデータを徹底的にブレイクダウン(分解)します。その過程でどうしても取れないデータは類推でもいいので、とにかくデータで物事を考える仕組みを徹底します。私も自分自身が意思決定するというよりは、データで「合っている」「間違っている」を判断するように心がけています。
 

データはアクションによって変化します。毎日データを見ることで解像度が上がり、次のアクションにつながるポイントを的確に捉えられるようになります。そのためポイントと思われるKPIの数字や事例は毎日、メールで社員に共有しています。また、当社は店舗出身の社員が多く在籍しているので、外部企業の協力を得て全員がSQL(データベース言語)を習得し、データを抽出・分析できるように指導しています。こういったことをしないと、本当のデータドリブンな文化や組織は醸成されないと思って取り組んでいます。

群司 SNSの運用と売上との相関は、簡単には明確化できません。「頑張ってSNS運用しているのに評価されない」と悩む小売関係者は多いと思いますが、貴社ではどのように結びつけていますか?

堀田 当社はもともと、自主性・自発性と成果主義、そしてこれは「小売業の真髄」と思いますが、どんどん変化することを重視する社風です。「個人でこれだけ成果を出すとこれだけの給与がもらえる」というのがきちんと数値化・可視化されれば理解されやすく、会社側もそうした成果に基づく評価の仕組みが洗練されているという土壌がありました。とは言え、どの貢献に対してどれだけ上乗せするかは難しい問題なので、最初はスモールに始めてみることです。それが評価されたという事実を少しずつ積み上げていくうちに、「これも評価したほうがいい」というのが見えてきて、制度改定を重ねていく。みんなが納得できる範囲で、タイミングを見定めて少しずつ攻めていくのが重要だと思います。

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