B2Bアジェンダ2025レポート #02

経営がBtoBマーケ組織に期待する役割とは?パナソニック コネクト関口氏が2人の経営層に深掘り【B2Bアジェンダ2025レポート】

前回の記事:
オムロンヘルスケアと考えるブランド再構築の要諦とマーケティング組織の貢献【B2Bアジェンダ2025レポート】
 国内最大級のBtoB特化型マーケティングカンファレンス「B2Bアジェンダ2025(主催:ナノベーション)」が2025年10月16~17日、静岡県沼津市(プラサ ヴェルデ)で開催された。今年は「Redesign for Growth BtoBマーケティング組織の『事業貢献』を再定義し、必要な基盤を整備する」をテーマに、事業成長の中核となるBtoBマーケティング組織のあり方を考えるセッションが多数展開された。

「マーケティングは経営そのもの」とも言われるが、ビジネス環境が激変する中、マーケティング組織は実際、どのような事業貢献が求められているのか。

本稿は「経営から見たBtoBマーケティング組織:期待する役割、理想のコミュニケーション」と題し、パナソニック コネクト デザイン&マーケティング本部 エグゼクティブ(デジタルカスタマーエクスペリエンス)兼ヴァイスプレジデント 現場ソリューションカンパニー 関口昭如氏がモデレーターを務め、ミスミ モデリング事業グループID企業体 企業体執行役員の柳沢将人氏と、ビザ・ワールドワイド・ジャパン マーケティング本部長 Vice President, CMO 里村明洋氏に聞いたセッションをレポートする。(役職・肩書きは当時)
 

マーケの仕事は「PDCA」


関口 パナソニック コネクトの関口です。本セッションは経営のボードメンバーであるお二人に、経営から見たマーケティング組織への期待やコミュニケーションについて語っていただきたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

柳沢 ミスミの柳沢と申します。ミスミは製造業向けの生産材、部品のECを運営している年商4000億円ほどの企業です。私は2016年に入社し、事業開発を担当しながらマーケティングは「隣の部署」という感じで見てきましたが、2022年から欧米・北米事業を管轄し、マーケティングを「自分ごと」として考えるようになりました。現在は2019年にスタートし、売上高150億円規模、世界5ヵ国で展開する機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」を含めた全事業を統括する立場となっています。本日は事業責任者の目線からマーケティングについてお話しできたらと思っています。
 
ミスミ モデリング事業グループ ID企業体 企業体執行役員
柳沢 将人 氏

 インクスに入社後、アマダマシンツールを経て2016年ミスミへ入社、ミスミの新規事業である「meviy」の事業開発に参画。meviyの開発、サービス立ち上げに従事。2018年より事業部長に就任、事業責任者として販売・開発部門を担当。2023年より企業体執行役員に就任、欧米事業統括としてグローバルでの事業成長を牽引。

里村 ビザ・ワールドワイド・ジャパンの里村と申します。普段は東京のサラリーマンですが、自己紹介は「関西出身の魚屋の息子」と書いております。人と違うことを言いたがるあまのじゃくと思ってください。本日はこれまで在籍した外資系の消費財やテック系、SaaSでの経験をベースにお話しできればと考えています。

関口 お二人とも現在は経営陣の一員ですが、経歴が全く違いますよね。柳沢さんはもともとマーケターではないけれど、事業責任者としてN1分析をやられて、現在はマーケティングも統括されている。一方、里村さんはマーケ畑からCMOになられた。どんな意見が出るのか楽しみです。まずは「マーケティングとは何か」に対する、ご自身の定義や認識を教えてください。
 
パナソニック コネクト デザイン&マーケティング本部 エグゼクティブ(デジタルカスタマーエクスペリエンス)兼ヴァイスプレジデント 現場ソリューションカンパニー
関口 昭如 氏

 日立に入社後、ルネサスエレクトロニクスなどのBtoB製造業企業において、デジタルを中心としたグローバルマーケティング、デマンドジェネレーションを牽引。2018年10月より、パナソニック コネクトにてデジタルマーケティング、カスタマーエクスペリエンス改革を断行中。また、筑波国立大学院等の教育機関にて教鞭も執る。博士。

柳沢 マーケティングの役割は3点あると思っています。1点目は、会場の皆さんには「釈迦に説法」となりますが、プロダクトの「価値」、つまり「便益×独自性」と、「誰に伝えるか」を定義することです。2点目はその「価値」を正しいチャネル・表現で伝えること。「とにかく手数」は一時期、社内でバズワード化したのですが、知られなければ存在しないも同じですから、とにかく手数を多く打ってPDCAを回すことが重要です。3点目が「データドリブンで活動するための基盤構築」。N1とマス両方の視点から情報・データを突き合わせ、アクションを考えていくことです。

例として当社のmeviyのトップページのメッセージ「3Dデータまとめて1分見積もり」を挙げます。この一言を決めるまでに、大量の顧客アンケートからニーズを汲み取り、便益×独自性の面でどのようなメッセージがいいか、3ヶ月ほどかけて練り上げています。このようなところにもマーケティングが貢献してくれています。



関口 ミスミには昔から注目していて、meviyも使ったことがあるのですが、いつも思うのは「いかにエンジニアの時間を短縮するか」を非常に追求されているということです。御社にとって「時間=価値」と見ているのですが、いかがですか?

柳沢 まさに、「我々が提供するのは『顧客時間価値』だ」と、社内でも明確に定義しており、お客さまの時間を短縮するために働いている、という強い意識を共有しています。

関口 それが分かりやすくトップメッセージにも表現されているのですね。では、里村さんもお願いします。

里村 私が考えるマーケティングは「最も柔軟性が求められる仕事」。「市場を創造する・変える」「態度変容」などと、いろいろな言われ方をしますが、結局は「PDCA」、トライ&エラーの繰り返しに収斂されると思います。

多様なカテゴリを経験してきた中で、なぜそのような考えに至ったかをご説明します。「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」「HOW(どうやって)」を定義しよう、とよく言われますが、「WHAT」をいくら定義しても「HOW」がうまくいかなかったら、やはり意味がないのです。パーパスやフレームワークはもちろんあった方がいいですが、店頭のコミュニケーションで伝わらない商品は買われません。そうなるとメッセージを店頭で瞬時に分かるものに変えなければならない。購買サイクルと必要なエンゲージメントによって、HOWは変わるし、HOWを介してWHATも変化します。そんな高い柔軟性を持ってトライ&エラーとPDCAを繰り返すことができる組織。それがマーケティングだと思っています。

関口 共通して「PDCA」が出ましたね。WHO、WHATが大事だと言われますが、整合するならHOWからやったっていい。「とにかく手数」、トライ&エラーを回すことが大事ということでした。

 

「ユーザーに一番近い存在」として果たせる役割


関口 お二人とも成長事業にチャレンジされてきましたが、成長事業においてマーケティングはどのような役割を担ってきたのでしょうか。柳沢さんからお願いします。

柳沢 当社のマーケティングチームは、「未認知顧客の認知から初回購入まで」を主に担当しており、サイトやメール、SNS、CMといった一般的なマーケティング活動のほか、「みんなで事業をつくっていく」という考え方に基づき、顧客サイトで小さな展示会をしたり、営業が使える事例動画を作成したりといった営業活動の支援も行っています。

同時に、営業やカスタマーサクセスまでを含めた情報基盤を構築・運用する役目も担っています。たとえば営業が作成する日報は毎日、事業部全員に自動配信されるようになっていますし、お客さまのサイト閲覧履歴や利用した機能などを可視化するシステムも構築してくれています。これらによって日々、私を含め全従業員がお客さまを身近に感じることができるので、非常に重要な活動だと思っています。こういった積み重ねによって、meviyのユーザー数はグローバルで20万人以上、オンライン部品調達サービスではシェア1位を獲得しています。

里村 私は、マーケティングは「潤滑油でありNorth Star」だと考えています。まず潤滑油について説明します。さまざまな部署とつながり、新しい価値を見出していくことは重要ですが、実はマーケティングが中心になるカテゴリと、そうではないカテゴリがあるのではないかと思うのです。

たとえばコンシューマーカンパニーにはブランドマネージャーがいますが、テクノロジーカンパニーにはプロダクトマネージャーがいて、ユーザーの定義やプロポジションをやっている場合があります。それでうまくいっている場合、わざわざ「マーケティングはこうあるべきだ」「定義はこうだ」などと、フローやオペレーションを変えようとする必要はありません。マーケティングはむしろそのオペレーションに入り込み「どう最大化させていくか」を考えた方がいいでしょう。

一方、もう少しユーザー視点を入れた方がいいケースもあります。ケース・バイ・ケースではありますが、どこでも大切なのは全体を見て、ユーザーをベースとした潤滑油になることです。ユーザーに最も近い存在として、企業をユーザーセントリックに導いたり、新しい事業をつくったりという役割が果たせると思います。

もうひとつの「North Star」とは、経営から見たマーケティングの最も重要な役割である「全社をまとめる指針」です。全員が共有できる目標をつくり、最終的に売上や利益につながる形に落とし込まなければなりません。とはいえ現実には、「自分の部署のKPIが良ければいい」と思っている人も少なからずいる。全社を同じ方向へ向かせるのは簡単ではありません。

関口 サイロ化してしまっている場合ですね。どうするのですか。

里村 たとえば、私がかつてCMOを務めたAdobeジャパンではみんながモチベーションを感じられるスローガンとして「心、おどる、デジタル」を掲げました。「心が躍るようなデジタル体験をつくろう」という意味から来ているのですが、このスローガンができたことで、バラバラに動いていた各事業がひとつにまとまり始めたのです。社員同士が「その活動、心躍ってる?」と声を掛け合うようになり、一種の判断基準として浸透していきました。

いわゆる「パーパスドリブン」に近い話ですが、これはマーケターにしかできない仕事ではないかと私は思っています。一方ではブランドとつながり、もう一方でユーザーとのインタラクションがあるからこそ、事業の本当の価値を言語化することができる。全社のモチベーションを形づくることこそ、マーケターの大きな役割であり強みであると感じました。

柳沢 素晴らしい活動だと思います。一方で、経営のミッション・ビジョン・バリューに近い定義づけをマーケティングから発信することに対して「乗れない」といった社内の反応や、「こっちの方がいいのでは」という経営陣などからの指摘があったりはしなかったのですか。

里村 おっしゃる通りです。ほぼ社内だけで共有するスローガンとはいえ、たとえば「創造から革新へ」とか、候補は他にもたくさんある中で、「これ」と決めるまでにはやはり、聞き取りや説得といった地道な作業が必要になることもあります。それでも最終的に決める時、大切なのはマーケティングが責任を持つこと。「これならみんなをインフルエンスできます。だからこれにします」と自信を持って言えることです。

たとえ話ですが、大阪・関西万博の「ミャクミャク」は、他にも見栄えのするキャラクター候補はいましたよね。それでも「これだ」と決めたことで、最初は「気持ち悪い」などと言われながら、最後は非常にユニークな存在としてヒットしました。

このあたりの「センス」のようなものは、ユーザーと常にインタラクションしているからこその感覚値があり、かつ、社内でもある程度「みんなが乗ってくれそう」というところが分かっているマーケターならではのものと言えます。逆に言えば、そこを決める自信・感覚というものが、マーケターには求められるのではないでしょうか。

柳沢 まとめる力、伝える力、カタチにする力。確かに、マーケ部門が一番強いかもしれませんね。非常に共感します。

関口 ありがとうございます。今の話と少し近いですが、あらためてマーケティング組織に期待する定量的・定性的な役割について、考えを聞かせてください。

柳沢 実務的な話になりますが、現在の事業で特に期待しているのは、新規ユーザーの獲得と既存顧客のロイヤルティ向上です。たとえば、meviyの細かな機能アップデートも都度プレスリリース等で積極的に発信することで、「常に成長している」という印象を与え、結果として信頼やブランド価値の向上につなげてもらっています。

また、社員が出演してmeviy の使い方を分かりやすく伝えるYouTubeやSNSなど、親しみやすい発信も強化しています。「meviyさん」と呼んでくださるお客さまもいて、meviyに対してキャラクターのような親近感を持ってくれていると感じることが増えました。アンケートをとると、新規顧客の6~7割は口コミ経由です。製造業において口コミは強力なツールなので、その基盤となる顧客ロイヤルティを向上できていることはマーケティングの大きな成果だと思います。やはり顧客に寄り添い、独自の価値を伝え続けることが、マーケティングに期待する重要な役割になります。

また、里村さんのお話とも関連しますが、ユーザー会の運営や、顧客の声のプロダクトへの反映、顧客企業と展示会に出演して顧客自身に価値を語ってもらうなど、社内外を「巻き込む力」にも、非常に期待しています。

さらなる事業成長に向けては、伝えるべき「顧客」と「価値」の再定義を模索しています。当社は現在、主なターゲット属性として「設計者」に集中していますが、今後は重要なステークホルダーである「購買部門」にも訴求していきたい。製造業は良くも悪くも「保守的」で、口コミがものを言う中で、いかに価値を知ってもらい、一般的な施策では動かない層にも動いてもらうか。顧客と一緒にイノベーションを起こしたいと考えており、チャネルの多様化も検討しています。

関口 BtoBの特徴として、「選ぶ人と使う人が別」ということは結構ありますよね。購買部門は設計者とはまた別の視点で商品を選別する。その人たちにも訴求する必要は確かにありますね。

柳沢 実際のところ、設計者が「欲しい」と思っても、購買部門が難色を示す場合もあります。価値を伝えるためには、多層的なアプローチが必要と思っています。

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