B2Bアジェンダ2025レポート #03

旭化成、LIXILと考える「利益体質」の組織づくり レベニューオペレーションを実現するデータ活用とプロセス改革とは【B2Bアジェンダ2025レポート】

前回の記事:
経営がBtoBマーケ組織に期待する役割とは?パナソニック コネクト関口氏が2人の経営層に深掘り【B2Bアジェンダ2025レポート】
 国内最大級のBtoB特化型マーケティングカンファレンス「B2Bアジェンダ2025(主催:ナノベーション)」が10月16~17日、静岡県沼津市(プラサ ヴェルデ)で開催された。今年は「Redesign for Growth BtoBマーケティング組織の『事業貢献』を再定義し、必要な基盤を整備する」をテーマに、事業成長の中核となるBtoBマーケティング組織のあり方を考えるセッションが多数展開された。

 初日のキーノートは「部門横断で利益体質の組織をつくる、データ活用・業務プロセス改革」と題し、旭化成 デジタル共創本部 DX戦略推進センター リードエキスパート(マーケティング領域)の鈴木岳氏と、LIXIL常務役員 CX部門リーダーの安井卓氏が登壇。NTTドコモビジネス グロースマーケティング推進室長の徳田泰幸氏がモデレーターを務め、近年注目を集めるRevOps(レベニューオペレーション)を軸に、顧客価値の最大化につながる部門連携や意識・プロセス改革の実践例を議論した。(役職・肩書きは当時)
 

「謎の集団」から「キラーパスを出す集団」へ


徳田 NTTドコモビジネスでビジネスソリューション本部事業推進部 グロースマーケティング推進室長をしている徳田と申します。本日は「部門横断で利益体質の組織をつくる」をテーマに、RevOps(マーケティング、営業、カスタマーサクセスといった収益に関わる部門を統合し、プロセス・データ・システムを統合・最適化して収益の最大化を目指す経営戦略)の仕組み化や関連するデータ活用、業務プロセスの改革について、旭化成とLIXILの取り組みをお聞きします。「マーケティングがどこまで介入すべきか」といった課題や、サイロ化を防ぐために必要なことについても絡めて議論できたらと思っています。

まずは2社の事例をお聞きし、その後、3P's(ピープル、プロセス、プラットフォーム)の中で大事にしていること、そしてRevOpsにおいて陥りがちな「穴」について伺います。では旭化成の鈴木さんから、お願いします。
 
NTTドコモビジネス ビジネスソリューション本部 事業推進部 グロースマーケティング推進室長
徳田 泰幸 氏

 法人営業を15年経験後、新規開拓営業組織の事業戦略担当を経て、2019年にイネーブルメント機能として社内組織であるData.Camp®を立ち上げる。2020年から3,500名の大手法人営業部隊のセールス・マーケティング戦略を担当し、2024年7月からはお客さまのデータドリブンセールス・マーケティング領域の推進に対するご支援・コンサルティング業務に従事。国内企業全体のイネーブルメントの発展と底上げを目指し、関連イベントにおいても多数講演。著書:『セールス・イネーブルメントの教科書』(イーストプレス)

鈴木 旭化成の鈴木です。DXを推進しているデジタル共創本部で、マーケティングのリードエキスパートとして従事しています。

私が所属していた、旭化成の電子部品部門である旭化成エレクトロニクスがデジタルマーケティング部を立ち上げたのは2020年のことです。皆さんにも心当たりがあると思いますが、コロナ禍で重要性が認識されたためです。とはいえ、設立間もない頃はデジタルマーケティングに対する社内の理解は十分でなく、開発や営業など他の部門からは「謎のWeb集団」のように言われるという立ち位置でした。
 
旭化成 デジタル共創本部 DX戦略推進センター リードエキスパート(マーケティング領域)
鈴木 岳 氏

 2024年3月まで、旭化成グループの旭化成エレクトロニクス(通称AKM)で25年以上、電子部品のマーケティングと営業に携わる。オーディオICブランド「VELVET SOUIND」のブランディングも推進。
2024年4月から旭化成本社のデジタル共創本部でマーケティング・営業のDX全社戦略を推進している。

実際、デジタルマーケティングは「アクセスがどれだけ来ているか」を重視する傾向がありましたが、それでは経営層にも営業にも響きません。そこで経営層へ響く発信ができる組織にするべく、事業戦略に沿った案件創出や、事業に直結するSQL(営業が対応すべき確度の高いリード)に注力することにしました。マーケティングの最も重要な役割は、やはり「花を持たせる」意味も含めて、営業にキラーパスを出すことだと考えたのです。

たとえば「売上上位30社のお客さまとの間に案件を生み出した」「今月はこういう案件を渡した」など、MQL(マーケティングで獲得した関心層)ではなくSQLを出していることを営業・開発のトップマネージャーがいる場でアピールしました。利益貢献に徹底してこだわることで、アクセス数ばかり稼ぐ「謎の集団」ではなく、「企業にとって意味のあるものを形にする組織」となることができました。



また、マーケティングオペレーションモデルを全社ルール化し、バリュープロポジションやスコアリングの基準、営業ハンドオフのルールづくりも行いました。これによって営業やマーケ、カスタマーサクセスなど、各部門が同じゴールと基準を見て動く組織づくりを実践しました。

その結果、2020年以降の獲得案件数は連続して増えています。KPIとして重視していた海外案件の比率も上昇しています。デジタルはあくまで「手法」ですが、「意味がある」と経営層にも理解してもらうことができ、さらなる人材・リソースの投入が促されています。営業部隊からも「おかげでこういう案件が生まれた」と言われることがありますし、我々の仕事に対して「こういう案件を生み出すために必要だったのか」と理解されることが増えました。

徳田 おそらく企業ごとに採るべきKPIは変わると思いますが、経営指標の中にマーケティング活動の事業貢献が明確に分かるような指標があると、社員に対してのメッセージにもなり、マーケティング部門の存在感も高まるのではと思いました。また、旭化成さんの場合、マーケから営業部門への受け渡し方や、営業部門側の受け取り方のプロセスについても、しっかりつくられている感じがしますね。

鈴木 そこを整備するのもなかなか大変で、まだ発展途上ではあります。

徳田 ありがとうございます。ではLIXILの安井さん、お願い致します。
 

プラットフォーム導入でコミュニケーションと部門連携を活性化


安井 LIXILの安井です。ソフトウェアエンジニアとして長年、開発に携わってきてLIXILは5社目です。2021年になぜか「マーケティングをやれ」と言われ、これまでで一番長い在籍期間となっています。現在は顧客接点を司るCX部門の統括とマーケティング関連システム部門のトップを担っています。
 
LIXIL 常務役員 CX部門リーダー
安井 卓 氏

 ソフトウェアエンジニア。2001年よりVA Linux Systems JapanやOSDNにて Slashdot Japan(現スラド)や SourceForge.JP(現 OSDN)を立ち上げ、日本でのオープンソースの普及の一翼を担う。2010年に楽天に転職。検索プラットフォームの開発・運用を行う。2014年にMonotaROに転職し、IT担当執行役としてECサイトの開発運用、基幹システムを含むIT部門全体を統括。2017年よりLIXILに転職。経営幹部として社内やサービスのデジタル変革や自社開発のためのプラットフォーム・組織構築に従事したのち、マーケティング全般をリード。

鈴木さん、徳田さんのお話とつながりますが、私もコミュニケーションを非常に重視しています。LIXILは、国内の建材・設備メーカーの大手5社が合併して2011年にできた会社です。各社の文化も異なっており、私が入社した当時は、隣に座っている人が何の業務をしているのかもよく分からない状態でした。社内で情報を入手するのが大変だったため、オープンコミュニケーションのためのプラットフォーム(Workplace、その後Workvivo)を導入しました。

ツールを導入して良かったタイミングは、やはりコロナ禍です。行動制限の多い時期に「自分たちの工場ではこんな工夫をしている」といった投稿がされ、部門や階層を超えたコミュニケーションが生まれました。これによって助け合いやコラボレーションがしやすい文化が生まれたと考えています。

徳田 一種の文化醸成ですね。RevOpsや組織連携においても、それ以前に「一体感のある文化がつくれているかどうか」が鍵を握ることがあります。

安井 コミュニケーションだけでなく、仕事の進め方も共通化しようと、デジタル・IT部門とマーケティング部門でスクラム(少人数チームによって短期間で開発サイクルを回すフレームワーク)と専用ツールを導入しています。お互いを知った上で、同じ動き方ができるようになりました。課題が出た際も週1回のミーティングを待つのではなくスピーディーに対応できるので、リードタイムを短縮できます。仕事の優先順位についても個々の組織にとっての順位ではなく、貢献利益やROIを重視して目線を合わせられるようになりました。

鈴木 仕事の共通化って結構、大変なことだと思うのですが、スクラムでは指導役のような人はいるのでしょうか。また、優先順位は誰が決め、どう共有しているのでしょうか。

安井 おっしゃる通り、スクラムも独自にやるとバラバラに動いてしまうので、最初は外部のアドバイザーに入ってもらいながら社内のコーチを育て、徐々に浸透させていくという形をとりました。 現在のように各チームでスクラムを回せるようになるまで、3年ほどかかっています。

優先順位については、部門ごとにバックログ(積み残し)をつくると「A部門とB部門のどちらの優先順位が高いのか」という話になりがちなので、CX部門全体のシングルバックログ化を進めています。部門のリーダー間でディスカッションして合意形成された優先順位を全員に共有し、それを毎月アップデートしています。

徳田 「どっちが大事か」というのは、部門がサイロ化すると起こりやすいです。組織間で優先課題の合意形成がしっかり仕組み化されているんですね。

安井 当社は事業部制のため、この仕組みが確立される前は、共通部門であるマーケティング部門に対して「うちの事業が優先だ」という声がさまざまな事業部から寄せられていました。しかし、何より大事なのはお客さまの体験です。目指すべき顧客体験を「CXツリー」として可視化し、一貫した顧客体験とコミュニケーションを目指すための仕組みを整えました。各ステージで追うべき指標を明確化し、各事業部のメンバーが同じ指標を見て活動する流れができています。CXツリーは現在はBtoC事業だけですが、BtoB事業のバージョンもつくり始めています。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録