B2Bアジェンダ2025レポート #04

NVIDIA、JTBに聞く「マーケティング組織が価値創造の旗振り役を担うための基盤」とは?【B2Bアジェンダ2025レポート】

前回の記事:
旭化成、LIXILと考える「利益体質」の組織づくり レベニューオペレーションを実現するデータ活用とプロセス改革とは【B2Bアジェンダ2025レポート】
 国内最大級のBtoB特化型マーケティングカンファレンス「B2Bアジェンダ2025(主催:ナノベーション)」が10月16~17日、静岡県沼津市(プラサ ヴェルデ)で開催された。今年は「Redesign for Growth BtoBマーケティング組織の『事業貢献』を再定義し、必要な基盤を整備する」をテーマに、事業成長の中核となるBtoBマーケティング組織のあり方を考えるセッションが多数展開された。

 2日目最初のキーノートは「マーケティング組織が価値創造の旗振り役を担うための基盤とは?」と題し、JTB 大阪第二事業部/事業部長 藤原健太郎氏と、エヌビディア エンタープライズ事業本部 事業本部長の井﨑武士氏が登壇。日本電気 マーケティング&アライアンス推進部門 マーケティングストラテジー&オペレーションズ統括部 マーケティングシニアディレクターの東海林直子氏がモデレーターを務め、マーケティング組織が本質的な役割である価値創造・市場創造に取り組み、事業成長に貢献するために必要な仕組みや改革、持つべき意識や姿勢について議論した。(役職・肩書きは当時)
 

営業拠点に「マーケ担当」を配置、総力を10倍に


東海林 本セッションのテーマは「マーケティング組織が価値創造の旗振り役を担うための基盤とは?」です。マーケターの役割はいろいろとあると思いますが、会場の皆さんの会社ではいかがでしょうか。「人を支える黒子」なのか、それとも「価値創造のリーダー」なのか、胸に手を当てて考えながらセッションを楽しんでいただけたらと思います。

本日、ご登壇いただくのはJTBの藤原さんと、NVIDIAの井﨑さんです。まずはお二人の自己紹介からお願いします。
 
日本電気 マーケティング&アライアンス推進部門 マーケティングストラテジー&オペレーションズ統括部 マーケティングシニアディレクター
東海林 直子 氏

 NEC入社後、通信ネットワークの間接販売を担当。2000年よりBIGLOBE事業で新サービス企画と営業支援を担う。2004年より全社デジタルマーケティング、インサイドセールスをリード。2023年からはMOps機能を立ち上げ、データドリブンマーケ基盤の整備と運用を統括、及びタッチポイントを統合した顧客エンゲージメント強化を推進。

藤原 JTBの藤原健太郎と申します。法人営業、地域交流の事業開発、MICE(会議、報奨・研修旅行、国際会議、展示会・イベントの総称)事業の営業推進とマーケティングを経て、BtoBマーケティングはコロナが始まる2020年から5年ほど携わっています。2025年2月より、営業部門である大阪第二事業部の責任者を務めています。会場には私よりマーケティング経験の豊富な方がたくさんいらっしゃると思いますが、5年間の試行錯誤をお話することで、少しでも皆さんの気づきになることがあればと思っています。

井﨑 NVIDIAの井﨑と申します。私はビジネス開発をずっとやってきました。半導体メーカーのTexas Instrumentsで12年間、エンジニアとしてソフトウェア開発にあたった後、事業開発、ビジネス開発を担ってきました。2015年にNVIDIAに転職したのは、「ディープラーニング」というAIの技術が世の中に少し知られるようになったくらいの頃でした。日本でもAIビジネスを始めようとしていたNVIDIAの国内1号社員として、当初はずっと一人でディープラーニングのビジネスをやってきました。現在は法人ビジネス全体を見ています。

1993年に創業したNVIDIAは、社員の9割はエンジニアです。半導体メーカーと呼ばれることが多く、ハードウェアをつくっているイメージが強いですが、じつはソフトウェアにも非常に力を入れています。「Accelerated Computing Platform Company」ということで、演算を高速化することで社会課題を解決するプラットフォームを提供する企業として活動しています。売上は日本円で言えば20兆円になりましたが、2017年にようやく1兆円を超えたことを考えると、ここ数年で急速に大きくなった会社だと思います。

外資系企業でしか働いたことがないので、今回、日本企業の方々のお話をすごく新鮮に感じており、勉強させていただきたいと思っております。

東海林 お二人とも営業や事業開発の顔をお持ちで、さまざまな視点からマーケティング組織のあり方を議論できると期待しています。まずはご自身が「価値創造」されてきたご経験を語っていただきましょう。では藤原さん、お願いします。

藤原 JTBは旅行会社というイメージが強いと思いますが、じつは2000年頃から企業のミーティングやイベントといったBtoB事業にもかなり力を入れています。「なぜ旅行するのか?」という目的を掘り下げていくと、次第に「顧客や従業員とのエンゲージメントを高めたい」という企業課題に突き当たるからです。「手段」としての旅行ではなく、「効果」の提供を追求し始めたことで、事業領域が大きく拡大しました。現在では旅行、ミーティング、イベントのほか、地域交流、HRコンサルティング(チームビルディング、ビジョン浸透施策など)、BPO業務(施設運営、福利厚生など)、プロモーション支援など多様化しています。
 
JTB大阪第二事業部/事業部長
藤原 健太郎 氏

 1998年入社後、法人営業、地域交流営業、MICE事業推進を担当。2020年より本部で法人マーケティングに従事し、マーケティング施策設計、デジタル基盤整備、グループ会社との連携業務を担当する。2022年4月より法人事業マーケティング責任者としてチームを統括。2025年2月より大阪第二事業部長として、主に企業マーケットへのソリューション提供を統括する。

ところが、コロナ禍を経て人流が再開したとき、一種の成長痛とも言える形で、現場の営業担当者が抱えるさまざまな課題が噴出しました。①事業領域の多様化・高度化に伴い営業担当者がすべてのソリューションを把握・理解できない、②「JTB=旅行会社」のイメージから、BtoBのソリューションに関心を持たれにくい、③コミュニケーションが希薄化し、対面営業が得意だったJTB営業担当者の強みを発揮できない、④コロナ禍で人財基盤(※)が脆弱化と、主に4つの課題がありました。

※JTBグループでは"人材"は「企業や組織の成長を支える財産となる大切なリソース」であるという意思を込め、"人財"と表記

そこで私たちマーケティングチームは営業を支援するために、大きく3つの取り組みをしました。「組織強化」「ターゲティング」「仕組み」です。まず「組織強化」については、2020年の発足時には4人だったBtoBマーケティング組織を、2024年度には10倍の40人にしました。どういうことかというと、主にデジタルマーケティングを行ってきた本部のメンバーを増強するだけではなく、リアルな営業拠点にも「マーケティング担当」を任命することで「営業+マーケティングのハイブリッド人財」を育成し、本部と合わせて「ワンチーム」で取り組む体制にしたのです。



次に「ターゲティング」です。JTBは従来、お客さまの選定からアプローチ、企画立案、受注、当日の添乗、精算までの流れすべてを営業担当者が担っており、スキルが属人的でターゲティングもバラバラという課題がありました。そこで本部のマーケティングチームが「勝ちパターン」を分析し、ターゲットとすべきアカウント、部署、キーパーソンをリスト化して提案するようになったことで、リスト化対象企業の売上総利益は2024年度には前年度比110%となりました。また、汲み取るべきニーズも明確化したことで、ミーティング・イベントサービス全体ではリスト対象企業の獲得率は29%増加し、これはリスト化しなかった企業の獲得率の向上と比較して6%多い、といった成果につながりました。

最後に「仕組み」です。以前はやはり営業担当者が、それぞれに営業トークを考えたり、アプローチツールをつくったりしていましたが、営業フェーズの進行を暗黙知から「仕組み」へ転換するために、受注へのステップを「階段設計」として可視化しました。フェーズごとに活用するコンテンツについても、これまでは「How(どうやって)」に寄りがちだったのを、「Who(どんな顧客に)」「What(どんな価値を)」を明確にすることで整理したアプローチシナリオを設計・共有しました。この「階段設計」の中には、JTB営業担当者が得意とするリアルな企画・コミュニケーション力を生かしたイベントなども含まれます。

東海林 営業担当者を巻き込むことでマーケティングチームの総力をアップさせるのはユニークですね。取り組み全体では何を指標にしてきたのでしょうか。

藤原 経営ボードからはやはり、売上総利益やROIを常に問われます。リード獲得数や認知率はもちろん指標としつつも、それだけでは、いくら上がったところで「それで?」となります。そこで、最終的には営業と連携して「売上総利益への貢献」にフォーカスすることで、「マーケティングによって効果が上がった」という理解を得てきました。

東海林 「巻き込まれる側」となる営業からは、冷たい目で見られなかったですか?

藤原 私たちマーケティングチームは営業出身者が多いので、営業の悩みどころをよく理解しています。そこで「こんなところが悩みだよね」と、どんどん働きかけていき、手が回っていないところをサポートするスタンスでいます。難解なマーケティングの専門用語などは使わず、「こういうふうに顧客やニーズを開拓していこう」という提案をしています。

東海林 専門用語を使うとそっぽを向かれてしまいますが、営業の方々を巻き込むためにパートナーになりきっているのですね。本部のマーケティングチームがセンタライズ、営業拠点でカスタマイズ・ローカライズするとのことですが、そのポイントはいかがですか?

藤原 本部で抽象度の高い大きなセグメントのコンテンツをつくり、各営業拠点のマーケティング担当者が目の前のお客さま用にカスタマイズしていくようにしました。営業拠点のマーケティング担当がアプローチをした後は、営業担当者も一緒に動く流れをつくりました。

東海林 なるほど。まさに「旗振りリーダー」としての、JTBマーケティングチームがイメージできた気がします。
 

日本のAI市場を創造


東海林 では、NVIDIAの井﨑さんからもお願いします。

井﨑  10年前、国内でディープラーニングについて知っている人はほとんどいない状況でした。私はさまざまな企業のホームページから「ディープラーニングについて話をさせてください」と飛び込み営業をしましたが、10社に1社程度しか返信はなく、それもたらい回しにされて結局は話も聞いてもらえない、というケースばかりでした。

そんな中でどのように市場創造していくか。じつは入社して2ヵ月後にCEOのJensen(ジェンスン・フアン氏)が来日し、ディープラーニングのビジネスをやっていた私は「売上のことを考えるな」と言われました。そんなわけで、私は2年ほど、売上のことは一切言われず、市場創造に専念できたのです。さらにJensenには「お前はクオーターバックになれ」とも言われました。要は市場のプレーヤーを選定し、全体を俯瞰して司令塔の役割を担え、ということです。
 
エヌビディア エンタープライズ事業本部 事業本部長
井﨑 武士 氏

 東京大学院修了。Texas Instrumentsで主にアプリケーションプロセッサ、信号処理ソフトウェアの開発に従事後、デジタル製品のビジネス開発部門責任者を経て、2015年にNVIDIA入社。ディープラーニングのビジネス開発部門責任者を経て、現在エンタープライズ事業本部を統括。一社) 日本ディープラーニング協会 理事、NEDO技術委員など兼任。

そこでプレーヤーを考えます。AIという全く新しい技術を最初に使っているのは、第一にアカデミアです。次に、当時は5社ほどしかいなかったAIのスタートアップ。次いで政府。AIを国の成長戦略に位置付け、投資してもらうためのロビー活動が必要です。そして本丸であるインダストリー。この4者をプレーヤーとして定義しました。

まずアカデミアに対しては東京大学の松尾豊先生らと協力し、ディープラーニングを広げるためのイベントや研修を行いました。学術的な文脈にGPU(大規模データ処理とAI計算を高速化するための専用プロセッサー)の露出を増やすことで、認知活動を進めていきました。

次にスタートアップには積極的にイベントに出ていただくなどして認知を上げ、企業との連携支援やGPUの割引サービスを実施するなどして成長を後押ししました。政府に対しては、経産省の担当部局と話をさせてもらい、「AIがこれから社会をどう変えるか」「国はどんな役割を果たすべきか」といった議論を進めました。産総研(産業技術総合研究所)が設置・運用する日本最大級のAIスパコン「ABCI」に当社のGPUを採用していただき、さまざまな業界でAI開発が進むよう仕掛けています。

インダストリーに関しては、ABCIの産業活用やスタートアップとの連携を加速することで、新しいAIビジネスをインダストリーの中に醸成していく活動をしました。また教育についても、教育コンテンツをつくるほか、投資家の理解を促進するためのアナリストリレーション、GTC(NVIDIA主催の世界最大級のAI・GPUカンファレンス)で披露される最新の海外事例の和訳発信などを行いました。このようにしてAI・GPUの市場を拡大していったのが、私の活動です。



この活動の中で、私はマーケティングチームを、戦略的な市場創造における完全なパートナーだと捉えて、一緒に取り組んできました。

象徴的な話があります。最初、私は一人で飛び込み営業していたと言いましたが、途中でフェーズが変わり、90人程度だったセミナーが1500人ほど集まるようになりました。この認知活動にもマーケティングチームに協力してもらったのですが、フェーズが変わったきっかけは広告でした。と言っても、まだ日本でAIがほとんど知られていない時代なので、お金はかけられません。そこでマーケティングチームに相談したところ、新幹線のグリーン車で配布されている雑誌『Wedge』に広告を打つアイデアが出ました。

AIの導入には、じつは非常にお金がかかります。そのためには経営層のジャッジメントが必要で、経営層にこそ情報を届けなければなりません。その点、『Wedge』は経営層に直接リーチできるし、しかも当時の広告費は他のビジネス系媒体に比べて安かった。そこにAIの記事を載せたところ、問い合わせが次々と来るようになり、ビジネスが回っていったのです。

上の図(日本市場開拓の変遷-AI)の緑の線は、私のディープラーニングの売上高の変化です。単位は書いておりませんが、ゼロから増えていったのがお分かりいただけると思います。2022年以降、ChatGPTが登場してからはまた動きが変わるのですが、これがマーケティングと一緒に市場創造していった軌跡です。

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