マーケティングアジェンダ2026 #25

開始0分でゴールド受賞 カギは予選通過後の「2ヵ月と40時間」の過ごし方 ー ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026 体験記【ゴールド受賞 サイバーエージェントチーム】

前回の記事:
沖縄で実践した「足で稼ぐ」企画 ー ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026 体験記【シルバー受賞 電通デジタル・Droga5 Tokyoチーム】
 2026年6月、毎年恒例の若手クリエイター向け企画コンペティション「ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026」が沖縄で開催されました。日本最大級のマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ」のプログラムのひとつとして、6月2日から4日の2泊3日で行われました。

参考:グランプリ受賞は伊藤忠インタラクティブチーム ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026結果発表

 激戦の末、見事受賞に至ったグランプリ1チーム・ゴールド2チーム・シルバー2チームの計5チームに、YCA2026の体験を振り返っていただきます。

 本記事の執筆者は、ゴールドを受賞したサイバーエージェント クリエイティブ新規事業部 Cybor局のプランナー 丸山優河氏と立田大貴氏。本選初日に行われた課題オリエンテーションを聞き終えた直後、つまり「開始0分」で、ゴールド受賞作品のアイデアに辿り着いていたという同チーム。その秘密は、予選通過が決まってから本選作品提出までの「2ヵ月と40時間」の過ごし方にあったといいます。
 

 

サイバーエージェント クリエイティブ新規事業部 Cybor局(新たな細胞)チームについて


 皆さまこんにちは!サイバーエージェント クリエイティブ新規事業部 Cybor局 というチームに所属している、丸山優河と立田大貴と申します。

 実務では「体験づくりをベースにしたブランディング」のプロジェクトを手掛けており、プランナーとして企画やコピーライディングの仕事をしています。

 今回、私たちのチームは、ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026でゴールドを受賞することができました。本レポートでは、このコンペをいかに“攻略”するかを考え、戦い方で工夫したポイントについて書きたいと思います。

 今後ヤング・クリエイティブ・アジェンダに参加される方や、企画コンペにチャレンジしようとしている方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。
 
丸山 優河
サイバーエージェント クリエイティブ新規事業本部 Cybor局
PRディレクター・プランナー・コピーライター

2016年よりPR会社プラップジャパンに勤め、2025年よりサイバーエージェントにジョイン。インサイト重視の広告プランニングとPRの知見を組み合わせた統合コミュニケーションの設計を強みとする。

【受賞歴】
・交通広告グランプリ 部門最優秀賞
・YoungLions国内選考 デジタル部門 SILVER
・販促コンペ ゴールド/審査員個人賞/協賛企業賞
・Metro Ad Creative Award プランニング部門 審査員特別賞/メトロアド賞/協賛企業賞
・宣伝会議賞 コピーゴールド
・ADC賞 入選
・朝日広告賞 新聞広告の部入選/デジタル連携の部入選
・オモコロ杯 アイデア部門 入選 他
 
立田大貴
サイバーエージェント クリエイティブ新規事業本部 Cybor局
プランナー

2019年に新卒で面白法人カヤックに入社。2026年よりサイバーエージェントにジョイン。SNSを中心に大きなバズを起こすコアアイデアの発想や、デジタルとリアルを横断する立体的な構造の企画設計が得意。

【受賞歴】
・ACC ブランデッド・コミュニケーション部門 Bカテゴリー ゴールド
・ACC クリエイティブイノベーション部門 ゴールド
・ACC フィルム部門 Bカテゴリー(Online Film) シルバー
・ACC ブランデッド・コミュニケーション部門 Cカテゴリー シルバー / ブロンズ
・広告電通賞ブランドエクスペリエンス部門プロダクト・サービス 金賞 / 銀賞
・広告電通賞イノベーティブアプローチ部門テクノロジー 金賞
・PRアワードグランプリ ゴールド
・広告業界の若手が選ぶ、コミュニケーション大賞( JAAA若手大賞 ) 優秀賞
・朝日広告賞 新聞広告の部 朝日新聞読者賞 他
 

受賞企画「実在する一般の方 “拝根さん” に、ハイネケンを広告してもらおう」


 さっそくですが、今回の課題と、ゴールドを受賞した私たちの企画について説明します。

課題はビールのハイネケン。オリエンテーションで、以下のポイントが伝えられました。

【課題】
  • 「外で飲むビール」のイメージが強いので、家で飲んでもらう機会をつくりたい
  • 家で飲んでもらうには、近くの小売店で買えることが重要。なのだが、ハイネケンはあまり小売店に卸せていない
  • なので、小売店が売りたくなる動機も一緒につくりたい。小売を巻き込める企画にしてほしい


 

 これに対して、私たちが提出した企画は以下です。

 


【戦略】
  • ビールの広告は、どこもメジャータレントを起用したキャンペーンで溢れている
  • しかし今の時代、「本当にそのビールが好きな人」の声のほうが人々に響くのではないか?
  • そこで、メジャータレントが群雄割拠するこの世界で、あえて一般の方を広告に大抜擢。逆張りでバズらせて「本当に好きな人の声」を届ける

【コアアイデア】
  • 沖縄県にのみ存在する激レア名字「拝根(ハイネ)」さんに着目
  • 実在する拝根さんの中で、ハイネケン好きを公表されている方をFacebookで発見
  • “真のハイネケンLOVER”の嘘偽りのない声で、CM・OOH・小売店の広告を埋め尽くす

 

 まず課題が発表された段階で、ハイネケンの担当者や審査員の方々から「難しいお題」という声が何度も聞かれました。企画を考えるヤングのチームたちも、全員その印象を抱いたのではないかと思います。

 ハードルとなる大きなポイントは、「ターゲットが“家飲み”と“小売店”の2つ存在する」という点でしょう。しかも、BtoBとBtoCが混在しています。

 ここで私たちは、アイデアの方向性が大きく2つに分かれるなと思いました。

【方向性1:整理の企画】
家飲みと小売店という距離のあるターゲットにちゃんと向き合い、しっかりオリエンに応えるプランに仕上げる。条件が複雑な時ほど効果的な、相対評価を狙う方針。

【方向性2:パワーの企画】
細かい条件をひっくり返すような、強い戦略やコアアイデアを優先し、展開の中で可能な限りオリエンに応える。視座の高さや話題化のスケールで勝負する、絶対評価を狙いにいく方針。

 私たちは、提出アイデアを見ての通り【方向性2:パワーの企画】の道を選びました。理由は3つありました。

1つ目は、ヤング・クリエイティブ・アジェンダの審査員はマーケターの方だということ。マーケティングの祭典の中のプログラムとして実施されるので、審査員もマーケターの方で構成されています。普段の仕事では「方向性1:整理の企画」に触れる機会が多いと思い、だからこそ、私たちがその方向で勝負すると、かえって予想を超えられないのではと思いました。「この発想はなかった」という印象をつくるには、「方向性2:パワーの企画」のほうに分があると思ったのです。オリエンが複雑だからこそ、他チームはこの戦略に踏み出しづらいだろうという中で、被りを避けられ、オリジナリティを出しやすいとも思いました。

2つ目は、「公開プレゼンがある」ということ。上位5チーム(=シルバー以上)に残れた場合、400人を超えるマーケターの方が見守るステージに立って、3分間のエキシビジョンプレゼンをする機会が設けられます。なので、会場が盛り上がる“プレゼン映えする企画”のほうを通そうとする気持ちが、審査員の胸中に無意識にでも浮かびやすいのでは、と考えました。求められるのは、細部のバランスよりも、一発で伝わって面白い企画。これを叶えるのに適しているのは 「方向性2:パワーの企画」のほうだと思いました。

3つ目は、僕ら二人のタイプがどちらも「方向性2:パワーの企画」寄りだったこと。海外広告賞を獲るような強くてシンプルな企画が好きで、普段もオリエンテーションの枠を超えていかに”飛ばす”提案ができるか、というチャレンジが好きな者同士で組んでいました。特別な舞台こそ、普段通りでいくのが吉。企画のパワーを考えたほうがいい結果につながるだろう、という共通認識がありました。

 こうした考えから、私たちは課題を聞いた瞬間に「パワーの企画で攻めよう」というモードで取り組み始めました。

 短期集中型のコンペでは、このクイックな意思決定が大切です。ヤング・クリエイティブ・アジェンダも、課題発表から40時間で企画書を完成させ、そのまま最終評価のプレゼンテーションに臨むコンペでした。

 かくしてオリエンテーションを聞き終えた・・・その直後、私たちはゴールドの受賞が確定しました。開始0分で、最終的に提出するアイデアに辿り着いていたのです。

 なぜそんな魔法のようなことが可能だったのか?今からカラクリをお教えします。
 

開始0分でゴールド受賞 このコンペならではの“攻略法”


 さて、先ほどこのコンペは「40時間」で企画書を仕上げる、とお伝えしました。すみません、表現に語弊がありましたのでお詫びします。正しくは「2ヵ月と40時間」、私たちのチームは考える時間を持っていました。

 ヤング・クリエイティブ・アジェンダの本選が始まったのは6月2日ですが、課題企業が発表されたのは、前年2025年の12月でした。
  AGENDA Note.:マーケティングアジェンダ2026 #02 ハイネケンが課題提供決定!若手クリエイターの企画コンペ「ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026」ー 本戦参加チームを選抜する「予選」実施も決定

 そう。オリエンテーションの詳細こそ当日まで分からないものの、「ハイネケンの課題を出すよ」ということだけは、半年も前から告知されていたのです。

 このように「課題企業だけを事前に発表するコンペ」は、実はちょこちょこ存在します。このタイプの戦場でガチるなら、締め切りまでの時間が短ければ短いほど、完全なオリエンが公開されるまで待つのは得策ではありません。限られた情報の中で、開始前からどれだけ筋のいいアイデアを膨らませられるか。この事前準備が結果に響いてきます。

 特にヤング・クリエイティブ・アジェンダは、私たちの知る限り【数十時間で企画書を仕上げる短期決戦コンペ】の中で唯一の【課題企業事前発表型】です。なので、日本に数ある広告コンペの中でも、この下準備の効果が最も発揮される場と言っても過言ではありません。

 今年は55組のチームがエントリー。予選が開催され、出場者が10組に絞られました。予選の通過が発表されたのは3月末だったので、私たちはそこから2ヵ月間、仕事が終わった後、夜な夜なオフィスで密会しアイデアを貯めました。この「アイデア貯金」の中にあったのが、まさにゴールドを受賞した企画そのものだったのです。
 

チームを受賞へ導く「筋のいい想定課題」の作り方


 では、コンペが始まる前に受賞を決めてしまうような、「筋のいいアイデア出し」をするには、どうすればよいのでしょうか。

 その答えは、「筋のいい想定課題」をつくることにかかっています。

 「筋のいい想定課題」とは、実際のオリエンの中身をビタ当てする、ということではありません。いや、それができれば最強じゃん・・・と思うかもしれませんが、実はもっと大事なことがあると感じています。

 それは、「このオリエンが出そうだ!!!」という確信を強く持てるか、ということです。

 仮に、今回のオリエンの正体であった【家飲み&小売の両取り】という課題を、自分たちで事前に思いつけたとしましょう。でも「これが本番で出る!」という確信は得にくいですよね。

 そう思えなければ、アイデアを考える頭には血が巡りません。オリエンをビタ当てできても、半信半疑のまま考えるのでは、賞を決め切るようなブレイクスルーは掴めません。

 どこまでいっても、蓋を開けてみないと本当のオリエンテーションは分からない。そんな中で、どれだけ強く課題を「確信」できるか。

 これが「アイデアを考える本気の時間」を生み出し、課題が合っていようと間違っていようと、あなたを受賞へ導く種になるのです。

 私たちは周辺情報をかき集めました。その中でピースになりそうな情報を繋ぎ合わせ、「絶対この中から出る」と確信できた想定課題を2つつくりました。

【周辺情報①−1】
ハイネケンの担当者の方の情報が公表されていた。
ハイネケン・ジャパン Marketing Directorの須田伸さんという方。
須田さんは、ハイネケンビールのブランディング施策の他、直近で「ハイネケン0.0」というノンアルコール版のハイネケンビールの国内マーケティングをリードされている経歴があった。
  AGENDA Note:マーケティングアジェンダ2026 グローバルブランドの“箱入り息子”をどう育てるか──ハイネケン・ジャパンのマーケティング戦略

【周辺情報①−2】
社会の潮流として「飲めない人は無理して飲まない」という考え方が定着し、「飲めない人も楽しめる飲み」を提供する商品やサービスがたくさん生まれている。飲めない人×お酒、のトレンドが定着している。



【想定課題①】
ノンアルコールビール「ハイネケン0.0」の認知・売上を高める企画

 
ハイネケン・ジャパン プレスリリースより

【周辺情報②-1】
審査員の中に、オリオンビール CMO マーケティング本部長の湖東彰彦さんという方が加わった。ヤング・クリエイティブ・アジェンダが開催されるのは、沖縄県宜野湾市。オリオンビールといえば、沖縄県の圧倒的シェアを誇るビールブランド。そのCMOの参戦。
  AGENDA Note.:「ドMになって困難な道を選ぶ」オリオンビールCMO 湖東彰彦氏のマーケティング論

【周辺情報②-2】
2026年10月に、沖縄県の酒類にかかる酒税軽減措置が廃止される。つまり、オリオンビールの酒税が上がり、値上げを余儀なくされる。
オリオンビール視点では「外のビールが入ってくることへの警戒」、ハイネケン視点では「沖縄進出のチャンス」が同時に生じる。
 
出典:朝日新聞「沖縄県産の酒税軽減措置、段階的廃止を決定 与党税調」



【想定課題②】
ハイネケンがオリオンビールと共生しながら、沖縄県内で認知・売上を高める企画

 

・・・

 はい、予想は大外れです。でも、いかにも出そうな課題だと思いませんか?

 この2課題に絞り「絶対どっちかじゃん!!!」と盲信できたことで、僕たちは本気のアイディエーションに2ヵ月取り組むことができました。

 かくして、沖縄に渡る前に「ノンアルコール×ハイネケン」と「沖縄×ハイネケン」で計10企画を考え、上司やプランナーの同僚に感触を伺いました(コンペ前の“ただの練習”なので、別にセーフですよね)。特に有望そうな企画は、キーとなるファクト・戦略・コアアイデア・展開案をテキストでまとめておきました。

 この中に、ゴールド受賞のアイデアそのものである【沖縄県在住 ハイネケン好きの一般の方・拝根(ハイネ)さん】の発見と、すでにドラフトされた企画書があったのです。

 課題の想定が外れていても、本気のアイディエーションの中で生まれた種は、ブランド全体の話題化につながる、太いインサイトに触れていることが多いです。

 あとはそれをコンペ当日、実際に発表された課題に沿ってチューニングするだけ。ここまで全て終えた状態でオリエンテーションを迎えた私たちには、「40時間の残り時間」がありました。

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