マーケティングアジェンダ東京2025レポート #02

業績好調 カンロ村田哲也社長と考える「AI時代のマーケティングと経営」【マーケティングアジェンダ東京2025レポート】

 

コア事業の原資をチャレンジ事業へ振り分け


加藤 2つ目の質問です。近年、消費者の価値観やライフスタイルは大きく変化しており、健康志向や機能性を重視する傾向も強まっていると感じます。こうした変化の中で、顧客ニーズをどう捉え、商品展開や販売チャネルに反映していますか。

村田 グミの売上はこの10年間、幅広い世代で大きく伸びています。男性の消費が増えていることに加え、一人当たりのグミ消費金額も10年間で約2倍となっています。つまり、グミを食べる人そのものが増える「間口の拡大」と、一人ひとりがより多く購入する「奥行きの深化」が同時に進んでいるということです。

加藤 感覚的に、グミは10代や20代を中心に支持されているイメージがありましたが、実際には30代、40代の喫食人口の伸びが大きいことに驚いています。親が子どものために買うケースも含まれていると思いますが、これほど幅広い世代へと間口が広がった背景を、どのように捉えていますか。

村田 グミ市場の拡大は、いくつかの要因が重なっていると考えています。一つは、ガムからグミへの需要の移行です。また、比較的罪悪感なく口にできる「ギルティフリー」という意識の広がりや、いわゆる「ご飯キャンセル界隈」に象徴されるように、食事の代わりや小腹を満たすものとしてグミを選ぶ動きも見られます。

さらに、コロナ禍を契機とした消費者との接点の変化も大きかったと考えています。外出制限の中で、ASMR動画(聴覚や視覚への刺激となる動画)や海外のグミを紹介する動画などが広く視聴され、グミそのものへの関心や楽しみ方が広がりました。味だけでなく、食感や音、見た目といった多様な価値が注目されるようになったことも、市場拡大の一因だと捉えています。

一方、飴市場では現在、のど飴が市場を大きくけん引しています。その背景には、予防意識を含めた心身両面の健康を大切にしたいという消費者意識の高まりがあります。こうした価値観やライフスタイルの変化が、グミや飴に求められる役割を広げ、実際の消費行動の変化にもつながっていると考えています。
  

加藤 一方で企業ニーズに関しては、ロングセラーブランドを持つ企業として、何を自社のコアとして磨き続け、何を変革していくのでしょうか。

村田 まずグミについては、幅広い世代の消費人口の増加、在宅需要の定着、競合メーカー含めた積極的な新商品投入や設備投資、輸入グミの参入などを背景に、今後も市場の拡大と活性化が続くと見込んでいます。2024年の1138億円から、2030年までに1500億円規模まで伸びていくと予測しています。

一方で飴市場は、2030年までほぼ横ばいで推移すると見ています。その背景には、供給側の減少など業界再編の影響も考えられますが、当社が特に課題と感じているのは、若年層への浸透です。若い世代に飴の魅力がなかなか伝わっていない状況を、どう打開して市場を維持・拡大していくか、メーカーとして向き合っていきたいと思っています。

また、中期経営計画を2024年に終えた段階で、今後に向けたさまざまな課題を整理しました。その中でも、次の大きな成長の源泉と位置付けているのが、グローバル事業とデジタル事業です。この二つの領域を通じて、価値創造と収益モデルの確立を目指していきます。

現在の事業ポートフォリオを見ると、国内のコア事業である飴・グミが圧倒的なウェイトを占めています。まずはこのコア事業をさらに強くし、そこで生み出した原資を両事業への成長投資に向けていきます。米国市場への本格進出のほか、直営店を展開する「ヒトツブカンロ」事業も、徐々に事業として存在感を増してきました。こうした国内で培った事業モデルについても、海外展開を視野に入れていきたいと考えています。
  

加藤 まず国内においてコア・コンピタンスを強固なものにし、そこで生み出した原資を新たなチャネルや成長領域へ再投資する。そして、国内で確立した成功モデルを、特にグローバルに展開していくということですね。

その成長戦略の軸となる考え方として、「カンロビジョン」のアップデートについてもお伺いできますか。

村田 「カンロビジョン2.0」は、パーパスである「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」を頂点とする、ピラミッド型の長期ビジョンです。今回、新たなビジョンとして「Sweetな瞬間を創り続けることで人々と社会に笑顔を。」を掲げました。その下に顧客などステークホルダーに提供するバリューとして「Sweetな瞬間を創造する」「事業基盤を変革する」「未来へ紡ぐ」という3つのプロミス、全ての土台に企業文化である「創発的な組織の更なる進化」があります。

社員には、毎年の事業計画や中期経営計画で設定された定量的な「目的」を達成するだけで満足するのではなく、その先にあるカンロビジョン2.0という長期的な「目標」と照らし合わせて、「自分が何をすべきか、会社がどうあるべきか」を一人ひとりが考えてほしいと呼びかけています。社内への浸透はこれからですが、カンロビジョン2.0は、日々の仕事と会社が目指す未来とを結びつけるものとして活用していきたいと考えています。

加藤 そのビジョンが実現された先には、我々消費者にはどんな世界が待っているのでしょうか。

村田 カンロの製品なら安全・安心と思っていただける、カンロの製品だから買ってみようと手に取っていただける。商品そのものの魅力はもちろんですが、カンロという企業やブランドへの信頼が、商品を選ぶ理由になる。そんな世界を思い描いています。
  

加藤 そうした世界を実現していくとなると、マーケティングに求められる役割もさらに高度なものになると思います。顧客を深く理解することと、そこから新たなバリューを生み出し、届けていくこと。この両輪をひとつの部門で担うのは、決して容易ではないのではないでしょうか。

村田 確かに、簡単なことではありません。しかし一方で、私はマーケティングとは「経営の意思」を反映するものだと考えています。社長に就任して以来、マーケティングを軸に組織改編を重ねてきました。元々の中心機能だった戦略立案と商品企画に加えて、ブランドやデジタルマーケティング、さらにはコーポレートコミュニケーションやEC事業まで取り込み、会社として実現したいことを一気通貫で進める体制をつくってきました。マーケティング部門を、さまざまな機能やアイデアが交わり、新たな価値を育てていく「庭」のような存在にしたいと考えています。

最近は、デジタルプラットフォームやEC事業の機能を一部分離するなど、事業の成長に合わせて組織のあり方を変化させています。ただ、引き続きマーケティングを中心に顧客を理解し、そこから生まれた価値を商品やブランド、コミュニケーションを通じて一貫して届けていくという基本的な考え方は変わりません。今後も、その体制をさらに進化させていきます。
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