マーケティングアジェンダ東京2025レポート #02

業績好調 カンロ村田哲也社長と考える「AI時代のマーケティングと経営」【マーケティングアジェンダ東京2025レポート】

 

AI活用には「個の力」がカギになる


加藤 Value Creation Zone(価値創造ゾーン)についても伺いたいと思います。AIをはじめとするテクノロジーが進化する時代、企業の価値創造のあり方も変わりつつあります。こうした時代に、カンロとしては何を進化させていきますか。

村田 AIは顕在化したニーズの発掘や、一人ひとりに最適な情報の提供、業務の効率化といった面で効果を発揮します。一方で、AI時代のマーケティングにおいて、むしろこれまで以上に重要になるのが「人間らしさ」だと考えています。

私が考える人間らしさとは、「個の力」です。一人ひとりが持つ個性、スキル、経験。これらを磨いてAI活用と掛け合わせることで、潜在ニーズを発掘した「商品価値」や、共感や交流を呼ぶ「体験価値」、そして顧客や社会と共に新たなナラティブを紡いでいく「共創価値」を生み出していくことが、これからのマーケティングには求められるのではないでしょうか。

加藤 そうした考え方が、すでに商品開発や顧客体験として形になっている事例があれば、ご紹介いただけますか。

村田 たとえば「味のしない?のど飴」は、我々もそれまで把握できていなかった潜在ニーズから生まれた商品です。リリースした途端に「こんな飴を待っていた」という声が毎週のように寄せられました。必ずしもマス市場を狙う商品ではないかもしれませんが、口腔に何らかの課題を持っておられるお客さまのニーズを捉え、それに応えることができた商品だと考えています。

加藤 潜在ニーズから新しい市場をつくるという意味では、現実には存在しない果実の味を実現した「空想果実」も非常に好調ですね。商品そのもののユニークさに加え、SNSやコミュニティサイトとの親和性も高いように感じます。

村田 私たちは、購買データやファン度、属性といった顧客データをECサイト「カンロポケット」などを通じて蓄積しています。ただ、データを集めて分析することだけが目的ではありません。そこから、お客さまにどのような情緒的な体験価値を提供できるかが重要だと考えています。そのため、コミュニティサイトやリアルイベントを通じてファンの皆さまと継続的な交流を行っています。

もうひとつ、共創という観点では、カンロ飴の誕生70周年を記念して、発祥の地である山口県光市と協働して市内の飲食店などに砂糖やみりんの代わりにカンロ飴を使うメニューを展開しました。これは単なる商品プロモーションではなく、地域への誘客につなげると同時に、カンロが持つ「食」としての可能性を広げ、ブランドの新たな魅力を発信する取り組みでもあります。企業だけで価値をつくるのではなく、地域やお客さまと一緒に新しい価値やストーリーを生み出していく。そうした共創の形も、今後さらに広げていきたいと考えています。

加藤 ありがとうございます。本日は、顧客ニーズ、企業ニーズ、そしてValue Creation Zone まで幅広くお話いただきました。最後に、AI時代の経営とマーケティングの在り方について、一言いただけますか。

村田 近年、マーケティングをバックグラウンドに持つ方が経営トップに就く企業が増えているように思います。それはやはり、マーケティング的な思考が、経営と非常に近いからではないでしょうか。

マーケティングに携わる皆さんは、日頃の業務の中で、限られた経営資源をどこに配分するのか、何を優先し、何を選択するのかといった意思決定を、小さなことから大きなことまで繰り返しておられるでしょう。そういった経験で培われたマーケティング思考は、将来、経営を担う立場になった時に必ず役立つバックグラウンドになります。

私自身は、マーケティングに特別長けているとは思いませんが、やはりマーケティングは経営戦略の重要な一部を担っていると考えます。当社の場合、マーケティングを担当する内山(常務執行役員マーケティング本部長 内山妙子氏)は、直感や感性を大切にするタイプです。そうした彼女の意見も聞きながら、一方で私はいつも「私が腹落ちするところまで伝えてほしい」と話しています。

経営とマーケティングは、それぞれが独立して動くのではなく、互いの考えを理解し合い、連携することで、初めてパフォーマンスを最大化できます。ですから、マーケティングに携わる皆さんが経営側と対話するときにも、「何を伝えるか」だけではなく、「どうすれば相手が腹落ちするのか」というところまで考えていただくと、経営との距離はさらに縮まっていくのではないでしょうか。

加藤 「腹落ちする」、そして「腹落ちさせる」。まさにAIだけでは代替できない、人間一人ひとりの経験や感性、対話する力が問われる部分なのかもしれません。本日は、AI時代だからこそ重要になる「個の力」から、それをマーケティング、さらには経営へとつなげていく考え方まで、大変貴重なお話をありがとうございました。
  
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