CESレポート #04

自動運転で“部屋化”する車、世界初の商用5Gサービスの“ちょっとしたズル”【CESレポート・電通 若園祐作】

5Gの出し惜しみ感とVerizonの説明にみる立ち上げの難しさ

 実は今回、筆者が特に期待していたのが、いわゆる5G関連の展示でしたが、今年のCESではそれほど大きな発表はみられませんでした。通信業界は、もともと1月のCESよりも2月のMWC (Mobile World Congress)に重点を置くことが恒例で、今年も同様であったようです。

 そんな状況の中で、特に展示が充実していたのは通信チップなど5Gにおいて重要な役割を担う企業であるQualcommのブースでした。携帯電話の展示以外には自動車、遠隔操作システム、VRでの活用といった比較的わかりやすい例を中心に展示していました。
 
図 7: Qualcommでは紹介動画、体験コンテンツ、5Gチップセットやその搭載スマホまでトータルに展示し、5Gのリーダーであることをアピールしていました。
 そしてCES 1日目の夕方に、5Gに関するキーノートを担ったのが、米国最大の通信キャリアかつ世界で初めて商用5G通信サービスを開始したVerizonです。5Gとはどんなもので、4Gよりも何が良くなり、4Gの時代からどう変わるのかの説明に大半の時間を費やしていました。

 一般的に5Gの特徴は3つ程度に区分することが多いのですが、VerizonのCEOによる熱意のあるプレゼンテーションでは5Gの特徴を8つに分け、多くのメリットと活用方法があることを観客に印象づけました。
 
図 8: 高速・低遅延・多接続・高信頼性が5Gの特徴として挙がりやすい中、Verizonは8つにまで細分化し、多くのメリットを説明していました。
 5Gとは、そもそも携帯電話以外での活用も考慮し、IoT業界をはじめとする様々な業界からの異なる要求・要請を受け止めてつくられた。単純に高速なだけではない、移動体通信の新規格です。

 しかし、消費者にとって、そのメリットを享受できる場所が携帯電話であるため、高速化以外のメリットを実感しづらいという問題があります。先日、Verizonの競合であるAT&Tが既存の4G回線のうち高速なもの(LTE-Advanced)を新たに“5G”と呼び始めてしまったというニュースがありました。もし消費者の体験が「速い4G」と「本物の5G」とでそれほど変わらないならば、両者を区別することに何の意味があるのか、マーケティング上とり得る選択肢ではないかという意見に、反論はしづらいのではないでしょうか(なお、3Gから4Gへの移行期にも同様の呼称問題は発生しました)。

 それだけ「本物の5G」は、誤解を生じやすくわかりづらい概念であり、現時点ではあらゆる人に対して丁寧に説明をしなければ、本当の価値を理解してもらえないのです。

 なお、5Gの正しい理解と普及活動という面では正しいことを行ったVerizonではありますが、実際の5Gサービスという面ではちょっとしたズルをしました。彼らが既に開始しているサービスは移動体通信ではなく、日本国内で言うSoftBank Airのような固定無線通信なのです。通常、移動体通信を行うためにはそれなりの面の広さで穴の少ないサービスエリアを先に構築し、受信端末も小型化・省電力化する必要があります。

 しかし、固定無線通信なら装置は大型かつ電力食いでも問題なく、サービスエリアも利用者の住所をピンポイントでカバーできていれば良いのです。5Gなら米国の平均的な自宅の固定回線よりも高速に通信できる可能性が高いので、Keynote中にあったように「実際の利用者の喜びの声」を偽りなく得ることができます。

 これで「世界で初めて商用5Gサービスを開始した事業者」という称号をもぎとったVerizonはなかなかしたたかだと言えるでしょう。
 
図 9: 世界で最初の5Gユーザーとの5G回線による生中継。この後の5G回線テストでの記録は690Mbps止まりではありましたが、日本より遅くなりがちな米国固定回線の置き換えと考えると魅力的ではあります。

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