クリエイティブ
ACC賞 注目部門リニューアルで広げる「広告の可能性」 新旧審査委員長 特別対談【前編】
2025/08/18
メディア環境を深く理解し、こだわり抜かれたクラフトを評価したい
ー BC部門は今年、カテゴリーをリニューアルしました。「デジタル・エクスペリエンス」から「デジタル・ソーシャルクラフト」にカテゴリー名を改め、現在のソーシャルメディア環境を理解し、こだわり抜いてつくられたデザインや体験を表彰することを強調されています。カテゴリー再編の構想は、尾上さんが審査委員長を務めていた2023-2024年からあったのでしょうか?
BC部門 カテゴリーリニューアルのBEFORE/AFTER
- 【BC部門 カテゴリー】BEFORE(~2024年)
▶︎Aカテゴリー : デジタル・エクスペリエンス
デジタルテクノロジーを活用した表現における卓越したデザインと優れたユーザーエクスペリエンス、クリエイティビティとクラフトマンシップを表彰する。
▶︎Bカテゴリー : プロモーション/アクティベーション
商品やサービスの購入や利用に対して、ターゲットの積極性を促すことができた、最も新しくて創造的なアイデアを表彰する。
▶︎Cカテゴリー : ソーシャル・インフルーエンス
ブランドのために創られた、ソーシャルメディアやデジタル上のコンテンツの優れたクリエイティビティや美しい設計、その拡散力を表彰する。
- 【BC部門 カテゴリー】AFTER(2025年~)
▶︎Aカテゴリー:プロモーション/アクティベーション
商品やサービスの購入や利用に対して、ターゲットの積極性を促すことができた最も新しくて創造的なアイデアを表彰する。
▶︎Bカテゴリー:ソーシャル・インフルーエンス
ブランドのために創られた、ソーシャルメディアやデジタル上のコンテンツの優れたクリエイティビティや美しい設計、拡散力、そしてコミュニケーションの質を表彰する。
▶︎Cカテゴリー:デジタル・ソーシャルクラフト【NEW】
デジタルテクノロジーを活用したり、現在のソーシャルメディア環境を活かした卓越したデザイン、ユーザーエクスペリエンス、クラフトマンシップを表彰する。
尾上 2023年の段階で、デジタル・エクスペリエンス(旧 Aカテゴリー)は応募数が減るなど、カテゴリーとして縮小する傾向にありました。ただ、素晴らしい作品が出てきているのは間違いなく、このカテゴリーがあることで生まれるソリューションが確かに存在するし、救われる仕事や制作者も多いと思う。カテゴリーを完全に無くすわけにはいかないものの、次の審査委員長に引き継ぐタイミングでは、何らかのテコ入れが必要だという話がたびたび出ていました。
「次の審査委員長は大変だなあ」と他人事のように考えていたのですが、同じ課題感をもつ者として、一緒に取り組むことになりました。
ー デジタル・エクスペリエンス領域が縮小傾向にあるのは、グローバル共通の傾向なのでしょうか? それとも、日本独自の問題なのでしょうか?
尾上 日本におけるデジタル・エクスペリエンスは、「こういう体験って面白いんじゃない?」「デジタルを活用した、こういう見せ方ってアリだよね」といった、演出を評価する性質が強いと思います。一方、グローバルでデジタル・エクスペリエンスとして評価されるのは、目の前にある課題をデジタルで解決する、仕組みやサービスに昇華されているレベルの施策が多い。日本では、そのあたりの施策は広告の範疇とみなされないためか、あまり応募がありません。デジタル・エクスペリエンスを、より発展的な形で残せないかと考え、今回のカテゴリーリニューアルに至りました。
ー カテゴリー再編の意図を教えてください。
栗林 これまでの枠組みの中で受賞していたものを排除することなく、これまで評価対象から外れていた作品もBC部門に取り込んでいきたいと思いました。たとえばAIなど、新しいテクノロジーを使ってこだわり抜いてつくったものとか。
デジタル・エクスペリエンスという名称だと、どのような作品が当てはまるのか想像しづらく、意図せず対象範囲を狭めてしまうような気がしていました。「デジタルクラフト」(※クラフト=技術・技巧)という名称にすることで、ユーザーの心に深く刺さる質の高い体験というニュアンスが強まり、評価できるものが増えそうだと思いました。
「デジタルクラフト」ではなく「デジタル・ソーシャルクラフト」にしたのは、デジタルとソーシャルでは、イメージされる作品が意外と異なると感じていたためです。加えて、ソーシャルメディアで展開される広告やコンテンツで、クラフトをこだわり抜いたものが評価される場があまりないという課題感もありました。たとえば過去評価されたもので言えば、「THE FIRST TAKE」は、ソーシャルメディアの環境を深く理解した上で、そこに最適化したコンテンツがこだわり抜いてつくられている。YouTube、X、TikTok……あらゆるソーシャルプラットフォームに存在している、こだわり抜かれたクラフトをもっとたくさん拾い上げたいと思いました。
「THE FIRST TAKE」は、アーティストの一発撮りのパフォーマンス動画を公開するYouTubeチャンネル。2019年11月15日に1本目の動画が投稿され、チャンネル登録者数は1000万人を超える。
尾上 ソーシャルインフルーエンス(Bカテゴリー)とデジタル・ソーシャルクラフト(Cカテゴリー)で、どちらに応募するか迷う人が多そうですが、両者の大きな差はなんでしょうね?
栗林 「(コミュニティがもつ文脈を深く理解した上で)いかに拡散を生み出したか?」を評価するのがソーシャルインフルーエンスで、「(メディア環境に最適化したコンテンツや体験で)いかに深く心を揺り動かしたか?」を評価するのがデジタル・ソーシャルクラフトですね!
尾上 たとえば「THE FIRST TAKE」は、拡散性もあるし、その文脈で生まれている表現でもあるから、両方に応募してもいいわけですね。
栗林 デジタル・ソーシャルクラフトというカテゴリーを考えるにあたって意識していたのは、「拡散力はそれほど高くないし、売上に直結するわけでもないけれど、触れた人の心に深く刺さり、質の高いブランド体験を提供するもの」をきちんと評価したいということです。
ショートやストーリーなど短尺のものを中心に、視聴維持率(動画の総再生時間に対する平均視聴時間の割合で表される。高いほどユーザーの興味を引いていると評価される)が非常に高いWeb広告がどんどん増えています。自分が関わった例になってしまいますが、たとえば「翠(SUI)」のシズルCMなどは、現代のショート動画時代に最適化しながら、クラフトを追求した事例になっていると感じます。
サントリージン翠(SUI)「翠×鍋 究極アニメ」
尾上 他部門と比較してBC部門は、審査過程で行われる議論が非常に活発です。審査期間の2日間、朝から晩までものすごく喋る。その議論の過程で、「どんな作品を良しとするか」の感覚がシンクロしていきます。
評価が拮抗すると、各審査員が推しの作品の“応援演説”をするのですが、それが非常に良い学びになります。最近の審査で印象的だったのが、「伊右衛門の車窓にて」(2024年 BC部門Cカテゴリーでブロンズを受賞)と、マクドナルドの「特別じゃない、しあわせな時間。」(2024年 BC部門Cカテゴリーでシルバーを受賞)が並んだ時に、前者を推して行われた応援演説。
「ソーシャルメディアにいる人たちの反応を引き出す様々な“癖(へき)”を詰め込んだ結果、単に話題になるだけでなく、続編が期待され、二次創作が始まっている。広告コンテンツでそんなことはなかなか起こらない」というものです。
このように、ソーシャルメディアにいる人たちに向けてつくられ、適切な広さ・深さで届いた作品を評価する場があるべきだと思ったので、「デジタル・ソーシャルクラフト」というカテゴリーを新設することには大賛成でした。
@suntoryfoodstiktok 兄弟仲良くどこかへと #伊右衛門の車窓にて ♬ オリジナル楽曲 - サントリー suntoryfoods【公式】
サントリー伊右衛門 「伊右衛門の車窓にて」篇
(後編に続く)
- 他の連載記事:
-
クリエイティブ の記事一覧
- 1
- 2