デザインとブランドはどこへゆく? AI時代のクリエイティブ談議 #02
NOZAWA GINを手がけた徳田祐司氏が語るデザイナーの役割 価値の送り手と受け手を繋ぐ「共感できる一貫性」の発見
2026/08/20
デジタルメディア・チャネルはますます多様化し、AIは驚くべきスピードで私たちの暮らしや仕事に浸透しつつあります。企業・ブランドを取り巻く環境が劇的に変化する中で、その企業・ブランドの「あり方」や「らしさ」を表現する際の考え方や方法論もまた、変化を迫られているのではないでしょうか。
ロゴや広告はもちろん、言葉やメッセージ、関係者の振る舞いを含むUI/UXまで。秋山具義(クリエイティブディレクター / アートディレクター)が、第一線で活躍するクリエイターとの対話を通じて、現代のブランド表現のあり方を問い直すとともに、これからのデザインの可能性を探ります。
今回は、ブランディングデザインカンパニー・canariaの代表でクリエイティブディレクターの徳田祐司氏をゲストに招き、「良い」デザインの本質や、これからの時代に求められるデザインについて議論しました。
企業ブランディング、商品企画、広告・コミュニケーションなど、広範で多様なプロジェクトを手掛け、国内外で多くのデザインアワードを受賞してきた徳田氏が考える、AI時代におけるデザイン役割、そして選ばれるブランドの共通点とは。
ロゴや広告はもちろん、言葉やメッセージ、関係者の振る舞いを含むUI/UXまで。秋山具義(クリエイティブディレクター / アートディレクター)が、第一線で活躍するクリエイターとの対話を通じて、現代のブランド表現のあり方を問い直すとともに、これからのデザインの可能性を探ります。
今回は、ブランディングデザインカンパニー・canariaの代表でクリエイティブディレクターの徳田祐司氏をゲストに招き、「良い」デザインの本質や、これからの時代に求められるデザインについて議論しました。
企業ブランディング、商品企画、広告・コミュニケーションなど、広範で多様なプロジェクトを手掛け、国内外で多くのデザインアワードを受賞してきた徳田氏が考える、AI時代におけるデザイン役割、そして選ばれるブランドの共通点とは。
送り手が伝えたい本質が、受け手の心にまっすぐ届くのが「良いデザイン」
ー AIの普及により誰もがある程度のデザインができるようになり、またスマホの普及でロゴひとつとっても表示される環境が劇的に変わっています。こうした変化の中で、クリエイターが変えるべきこと、変えてはいけないことについて、お二人の考えをお聞かせください。
秋山具義(以下、秋山) 第1回では僕自身の考えを書きましたが、今回はゲストをお迎えして、テーマをさらに掘り下げようということになりました。
徳田くんは、デザイナーとしてはもちろん、経営者としての視点も持っているし、AIについても深く考えている。きっと面白い議論ができるんじゃないかと思って、お声がけしました。
では早速ですが、徳田くんにとって「良いデザイン」とは何ですか。

秋山具義 氏
デイリーフレッシュ 代表取締役
クリエイティブディレクター/アートディレクター
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。日本大学芸術学部 デザイン学科 客員教授。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学 コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。著書に「こうやって、センスは生まれる」「世界はデザインでできている」「ファストアイデア25」がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。テレビ朝日『キッチンカー大作戦!』にグルメ賢者としてレギュラー出演中。2025年3月にカイカイキキのギャラリー「Hidari Zingaro」にて『秋山具義の陶芸展』開催。今年より作詞家としての活動も開始。
デイリーフレッシュ 代表取締役
クリエイティブディレクター/アートディレクター
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。日本大学芸術学部 デザイン学科 客員教授。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学 コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。著書に「こうやって、センスは生まれる」「世界はデザインでできている」「ファストアイデア25」がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。テレビ朝日『キッチンカー大作戦!』にグルメ賢者としてレギュラー出演中。2025年3月にカイカイキキのギャラリー「Hidari Zingaro」にて『秋山具義の陶芸展』開催。今年より作詞家としての活動も開始。
徳田祐司(以下、徳田) まず、「デザインとは何か?」という問いに対する、現時点での僕なりの考えは、「意思・計画・実装」です。
今、「デザイン」という言葉は、本当にさまざまな場面で使われています。ファッションやグラフィックはもちろん、サインや空間、インテリアの世界でもそうですし、生命保険会社が「ライフデザイン」という言葉を使ったりもします。
僕はサッカーが好きなんですが、試合の解説でも「このコーナーキックはデザインされていますね」といった表現が普通に使われるんですよね。
秋山 Jリーグが始まった頃、日本代表戦で、カズ(三浦知良)さんがコーナーキックから決めたゴールなんて、まさに「デザインされたプレー」だったよね(笑)。
徳田 そうそう(笑)。このように、いろいろな領域で「デザイン」という言葉が使われていますが、そこに共通しているのは、最初に必ず「意思」があることです。
「こういう社会にしたい」「この課題を解決したい」「もっと素敵な街にしたい」。まずそうした意思があり、それを実現するために計画を立て、最後に実装する。この「意思・計画・実装」の3つが、デザインという営みの本質だと考えています。
そう考えると、一見するとコンサルティングと領域が重なって見える部分もあります。ただ、大きく違うのは、コンサルティングが計画までを担うことが多いのに対して、僕たちデザイナーは最後の実装までを担っていることです。
最終的には、「色はこれ」「形はこれ」と、数千、数万ある選択肢の中からひとつを決断し、形にしなければならない。その覚悟を持って具現化することが、僕たちクリエイターの仕事であり、プライドでもあると思っています。
秋山 なるほど。では、「良いデザイン」というのは、どう判断すればいいんだろう。
徳田 もちろん、成果や効果が出ることは大前提です。でも、その効果の測り方は案件によって違うので、単純には言えないんですよね。
僕が大切にしているのは、「送り手が伝えたい本質が、受け手にまっすぐ届いているか」です。送り手には、「これを伝えたい」「こんな価値を届けたい」という軸があります。その軸がブレることなく、受け手の心にシャープに届くこと。僕はずっと「心に届く」ということをテーマに仕事をしてきました。
たとえ見た目が美しく、どれだけ洗練されていたとしても、それが送り手の本当に伝えたかったことと結びついていなければ、「良いデザイン」とは言えない。送り手の意思があり、それを実現する計画があり、最後に適切な実装が行われる。その結果として、人の心が動く。僕にとっての「良いデザイン」とは、そういうものですね。

徳田祐司 氏
canaria inc. 代表
クリエイティブディレクター、アートディレクター
1968年東京生まれ。電通入社後、数々の大型キャンペーンのアートディレクションを行い、アムステルダムのクリエイティブエージェンシーKesselsKramerにて、クリエイティブの可能性を広げる。2007年にデザインエージェンシーcanariaを設立。ブランド・プロダクト・プロジェクト開発からコミュニケーションまでの一貫したコンセプトメイキング及びトータルデザインにおけるクリエイティブディレクション&デザインを得意とする。代表作に、いろはす、FLOWFUSHI、野沢温泉蒸留所、日本酒プロデュースブランド WAZU、DUO、LOVECHROME、Royal Host Deli、finetoday、SPACEPORT CITY 未来事業構想、avatarin、パリ発フェイシャルサロン EN、吉乃川、deleteC、京中、等。国内外のデザイン賞にて最高賞を多数受賞し、世界から評価を得ている。受賞歴:iF DESIGN AWARD : 金賞、Red Dot Award : 最優秀賞、カンヌ広告賞:金賞、NY ADC賞:金銀賞、日本パッケージデザイン大賞:金銀銅賞など受賞多数。高度でインタラクティブな仮想体験・遠隔操作技術の実用化を目指す「avatarin」デザインパートナー。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員、日本パッケージデザイン協会(JPDA) 会員。
canaria inc. 代表
クリエイティブディレクター、アートディレクター
1968年東京生まれ。電通入社後、数々の大型キャンペーンのアートディレクションを行い、アムステルダムのクリエイティブエージェンシーKesselsKramerにて、クリエイティブの可能性を広げる。2007年にデザインエージェンシーcanariaを設立。ブランド・プロダクト・プロジェクト開発からコミュニケーションまでの一貫したコンセプトメイキング及びトータルデザインにおけるクリエイティブディレクション&デザインを得意とする。代表作に、いろはす、FLOWFUSHI、野沢温泉蒸留所、日本酒プロデュースブランド WAZU、DUO、LOVECHROME、Royal Host Deli、finetoday、SPACEPORT CITY 未来事業構想、avatarin、パリ発フェイシャルサロン EN、吉乃川、deleteC、京中、等。国内外のデザイン賞にて最高賞を多数受賞し、世界から評価を得ている。受賞歴:iF DESIGN AWARD : 金賞、Red Dot Award : 最優秀賞、カンヌ広告賞:金賞、NY ADC賞:金銀賞、日本パッケージデザイン大賞:金銀銅賞など受賞多数。高度でインタラクティブな仮想体験・遠隔操作技術の実用化を目指す「avatarin」デザインパートナー。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員、日本パッケージデザイン協会(JPDA) 会員。
デザイナーの体感を、語れるストーリーに変換する
秋山 徳田くんの仕事でいうと、バーやネオスナックなどでよく見かける、野沢温泉蒸留所の「NOZAWA GIN」のボトルデザインは、本当に良いデザインだと思うんだよね。
棚に並んでいるだけなのに存在感があって、不思議と動きが感じられる。まるでボトルのほうから呼びかけてくるような印象がある。
あのデザインは、どういうプロセスで生まれたの?

「サンフランシスコ・ワールドスピリッツ・コンペティション2026(SFWSC2026)」において、野沢温泉蒸留所のジン4銘柄が受賞。このうち「NOZAWA GIN(ノザワジン)」と「IWAI GIN(イワイジン)」は、最高金賞にあたるダブルゴールドを受賞した。iFデザイン賞2024 パッケージデザイン・ブランディング部門、レッドドット・デザイン賞2022 ブランド&コミュニケーションデザイン部門などデザイン賞でも高く評価された。
徳田 きっかけは、2020年に一本の連絡をもらったことでした。クライアントは、コカ・コーラ時代に「い・ろ・は・す」の開発を一緒に手がけた八尾良太郎さんとデイヴィッド・エルスワースさん。「野沢温泉村でクラフトジンをつくることになった。デザインをお願いできないか」と、10年ぶりくらいに声をかけてくれたんです。
「道祖神祭り」にちなんで、「神(GIN)」という名前にしようというのが、デイヴィッドの最初の案。僕は、まだ訪れたことがないのに「なんだか野沢温泉らしくない!」とストレートに却下しました(笑)。
そして初めて野沢温泉村を訪れたとき、正直に言って「なんと辺鄙な場所なんだろう」と思いました。もちろん温泉は素晴らしいし、「JAPOW」と呼ばれる世界有数の雪質を誇るスキー場もある。でも、それ以外には特別に何かがあるわけではない。逆に言えば、とても心地いい田舎なんです。
印象的だったのは、水でした。蒸留所でも村の湧き水を使っているんですが、とにかく柔らかくて、おいしい。
さらに2020年の夏、八尾さんと一緒に村を歩いていたとき、「野沢温泉村って、どこを歩いていても水の音が聞こえるんですよ」と言われたんです。言われてみると、本当にそうなんですよ。それから何度も村を訪れていますが、10回以上通った今でも、いつ訪れても、どこを歩いていても、水の流れる音が聞こえてくる。。
その体験から、僕の中でひとつのイメージが立ち上がりました。「今、自分は巨大な水の流れの上に立っている」。そんな感覚です。
目には見えないけれど、分厚く大きな水の循環の上で人は生きている。そのイメージと、「自然は守るべきものでもあり、畏れるべきものでもある」という感覚が、自分の中で重なっていったんです。
野沢温泉村の湧き水は、千曲川となり、やがて信濃川となって、日本海へと流れていく。この壮大な「水の巡り」こそが、このブランドの核になると思いました。水が、人も自然も文化もつないでいる。そこには、世界中の誰もが共感できる倫理観や、「共存共栄」という考え方まで含まれている。
そうして、この「水の巡り」をブランドコンセプトにしよう、と決めたんです。
秋山 八尾さんたちから最初にもらったオリエンテーションは、どんな内容だったの?
徳田 面白かったのは、八尾さんが一度も「ジンの美味しさをデザインしてほしい」とは言わなかったことなんです。彼が言ったのは、「野沢温泉村の素晴らしさを世界に伝えたい」「この村の財源になるブランドをつくりたい」の2つでした。
だから僕は、ジンの製法や味については、まだ内容も方針も決まっていなかったので、深くは聞きませんでした。それよりも、「この村の魅力は何だろう」と考えて、あちこち連れて行ってもらったんです。
そこで知ったのが、村の人たちの価値観でした。何か大きな決断をするときには、「50年後、100年後、子どもや孫たちの世代にとってプラスになるか」という視点で考えるというんです。
その循環を大切にする精神。自然と共生する姿勢。そして、お酒もまた自然からいただいた恵みであるという感覚。それらすべてが、「水の巡り」というひとつの言葉で結びついたんです。
秋山 4種類並べるとよくわかるけれど、それぞれ模様の形が全部違うんだね。

徳田 そう。水は、固定された形を持たないでしょう。「とてつもなく分厚い水の上に立っている」という感覚があったから、それを渦のようなグラフィックで表現しました。その中に、山や道祖神、伝説のスキーヤー・片桐匡さん、棚田、牛など、野沢温泉村を象徴する自然や文化のモチーフを配置しています。つまり、水の巡りの中で、人も文化も自然も共存している世界を描いたんです。
実は、中央にある四角形だけは、4種類すべて共通なんですよ。そこがブランドの原点であり、蒸留所を象徴するマークになっています。その外側を囲む「水の巡り」が変化し、それぞれの季節やストーリーを表現している。
現在では、この中央の四角形が野沢温泉蒸留所のシンボルマークとして使われています。
蒸留所は、いまや新しい観光スポットとして多くの人が訪れる場所になりました。以前の野沢温泉村は、野沢菜や温泉まんじゅうといった比較的手頃なお土産が中心でしたが、このブランドによって、この土地を訪れる富裕層にも選ばれる新しい価値を生み出せたと感じています。

秋山 村の人たちの反応はどうだった?
徳田 忘れもしないのが、2021年12月16日の蒸留所グランドオープンの日です。
完成したマークを見た村長さんが「これは野沢温泉村そのものだね。心から応援するよ」と言ってくださった。本当に嬉しかったですね。
その後、銀座で開かれた長野県の物産展でも、NOZAWA GINを会場のど真ん中に置いてくださったんです。そこで当時の富井俊雄村長と握手したとき、「受け入れてもらえた」と感じて、八尾さんと二人で思わず泣いてしまいました(笑)。
クリエイティブの誇りとは、送り手の思いと受け手の思いをつなぐことにあると、改めて思った瞬間でした。
その後、多くのバーでNOZAWA GINを見かけるようになった大きなきっかけは、世界三大酒類コンペティションのひとつ「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SFWSC)」で、4フレーバーすべてがゴールドを受賞したことだったと思います。さらに同じ時期に、世界三大デザイン賞の一つである「Red Dot Design Award」の最高賞「Best of the Best」も受賞しました。味とデザイン、その両方が世界的に評価されたことで、多くの人に興味を持っていただけた。
特に、有名なバーや目利きのバーテンダーの方々が、「水の巡り」という思想や、このジンが持つスピリットに共感してくださり、そこから口コミで広がっていったように感じています。
秋山 ストーリーがあるからこそ、バーテンダーの方も自信を持ってお客さんに紹介できるんだよね。
昔も今も、お酒が広がる一番大きな力は口コミだと思う。もちろん今はAIやSNSがきっかけになることも多いけれど、お酒という文化は、今でも「あの店で飲んだあれが良かった」というリアルな体験が、全国へ、そして世界へと広がっていく。
だからこそ、「語れるデザイン」であることが、とても大事なんだろうね。




メルマガ登録















